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ここはどこ

 真っ暗で何も見えない。

 背中は冷たくて、とても硬い。どうやら石の床に寝転んでるみたいだ。

 起き上がろうと身体を起こそうとしてすぐにおでこを思いっきりぶつける。

 痛みに呼応するよう反射的に動いた手足もすぐに何かにぶつかり、更に痛みに襲われる。

 改めてゆっくりと上に向かって手を伸ばすと、冷たい壁に手が触れる。そのまま一気に力を込めて押してみてもびくともしない。

 足をゆっくり曲げてみても膝が硬く冷たい壁に触れる。

 閉じ込められてる?

 そう考えてしまった途端に恐怖が内から込み上げてくる。

 そもそも何をしてたんだっけ?

 ここはどこ?

 いつから眠ってた?


「誰か!誰かいませんか!」


 咄嗟に声を出していた。けれど何も音は返ってこない。はぁっはぁっはぁっと自分の乱れた息遣いがうるさく響く。


「誰か!ここから出して…」


 上手く呼吸ができない。息が苦しい。落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。

 息をゆっくり吸って、ゆっくりと吐く。

 あぁ、きっと空気が薄くなってるんだ。なんだか喉も渇いてきた。

 何も思い出せないけど、こんなところに閉じ込められてるからには何かをしてしまったんだろうか。

 頭が締めつけられるみたいに痛い。怖い。こんなことなら目が覚めなきゃよかったな。

 今度はゴゴゴゴと音が聞こえてきた。頭が揺れる。頭の血管でも切れたのかな。

 ゴトーンと大きな音がして揺れが止む。

 ひんやりとした空気が流れ込むのを感じて、ゆっくりと手を伸ばしてみると壁が消えている。

 けどまだ真っ暗で何も見えない。


「誰かいるんですか?助けてくれてありがとうございます…」


 返事は返ってこない。

 恐る恐る身体を起こしてみる。どれだけ眠ってたんだろう。それとも硬いところで寝てたからだろうか。全身が痛い。


「誰もいない?あの…」


 やっぱり返事はない。その代わりに何か生暖かい風が当たる。


「何かいるの?」


 ゆっくりと風が来る方へ手を伸ばしてみると、何かの毛が触れる。暖かい。硬いけど柔らかい。さらさらで気持ちいい。

 夢中で撫でていたら、突然べちゃべちゃの何か包まれる。

 体が持ち上がり咄嗟に硬い何かを掴む。足だけがぷらぷらと多分飛び出ている。

 湿った何かがぐっと自分を天井に押し上げて身動きが出来ない。そのままゆっくりと何かが動き出す。

 何かは真っ暗でわからないけど、おそらく動物だろう。巣に持ち帰ってから食べられるんだろうか。全身が多分唾液でぬるぬるになってひとつ気づく。自分は多分全裸だ。服を着てたら、きっと濡れた服が張り付いて気持ち悪いはずだけどそんな感触はなく、ぬるま湯に浸かってるみたいな感じがする。

 さっきまでは恐怖でいっぱいだったのに、不思議と怖くないのはどうしてなんだろう。人じゃなくてもこれから食べられるのだとしても一人じゃなくなったからだろうか。

 足がぶらぶらと揺れる。

 やっぱり自分は罪人で、何かの罰で閉じ込められたんだろうか。わざわざ全裸にされるくらいだから余程のことをしたんだろう。

 何も思い出せないとはいえ、他人事みたいな感情しかわかない自分は悪人なんだろうかと考えていると光が差し込み、眩しくて目を瞑る。

 ゆっくり目を開くと白い物と白い物の間から遠くの木々が見える。

 目が慣れてくると白い物は牙で今いるのはやっぱり何かの口の中のようだ。背中は舌で包まれ、上顎にしっかりと押さえつけられている。

 どれだけ森を歩いているんだろうか。水の流れる音が聞こえてきた。

されるがままに身を委ねていると、ついに何かの足が止まる。

 ゆっくりと仰向けだった身体が起こり、足が地面について自分の重さで徐々に足の裏がチクチクする。

 ゆっくりと口が開き、優しく放してくれる。

 目の前には草木が生い茂り足元にはきれいな小川が流れている。

 どこの森なんだろう。ゆっくりと辺りを見渡していると、背中を優しく小突かれてもう一人の存在を思い出して振り向く。

 銀色の大きな犬、いや大きいから狼だろうか。


「ごめんね。助けてくれてありがとう」


 鼻先に近づいて優しく下顎を撫でる。

 おおきな尻尾がぶんぶんと左右に振られる。喜んでくれてるんだろうか。

 狼が顔を上げ身震いをすると背中が大きく広がり、風が巻き起こる。強い風に咄嗟に腕で顔を塞ぐと辺りが暗くなる。

 腕を下ろしてもまだ暗く、狼を見上げると大きな翼を広げてパタパタと小さく動かしていた。


「君はなんていう動物?」


 大きな翼を畳み、その場に伏せて、目を閉じてしまう。


「答えられるわけないか…」


 小川の淵にしゃがみ込み、水にそっと手を入れる。冷たくて気持ちいい。飲んでも大丈夫だろうか。

 両手で水を掬おうと水面に近づくと、見知らぬ顔が写り混む。長い長い黒髪に少し太めの眉、つり目がちのぱっちりとした目に茶色い瞳、鼻は低く、耳は丸い。どっちだろう。

 そのまま視線を水面から自分の足元へと移す。ついてないから女のようだ。

 立ち上がり、揺れる水面に目を凝らして自分の姿を確認する。そして自分の手でも確かめる。平らな胸に浮き出たあばら骨、ついてもなく毛も生えてない下半身。

 子供にしか見えないけど何も思い出せない。

 私は水を飲んで、涎でかぴかぴの身体を洗って、狼の横に寝転んだ。

 この森はどこなんだろう。これからどうしたらいいんだろう。

 あぁ、お米食べたいなぁ。

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