表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7

 あれからクローデットは、毎日生活を少しづつ改善しながらもダイエットを続けたおかげで痩せた。健康的な食生活をとりいれたおかげで、肌荒れもなくなった。


 12歳になったクローデットの容姿は、ゲームのクローデットに少し近づいていた。髪はしっかりと手入れされていて艶があり、少しつり目のぱっちりとした目は、輝くアメシストの瞳が魅了的だ。


 柔らかい印象を与えるメイクをしてもらっているおかげで、今は悪役令嬢とは程遠い。体の成長はこれからだが、痩せただけでなく肌も綺麗になったクローデットは、誰が見ても美少女でしかなかった。



 今年も王子の誕生日パーティーが王城で開かれる時期がやってきた。クローデットは、マクシミリアン殿下と同じ12歳。まだ未成年であり、同年代の子供達は社交デビューはしていないため、子供向けのパーティーは昼のお茶会として開催され、全貴族向けは夜に生誕祭として夜会が開催される。


 昼のパーティーの招待客は伯爵家以上の9歳から14歳までの令息令嬢となっている。9歳から14歳までと年齢が制限されているのは、マクシミリアン殿下と学園での在学期間が被る者を選んだから。さらに、パーティー参加者同士も、入学後には学友や先輩後輩となるため、それぞれが入学前に少しでも交流出来るようにとの計らいもある。



 招待状がアルトー家に届いてから、すぐにエルネストが訪ねてきて、衣装をお揃いにしたいと懇願してきた。


「クゥは、俺の婚約者なんだから、誰が見てもわかりやすい方が良いだろ? だから、色も合わせて、こんな感じでお揃いにしたいな」


 最初にエルネストから説明されたイメージは、誰が見ても完全にペアルックであり、色合いもお互いの瞳の色や髪の色を取り入れようとしていた。しかし、昼間のパーティー向きのデザインではなかった。


「エル、提案は嬉しいのだけれど、色やデザインも今回のパーティーには合わないんじゃないかしら?」


「そうか? でも、クゥには俺の色を纏っていてもらいたい。ここ数年で更に可愛くなっちゃったから余計に心配なんだ」


「心配?」


「あぁ。クゥは天使だからな。一目惚れするやつらが多そうだ。クゥが微笑むだけで落ちるやつもいると思うよ。だから、そんなやつらが出てきてもドレスだけで、俺のクゥだってわかるだろう?」


「天使って……。そんなに心配はいらないと思うわ。でも、そういう理由なら、パーティーでは、私がずっとエルのそばにいればいいのではなくて? だから、私のドレスの色は翡翠色に近くして、お揃いもこんな感じの刺繍にするのはどうかしら? それに、今、エルが考えてくれたデザインは、舞踏会のドレスに向いてると思うの」


「そうか。それなら、このドレスは社交界に出るようになったら贈るから、その時に着て。今回のパーティーでは、ずっと俺の傍にいてくれるんだろう?約束だよ」


 誕生日パーティーはお茶会なので、あまりにも派手であると浮いてしまう。話し合いの結果、さりげない刺繍をお揃いにする案をエルネストは受け入れた。




 誕生日パーティーの当日ーー

 クローデットはエルネストとルネと共に登城した。

 パーティー会場である庭園に到着した時、少し周りが騒めいた。薄らと聞こえてくる声には、「どなたかしら?」と言ったものが多い。



 それもそうだろう。クローデットが人前に姿を現したのは、2年前のマクシミリアン殿下の婚約者選定会が最後である。その時と今は、全く別人と言っていいほど見た目が違うのだ。誰も認識出来るわけがない。



 見知らぬ美少女の登場に、周りは誰であるかを探ろうとしていた。プラチナブロンドにアメシストの瞳のご令嬢は多くない。そして、一緒にいるのが、宰相子息のエルネスト・ジュリオである。エルネストの婚約者がクローデット・アルトーであると認識している者は、美少女がクローデットだろうと思い至った。そう認識しても、クローデットに会ったことがある者は、あまりの変わりように驚愕していた。



 そんな周りの様子は一切気にせずに、クローデットはエルネストとルネを誘って、食事が並べてあるエリアに向かい、食べ物の話で盛り上がっていた。

 お茶会に近いものではあるので、テーブルと椅子は全員が座れるように並べられている。紅茶やお菓子は各テーブルに置かれているが、お昼の時間であることから、夜会のように軽食や料理も用意されているコーナーもあった。



「パーティーが始まったら、すぐに殿下にお祝いの挨拶しなければならないから、今はまだ食べ始めてはダメだよ」


「えぇ、もちろんよ。それくらいは、ちゃんと理解してるわ。でも、どれも美味しそうね」


「挨拶が終わったら、食べられるから、その時はコレとコレとアレは俺と分けよう。クゥは出来る限り、全種類制覇したいだろ?」


「ありがとう。さすがエルね! 私のことよくわかってるわ。出来る限り食べたいと思っていたから、ここしばらくは運動をいつも以上に頑張っていたのよ!」


義姉様(ねぇさま)、それなら、僕とはコレとコレとソレを分けて食べましょう!」


「ルネもありがとう」



 3人で歓談していると、本日の主役であるマクシミリアン殿下が登場した。傍には得意気な顔をした婚約者、オデット・ロンサール侯爵令嬢がいた。


 エルネストもクローデットも公爵家であるため、率先して挨拶に向かう。目の前にいるのが、攻略対象であり、クローデットにとっては危険人物の一人である。少し緊張はしたが、そつなくお祝いを述べて、挨拶を終えることができた。


 クローデットは安堵した。今のところ、マクシミリアン殿下から嫌悪感を抱かれている印象はなかったからだ。その後は、エルネスト達と挨拶しておくべき人々のところへ行き、挨拶と少し会話をすることを繰り返した。一通り終えて、軽食や料理の置いてあるコーナーに戻り、給仕に指示を出す。


 テーブルにつくと、右側にエルネスト、左側にルネが座り、公の場であることを意識しつつ、それぞれ取り分けてもらい、3人は食事を楽しんだ。時々、挨拶に来る者達にはしっかりと対応した。


 ただでさえ美少女ということで注目を浴びていたクローデットが、食事をしながら楽しそうに幸せそうに笑う姿には何人も釘付けになっていた。近くで笑顔を見ようと、食事のテーブルにつく者も多かった。


 エルネストはもちろんそれに気付いており、クローデットに視線を向けている令息達を把握した。クローデットはたくさんの人からの視線は感じたが気にせずに食事を全制覇することに意識が向いていた。ルネもエルネスト同様、わかる範囲で把握しながらも、楽しそうに食事をするクローデットを見て満足していた。




 一方、マクシミリアン殿下は、挨拶に続々と来る人達を捌きながら、さり気なくクローデットを視界に入れていた。


 とても信じられなかった。


 パーティー会場に到着し、お祝いを述べるための列ができ、早めに挨拶に来た宰相子息は美少女と美少年を連れていた。こんな美少女は見たことはなかったはずだった。しかし、名前を言われて驚いた。

 クローデット・アルトーといえば、5年前の婚約者選定会で美しくないが印象的であり、候補から外した令嬢だったからだ。


 あの令嬢は、本来はこんなにも可愛かったのかと衝撃を受けた。相変わらずクローデットの振る舞いは完璧であった。そこに外見の美しさも加わり、見惚れてしまった。言葉を交わしている間は、頑張って平穏を装った。



 エルネストの婚約者であるとの紹介を受け、いつ婚約者になったのか気になったが、口には出さなかった。彼らはその後、挨拶回りをして、食事を楽しむことにしたようだった。そういえば、2年前も自分には見向きもせず、お菓子を食べていたということを思い出す。


 食事を楽しむクローデットを何度か自然に見たが、クローデットの花の綻ぶ様な幸せそうな笑顔はとても可愛くて印象的で、脳裏に焼き付いた。



 パーティーが終了すると、すぐに自室に籠った。

 自分の愚かさに悔やみきれなかった。なぜ、あの時、気づかなかったのか。なぜ、外見だけで受け付けないと判断してしまったのか……。クローデットの笑顔が頭に浮かぶ。


 しかし、今更気付いてももう遅い。クローデットはエルネストと仲睦まじく、自分にも婚約者がいるのだ。どうにも出来ない現状が悔しく、落ち込んだ。

 ふとした時にクローデットの笑顔を思い出し、自分の気持ちを自覚した。初恋となるクローデットに芽生えた気持ちは秘めることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ