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悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました  作者: 神村 結美


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 毎年初夏と冬に生徒会主催の『交流会』というイベントが開催されていて、このイベントは別名『プレ社交場』と呼ばれている。社交界デビューに向けてお茶会や夜会に近い場を作り、雰囲気に触れながら作法や手順をデビュー前に学ぶ擬似体験の場である。


 天星でもステラが能力に目覚めた後に攻略対象と仲を深めるためのイベントとして登場し、好感度の高いキャラクターを確認できるイベントでもある。


 覚醒後のステラの生活はガラリと変わった。周りからの扱いや環境が変わっただけでなく、誰もがステラとの縁を望んで仲良くなろうとする。交流会は接点を持つチャンスであり、挨拶に来る人が途切れず、丁寧に対応していたステラは疲れてしまう。用意されていたステラ用の個室で少し休むことにするが、その時に好感度の1番高いキャラクターがステラを心配して現れる。好感度がうまく上がっていない場合には、攻略対象は誰も現れず、1人でゆっくり休むことになる。


 ゲームでのイベントとしては学園3年目の夏前に発生するので、1年目である今はその辺りは関係ない。ただ、生徒会主催であることから、エルネストも生徒会の仕事が増えてしまい、最近はとても忙しくしている。結果として、学園でエルネストとクローデットが一緒にいる時間は格段に減った。少しでも一緒にいたいからと毎朝エルネストはクローデットを迎えにくる。


 昼食も別。クローデットは友人となったキャサリン、レイラ、セシリアと過ごし、その内の誰か、もしくは4人で食堂で昼食をとることが多くなった。


 エルネストはクローデットとの時間が減ったことには嘆いたが、クローデットが楽しそうに友人と過ごしていることについては喜ばしいと思っている。もちろんクローデットに余計な虫がつかないようにと彼女の友人達には強くお願いしている。



 クローデットはいつものようにキャサリン達と食堂に向かったが、その日は食堂の入り口近くでステラに遭遇した。直前になにか用でもあったのか、急いでいる様子でクローデットのすぐ横を通っていったのだ。ステラはこちらには目もくれず、食堂の入り口に着くとキョロキョロと周りを見渡して、食事を始めていた男爵令嬢と子爵令嬢の二人組を見つけると笑顔で彼女達に合流していた。



 ステラはクローデットに見向きもしていなかったが、クローデットはステラが気になっていた。せっかくの機会だからと、ほど良く距離がある席に座って、自然を装いながらステラの様子を窺った。友人と楽しそうに談笑しながら昼食をとっているステラは、学園生活にも慣れてきて、普通に楽しく過ごしているようだ。特に違和感や不自然な様子もなく至って普通の状態のステラを見て、クローデットがホッとしていると食堂に騒めきが広がった。


 皆が注目しているところには、マクシミリアン殿下と他の生徒会メンバーが勢揃いしている。


 マクシミリアン殿下が食堂に来たのは入学以来初めての出来事だと思われる。基本的には王族専用のラウンジか、生徒会メンバー用の個室で昼食を取っていると風の噂で聞いた。だから食堂の入り口に現れただけでこの騒ぎになるわけだ。


 エルネストから後で聞いたところによると、殿下が食堂に行ってみたいと言いだしたらしい。


 大人気の芸能人が街にいきなり現れた時にこんな感じの騒動になっていたなぁと遠い過去の記憶がよみがえった。クローデットはそのままぼんやりと生徒会メンバーを見ていたが、エルネストがクローデットに気づいて、生徒会のメンバーに一言二言伝えた後にクローデットの席にやってきた。


 座ってるクローデットを後ろから軽くギュっと抱きしめ、「クゥの補充~。あー癒される……」と周りには聞こえない囁き声で呟くエルネストによって、クローデットの意識がこの場に引き戻された。


「ふふっ。エル、ここは食堂よ」


 クローデットはもう少しエルネストの自由にさせてあげたいところではあったが、そのままでは食べにくい。かなり疲れてるのは明らかだったので、労いを込めて、エルネストの腕をポンポンと叩いた。


「ごめんごめん。最近クゥと全然一緒に居られないし、あまりの忙しさに癒されたくて」と、渋々腕を解き、クローデットの髪に軽くキスをした。少しだけでも満足したらしく、とてもいい笑顔になっている。


 人々は食堂に登場した生徒会メンバーに注目していたから、そこから1人だけ移動したエルネストを自然と目で追っていて、一連の行動を目撃してしまった。


 今2人は大注目を浴びており、衆目の中で堂々と仲睦まじさを見せる2人に観客はどよめいている。もちろん2人がご飯を一緒に食べているのは見たことがあったが、ハグや髪へのキスなど、お昼時の食堂で目にするものではない。令嬢達は黄色い声をあげていた。


 エルネストはそんな周りを一切気にせず、キャサリン達に一緒に昼食を取っても良いかと許可を取り、空いているクローデットの隣に座った。


「生徒会の方々とお昼は一緒じゃなくて良いの?」


「今は仕事じゃなくて、お昼の時間だからね。そんな決まりはないよ。せっかくクゥがいるのだから、クゥと一緒に食べるに決まってる」


「そう? それならいいわ。私もエルとお昼は久しぶりだから、一緒にご飯が食べられて嬉しいわ」


 周りを気にしないのはエルネストだけでなく、クローデットもであった。


「お二人とも本当に仲がよろしいわね~。ジュリオ様はクローデット様とお二人がよろしいのではなくて~?」


「クゥと一緒にお昼は食べたいけど、今回は俺の方が邪魔者だろ? クゥと君たち友人が食べているところに混ぜてもらっているんだから」


「私たちも邪魔とは思いませんわよ~? それに先ほどは交流会についてお話しをしていたところですもの~」


「あー、それ休憩中に聞きたくない言葉ナンバーワンだな……」


「準備で忙しそうですものね」


「ちょうどドレスの色について話し始めていたところよ」


「クローデット様のドレスはやはり翡翠色ですよね?」


「えぇ。エルが生徒会の仕事で忙しくなる前に交流会用に贈ってくれたの」


「さすがジュリオ様。仕事が早いですね」


「デビュタントは白って決まりがあるからね。疑似であっても今回の交流会が初めての夜会になるんだから、クゥに着て欲しいドレスはずっと昔から考えてたんだ」


 エルネストは笑顔でサラッと発言をしていたが、「ずっと昔から」という少し重めの愛が垣間見えて若干引きつつも、交流会のドレスから宝石、ダンスの話へと話題が変わりながら5人で会話が盛り上がっていた。


 エルネストの一連の行動を見ていたのは、もちろん食堂に居た生徒達だけではなく、生徒会の面々もである。


 ロンサール嬢は扇子で口元を隠しながら、「まぁ、なんてはしたないのかしら…」と言葉に不快さを隠さずに言っている。


「エルネストとアルトー公爵令嬢は本当に仲が良いのだな…」


「あ、あれが噂の婚約者様…! とても美味しいお菓子を作られる。あぁ…私も食べてみたいですわ…」


「自由……」


「そうですね。まぁ、でも学園のルールに違反しているわけでもないですし、彼らに気を取られていないで僕たちもお昼を食べましょう」


 生徒会メンバーが現れた時に、上級生達が座っていた窓際に近い一番良さそうな席が空いたのを確認していたブライアンが生徒会メンバーを誘導する。クローデットは皆と会話をしながらも殿下とステラが気になったので、そちらを見ていた。生徒会メンバーはステラの座っていたテーブルの横を通ったが、殿下がステラを見ることはなく、ステラも特に殿下だけを見つめたりすることもなかった。

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