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入団初日

「今日から入団するアルノルトよ。わからないことが多いと思うから、色々教えてあげてね」

「よろしくお願いします」


帰ってきてから一週間。私は早速アルノルトを魔術師団に入団させた。偏りはあるけれど、元々魔術は扱えるため、試験なしの特例だ。初級魔術師くらいの実力はあると判断した

みんな驚いた顔をしていて、変な時期に入ってきた新人に注目する。好奇の色が隠しきれていない。対するアルノルトは、そんな視線の数々を涼しい顔で受けている。魔族に囲まれているこの状況で、なかなかの肝の座り具合だ。


「とりあえず、基本私が教えるけれど、忙しい時はカイト、お願いね」

「はい」


さらにどよめきが広がった。普段はヘラヘラしていて、そんな感じはしないけれど、一応カイトは副団長。私がいない間に、魔術師団をまとめてくれていて、団員からの信頼も厚い。その副団長を教育係をつける、中々の高待遇だ。


「それじゃあ、解散!」


手を叩き、散らばるように促す。みんな気になるみたいだけれども、いつも通りの訓練を始めて行った。


「こっちも始めるわよ」

「はい」

「まぁ、そんな肩の力を入れずに、気長にいきましょう」

「はい」


さっきまでは堂々としていたのに、少し緊張したアルノルトの様子に、私は苦笑する。まぁ、いきなり言われても無理か。


「今使える魔法は、水球《ウォーターボール》、移動《ワープ》、染色《ダイング》、あと結界ね。まだ細かいのはあるけれど、大体使っていたのはこの4つね」


口に出してみたものの、なかなか鍛え甲斐のありそうな状況だ。

まず、攻撃系が1つも使えない。初級魔術である火球(ファイヤーボール)もすらも。その代わりに習得しているのは、中級魔術である染色《ダイング》、移動《ワープ》に至っては上級魔術だ。

正直、ものすごく偏っているがアルノルトは、魔術師として訓練されたわけではない。魔術が忌み嫌われているあの場所で、それを使わなくては、生きていけなかった。戦闘系の魔術なんていらないだろう。だって誰かの攻撃なんてしたら、ここぞとばかりに処罰される。使える魔術だけで伝わる、彼がいた環境が伝わって来た。


「自分の中の魔力は感じられる?」

「量はわかります。でもどこにあるのかはさっぱりわからないです」

「そう」


これまた不思議な特製だ。他人の魔力量も見えるらしい。


「人にも魔族にもね、魔力回路っていう、血管みたいな、魔力の通り道が全身に張り巡らされているの。心臓に近い場所で、魔力が作られて、全身に運ばれる。大体の場合、魔力の生産が魔力消費に追いつかないから、どんどん魔力は減っていくわ。もちろん、時間が立てば戻るし、年齢を重ねれば生産される魔力も増える」


大体の仕組みはこうだ。魔族にはもちろん、人間にもこの回路はあって、魔力回路に流れる魔力を感じ取れ、ある程度練習したら、誰でも魔術は使えるのだ。だから、魔力を感じずに魔術を使えるアルノルトは、例外中の例外と言える。


「そんなものが…」

「まぁ、自分で感じ取るのは難しいから、手をでしてくれないかしら」

「手ですか?」


アルノルトが不思議そうな顔で片手を差し出す。少し幼なげなその顔は、随分と年相応なものにみえた。


「今から魔力を流すわ。何か暖かいものを感じたら、それが魔力よ」


私は彼の手を握って言うと、少しずつ魔力を送った。


「あ」


その瞬間にアルノルトがバッとこちらをみた。身長はあまり変わらない上に、手を握っているから、いつもよりも距離が近いように感じた。


「わかった?じゃあ、それと一緒に自分の魔力を動かしてみましょうか」


やっぱり新しい感覚に最初は苦戦していたが、いくつかコツを伝えると、すぐにできるようになった。魔力が体から漏れている。


(ここまでくるかぁ)


上達が恐ろしく早い。間違いなく、この子はそのうち良い魔術師になる。私はそう予感し、口元に笑みを浮かべた。


「ここまでできたら、火球(ファイヤーボール)もやっちゃいましょうか」


そう言って私は嬉々として指導を始めたのだった。




遠くから向けられていた、とある視線には気付かずに……






お久しぶりです。3月には復活できるとか宣っていたくせに、もう3月の3分の1が終わろうとしているころにやっと更新できました、作者です。お待ちいただいた方、大変申し訳ないです。本日から復活となりますので、これから頑張ります。

いつも読んでいただき、ありがとうございます!!

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