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ろくに調べてないくせに

「……殿下のご婚約者は、ヴェイン公爵令嬢だったはずですが。情報の行き違いが合ったのかしら?」


情報の行き違いなんてありえない。嫌味以外の何者でもないが、このくらいは言ってやりたかった。


「……あぁ、あの女だったら、数ヶ月前に婚約破棄しましたよ。地味で、従順でおとなしいと思っていたのに、己を聖女と偽るとんだ腹黒女でしたから」


一応敬語が使えたらしい。何処かから指示でもとんできたのか、いきなり敬語になった。相変わらず態度が偉そうだけれど。にしても、散々な言い様だ。


「へぇ?」


思わずいつもより数段低くなった私の声にも気付かずに、第一王子は更に続ける。


「何より、嫉妬の末に我が国の宝である聖女を害そうとしましてね。学園でも散々嫌がらせをし、僕の愛するルチアを傷つけた。そんな女を国母にするわけにはいかないからな。王妃とは、心優しいルチアのような人がなるべきだ!」

「エド様…」


最後にはバッと決めポーズを決めて語った第一王子をルチアはうっとりとした表情で見つめる。完全に二人に世界が始まった。


(ばっかじゃないの!?何が腹黒女よ!リーリエはただに被害者じゃない!何も悪いことはしていない!それを自分の好みじゃないと邪険にしておきながら、邪魔になったら捨てた最低はあんたじゃない!!!ふざけんじゃないわよ。絶対この男、許さない…)


「アナ、落ち着いて。魔力が漏れている。確かにクズ極まりないし、ムカつくけれど、今殺したっていいことはないよ」


危うく我を忘れて暴走しそうになっていると、リアンが小声で止めてきた。チラリと上を見ると、リアンの表情は優しげなままだったけれど、目が笑っていなかった。実際にリーリエと接しているリアンもある程度イラついているのだろう、心底軽蔑した目をしている。


この話を始めたのは私だし、今すぐボコボコに言い負かしたいけれど、流石に場が悪い。今ここでそんなことしたら、エリーシェンとして築いた信頼が無くなってしまう。この男からの信頼なんて死んでもいらないが、国としての信頼は大事だ。落ち着け、私。


♪〜


ちょうどダンスタイムらしい。音楽が始まった。


「あぁ、もうそんな時間か。行こうか、ルチア。それでは、アナスタシア王女、我が国のパーティを是非お楽しみください」


(すでに楽しくないわ)


ファーストダンスのために去っていく二人の背中に悪態をつく。あぁしていると、仲のいい恋人そのものだ。実際は略奪恋愛だけれども。


王族のファーストダンスが終わったら、次は本客である私たちの番だ。会場の中央に移動しようとすると、リアンが一度エスコートしていた腕をはずして、こちらに手を差し出した。


「王女殿下、どうか私にあなたと踊る栄誉をいただけませんか」


(っ!)


「えぇ、よろしくてよ」


何食わぬ顔で手を取るが、心臓の音がうるさい。カッコ良すぎやさないだろうか。手を差し出す姿は、まるでどこかの国の王子のようで、あの男なんかよりずっと様になっていた。どうしてこうも美しいのか。顔が赤くなっていないか心配だ。


「アナ。大丈夫?」

「…えぇ」


ダンスが始まり、会話が周囲に聞かれる心配はなくなった。リアンが言っているのはさっきの事だろう。しかし、正直私は今の状況でいっぱいいっぱいだ。幼い頃から一緒にダンスの練習にしたから、合わせる必要はないし、無意識で体の動く。昔は平気だったはずなのに、今は妙に気恥ずかしい。


「ねぇリアン。正直この舞踏会での収穫はないと思うのよ。だから、このあと行きたいと場所があって」

「どこだい?」


貴族が王族に胡麻をするだけの舞踏会に興味はない。何か収穫があるかと思ってきたけれど、得られたものは怒りと、精々リアンとダンスができたことぐらいだ。それよりも行きたい場所がある。


「王宮の西棟よ」


魔力探知に引っかかったそこは、第一王子の腹違いの弟、第二王子が幽閉されていると言う塔だった。

ちなみに、第一王子の突然敬語使用は、アナベル達から見えない位置から、侍従がカンペを見せいていたらしいです。アナログ〜

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