舞踏会 side??
煌びやかなシャンデリアに、王家自慢の料理人達が腕を振るった豪勢な料理。そんな会場に集まる貴族達の装いも美しく、華やかだ。夫人や令嬢たちはドレスや装飾品の自慢、当主たちは各々権力者に媚を売ったり、賄賂についての話にいそしんでいる。
そんな舞踏会の様子を見て、おれは静かにため息を吐いた。
(腐ってる)
もっとも、ここまで貴族の腐敗が進んだのは、貴族の模範たる王家の人間が好き放題やっているからだ。建国パーティーなのに王妃は愛人と自室で過ごし、出席している第一王子も側近と共に、例の女といちゃついている。まぁ、酷い有様だ。
(というか、本当に気づかないな。こんなに近くで給仕しているのに)
いくら愛人の子でも、弟の顔くらい覚えてるものだと思っていたが、あいつらにとって俺を示すものは、髪色だけだったのだろう。その髪色すら《《魔術》》変えている今の姿では、わからないらしい。大丈夫か、この国。……そんなことを考えたって後ろ盾のない俺にどうにかできるわけでもないが。
(何か今の状態を脱却できる要素はないかと、給仕に変装してまで入り込んだが、収穫はないな。わかったのあいつが相変わらずお花畑の残念なやつだってことだけだ……そういえば、幻の国、エリーシェンの王女が来るって聞いたような。まぁいい。帰るか)
特にめぼしい情報もなく、俺は飲み物を撮りに行くふりをしてさっさと帰ろうと、踵を返した。しかし、タイミングが悪く、ラッパが高らかに音を鳴らした。誰かの入場だ。それが終わるまでは動けない。
「エリーシェン国より、アナスタシア王女殿下、並びにリアン・ランチェスター公爵子息のご入場です!」
衛兵によって開かれた扉から現れたのは、人組の男女だった。
シン…
会場の誰もが見惚れ、本来王女が入場した時にされる、拍手の一つも起こらない。感嘆のため息だけが聞こえるが、みな、微動だにしなかった。それもそのはずだろう。それほどまでに、男女の容姿は破壊的だった。
腰まで伸びたストロベリーブロンドの美しい髪。そして、切れ長な形を長いまつ毛が縁取る、まるで宝石をそのままはめ込んだような真紅の瞳。この世のものとは思えない、神が腕によりをかけて創造した、最高傑作なのではないかと錯覚してしまいそうなほど整った顔立ち。男の視線を集める、理想的な体型。彼女の魅力を最大限に引き立てているドレス。絶世の美女。この言葉がこんなにも似合う女性はいるだろうか。
その女性をエスコートするのは、彼女の美貌と並んでも引けを取らないほど見目が整った男性だった。冷たい印象を受ける銀色の髪だが、その顔立ちは真逆のもので、計算され尽くしたであろう優しげな笑みが浮かべられている。絶対に一人はご令嬢が倒れるだろう。破壊力がえげつない。
ふと、会場を見まわした王女と目が合った。
ゾワァッ
どっと冷や汗が出た。本能が警告している。あれに、手を出してはいけない、と。強い、なんて言葉では言い表せない。彼女には、大陸中の英雄を集めたって敵わないだろう。隣の男だって同じだ。なんだ、あれは。
内心で目の前に現れた異質なの人間に戸惑っていると、全てを見透かしたようなその真紅の瞳が、一瞬だけ驚いたように見開かれた。
(バレた…?)
この国では、魔術が忌み嫌われている。なぜなら、魔術は何百年も争っている、魔族だけが扱えるもにだからだ。俺があれほどまでに冷遇された主な原因でもある。敵である、魔族が使う魔術が扱える。それが、受け入れられるわけがない。だから、あれ以来バレないように学んで、使っていたのに…
王女はもう、前を向いている。だが、確実に見破られただろう。婚約者に何か話しかけるような仕草を見せた。
(ここは危険だ。一旦塔に帰ろう)
今度こそ、俺は早足で会場を後にした。
アナベルの嫉妬は大抵無意識なのかもしれません




