イケメンも何着ても、どんな髪色していてもカッコいい
しばらく、リアンとアナのイチャラブ回です。
今日は市井の様子見だから私もリアンも変装をしている。リアンは黒髪の長いヴィックを被り、その整った顔立ちを隠す。私はこの目立つピンクブロンドの髪を魔法で色を変え、この国の平民によくある、茶色に。顔は大きな丸メガネをかけて多少は隠している。念の為に相手の記憶に残りにくくなる魔法もかけているし、異国の衣装も着ているから、旅人に見えるはずだ。
「あ、あれ美味しそう!」
私は香ばしい匂いを漂わせる屋台を指差す。見たところ串焼きだろうか。さっきから飛ぶように売れている。
「食べる?」
「うん」
屋台へ向かう。
「おじさん!鶏もも二本ちょうだい!」
「まいどありぃ!…っと、お嬢ちゃん外国の人かい?えらい別嬪さんだねぇ」
とても陽気な人だ。明らかにこの国の人間ではない格好をしている私達にもフレンドリーだ。
「ありがとう。そうなの、さっき王都に着いたばかりでね。あまりこの国のこと知らないんだけど…串焼きが美味しそうで、まずこっちにきちゃった」
「そりゃ嬉しい。うちの串焼きは絶品だよぉ」
「楽しみ!」
「………この国って今どんな感じなんですか?」
リアンが微笑みながらおじさんに尋ねる。あくまで、初めて気持ちの降り立った旅人の純粋な疑問として。調査していることなんて悟らせない。端から見たら、至って普通の好青年だ。
「最近物価が高くてねぇ。商売あがったりだよ。パンに肉に野菜になんでも高い。そのくせ税金は上がるし、生活は苦しくなるばかりさ」
「税金が上がる…?」
おかしい。税金なんて戦時中でもなければ滅多に上がることなんてないはずだ。アネモネ王国で戦争なんて50年は起きていないはず。となると…
「俺らは苦労してんのに、お貴族様は今頃パーティだ。まったく気楽で羨ましいよ……最近じゃあ王太子が婚約破棄したって聞くし」
「婚約破棄って」
「なんでも元婚約者の公爵令嬢様が聖女様を殺そうとしたらしい。学園でも散々に虐めてたと聞いたよ。本当か知らないけどね。大体、聖女様なんて物語の中だけの存在だろうに」
「そんなことが…」
上層部が贅沢したいがための増税、か。予想はしていたけれど、やはり腐ってる。国民あってこその国なのに、その国民を蔑ろにするなんて。それに、王太子の婚約破棄ってリーリエのことよね。国民にはリーリエがとんでもない悪女のように伝えられている。それを信じているかは、人それぞれだろうけど。あと、聖女の存在は、各国の王族クラスの人間しか知らないトップシークレットだから、平民にとっては御伽話でしかないらしい。
「はいお待ち!鶏もも2本だよ!お代は銅貨5枚でいいよ!」
そこまで考えたら、串焼きが出来上がった。焼きたてでいい匂いだ。お代を払って渡してもらう。
「美味しそう!おじさん色々教えてくれてありがとう!」
「ありがとうございます」
「お嬢ちゃん、兄ちゃん王都楽しんでね!」
「うん!」
バイバイとおじさんに手を振って歩き出す。
「やっぱり上層部が終わってるわね。私利私欲のために税金をあげるなんて。まったく国王は何やってるの。ん!美味しい」
「あぁ、半年くらい前から病に臥ってるらしい。だから、実質的には王太子が国王みたいな状況だね」
「ふーん」
(デートみたい)
ぶらぶらと当てもなく二人で歩く。どうしてこの人は串焼きを食べているだけで様になるんだ。変装しているはずなのにイケメンが隠せていない。さっきから周り女性の視線を感じるのは気のせいじゃないだろう。そんなことを考えながら、じっと顔を見過ぎたのか、
「なに?そんな熱心に見つめて。見惚れたの?」
リアンがニヤッと笑いながら指摘してきた。そんな顔も好きで、なんだか恥ずかしくなって私はそっぽを向いた。
(仕事中よ!しっかりなさいアナベル!)
「べ、つにそんなんじゃ…!」
「ちょっと待って、動かないでね」
口の端に少し冷たい何かが触れた感覚がした。
「タレ、着いてたよ」
どうやら親指で拭ってくれたらしい。どうせまだ残っているんだから後ででいいのに。
そんなことを考えていたら、リアンが親指についたタレを、なんの前触れもなくペロッと舐めた。
「美味しいね」
「ん、な何して…!」
「あはは、アナ顔真っ赤」
「う、うるさい!」
「可愛いね」
「ちょっと黙って!」
市場の調査に来て、美味しい串焼きを食べていたのに、リアンのせいで、最後の方の串焼きは味がわからなかった。




