やっぱり素材がいいとなんでも似合う
庭園でオースティンとリーリエを見かけてから、二人の距離が縮まった気がする。オースティンと話している時のリーリエは常に微笑みというか笑顔だし、その後毎回扉の外で顔を真っ赤に染めて座り込んでいるのを私は知っている。そして何より、オースティンの表情が優しい。眉間のシワが一瞬にしてなくなる。どこぞの宰相殿みたいに膝に乗せたりはしないけど、隣に座らせる時の距離が近い。
そんな、二人が明日、城下に出かけるという情報をゲットした。というか、リーリエが相談を持ちかけてきた。
「…ということで、魔王様の視察に着いていく事になったのですが、よく考えたら私、洋服がこちらに来た時のものしか手持ちがなくて…流石にパーティ用のものではダメだと思いまして」
「視察、ねぇ?…でもいいじゃない!リーリエこの所働きっぱなしだったし、遊んできなさい。服なら作ってあげるわ。ついでに思いっきりおめかししましょ。可愛くなって、あの余裕そうな顔が崩れているのが見たいわ!」
「し、視察ですよ?でも、服を作るって、明日までにできるんですか?頼んでいる身で言えたことではありませんが、少なくとも三日はかかると思うのですが…」
私の発言に、リーリエが眉を下げつつ疑問を口にする。まぁ、布から作るならそうだけど…
「私を誰だと思っているのよ。魔界最強の魔術師よ?可愛い洋服の一着や二着、魔術で作れるわ!今まで気づかなくてごめんなさいね。何か希望はあるかしら?」
「本当ですか!?ありがとうございます!……私そちらの方面はわからなくて…お任せしてもよろしいですか?」
「いいよ!夏らしくワンピースかな?色は…白がいいかしら。折角だから、レースを使って可愛くしましょう。帽子はどうしようかしら…つける?つけない方がいいか…」
私は頭の中でデザインを組み上げてゆく。ずっとぶつぶつ言いながら部屋の中を歩き回っているから、側から見たら変人だろう。
「よし!取り敢えず作ってみるわね。作成」
そう短く唱えると、私の指先から次々と光の糸が出て行き、ワンピースを形作ってゆく。一分もかからずに完成したワンピースは、純白のくるぶし丈のものだ。流石に膝丈はドレスを日常的にきていた元令嬢には慣れないだろうから。
「すごい…可愛いです!こんなに綺麗な服、私がきれるんでしょうか」
「えぇ、絶対に似合うわ!私が保証する!じゃあ、明日私の部屋に来てね。メイクとヘアセットをやってあげるわ」
「何から何までありがとうございます。アナベルさん」
「いいのよ。オースティンと仲がよそさそうでなによりだわ」
「な、そ、れは」
ついでにちょっと揶揄ってみたら、顔を真っ赤にして可愛いかった。
☆ ☆ ☆
「さぁ、完成よ」
「うわぁ、これ、本当に私ですか?すごい…」
「よく、お似合いです」
次の日、私はアシュリーと一緒に、リーリエの支度をしていた。
メイクは元の良さを潰さないようナチュラルに、でもリップやチークなどデートな雰囲気を醸し出す。そして、髪はオースティンへ髪飾りでも送りなさいよ、という意味を込めてあえて何も飾りを使わずに、ゆるい編み込みハーフアップ。純白のワンピースもあいまって、リーリエの儚げな印象がさらにましていて、可愛くなったと思う。
(やっぱり素材が良いとなんでも似合うわね。メイド服も似合っていたけれど、こんな可愛らしい服、私じゃ似合わないもの)
「アナベルさん、アシュリーさん、ありがとうございます」
「いえ、大変飾り立て甲斐がありましたので、私も楽しかったです」
「私もよ…そろそろ時間ね。いってらっしゃい」
嬉しそうに頭を下げたリーリエを送り出す。
「さーて、訓練に行きますか…デートねぇ。いいなぁ」
「だったら誘えば良いじゃないですか。宰相閣下なら喜んで予定を開けると思いますよ」
「リアンねぇ。最近忙しそうだし…」
「閣下にも息抜きは必要ですよ」
「そう?じゃあ、人間界にちょっと行こうかしら。アシュリーもカイトと出かけたら?」
「また人間界ですか…正体がバレたら危ないですよ。それになんであの人なんですか…」
「お似合いだと思うけど。大丈夫よ。善は急げってことで、訓練終わったら誘いましょう」
その日の夕方、帰ってきたリーリエの髪には、藍色の宝石が嵌め込まれた髪飾りが付けられてた。




