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『ざまあ』したい訳ではありません。

作者: 須藤みくろ
掲載日:2024/09/13

私はオルト王国メンデル子爵令息アントニオの娘、アリサ・メンデルとして、この世に生を受けました。

祖父メンデル子爵グラントは、出来の悪い父に早々に見切りをつけ、父の妻である母サリナに厳しい領主教育を施しました。

母は商人の娘で、平民でしたが優秀だった為、祖父に目をつけられ、父の妻になりました。

母は結婚の翌年に私を出産しましたが、祖父は母に、体を癒す暇も与えなかったそうです。

元々、体が強い方ではなかった母は、私が8才の時、風邪を悪化させ、肺炎になって、呆気なくこの世を去りました。

私は祖父を恨みました。

父が使えないと分かった時点で、何故父を廃嫡にして、他所から養子を取るなりしなかったのか。

そうしていれば、少なくとも、母が風邪で死ななければならない程、体を弱らせてまで、厳しい領主教育を受ける必要はなかったのです。

ですがどれ程嘆いた所で、亡くなった母は帰って来ません。


母の死を悼む時間すら与えられず、祖父は8才の私に厳しい領主教育を始めました。

15才の時、私はようやく、領主教育を終えました。

それを待っていたかのように、祖父が馬車の事故で亡くなりました。

祖父は私を次期子爵に指名していた為、普通ならそのまま、私が子爵位を継ぐ所です。

ですが、この国では原則、成人していなければ、爵位を継げません。

そこで、一旦、父が子爵を継ぎ、翌年、私が16才の成人を迎えたら、改めて、私が子爵を継ぐ、という事になりました。


父は子爵になった途端、王都にあるタウンハウスに、愛人のデボラとその娘のテレサを連れ込みました。

私より1才上のテレサは、父の実子だそうです。

私はそんな昔から、父が母を裏切っていたと知り、腹が立ちました。


デボラは男爵令嬢でしたが、未婚のまま、既婚者である父との間に、テレサを儲けました。

デボラの父である男爵は、デボラの妊娠を知ると激怒して、デボラを男爵家の籍から抜き、修道院に入れたそうです。

それを知った父は、デボラを修道院まで迎えに行きました。

父にだけ甘い祖父は、父に小遣いを潤沢に与えていました。

父はその金で、王都の下町の家をデボラに買い与えました。

デボラとテレサはその家で、父の金を使い、贅沢な暮らしをしていたそうです。


私は働きもしない父に贅沢をさせる必要はない、と思ったので、父の小遣いを大幅に減らしました。

すると、すぐに王都のタウンハウスの父から、領地の本邸に住む私の所に、抗議の手紙が届きました。

私は「働くなら、働きに応じて小遣いを増やしてやる」を物凄く丁寧に書いた手紙を返しました。

領主仕事の大変さを知る父は、絶対に働きたくなかったのでしょう。

何も言わなくなりました。


焦ったのは、デボラとテレサです。

折角子爵家に入ったのに、贅沢が出来なくなるなんて。

テレサはすぐに、他の貴族に嫁ぎ、その貴族に贅沢をさせて貰おうと考えました。

テレサは手当たり次第に貴族令息に声をかけましたが、誰からも相手にされませんでした。

そこで目を着けたのが、私の婚約者である、テラー子爵三男、ダニエルでした。


ダニエルは可もなく不可もなく、婿入りしても、私の領主仕事を邪魔する事はないだろう、というだけで、祖父が選んだ婚約者でした。

ダニエルは女遊びも知らなかったらしく、あっさりテレサに籠絡されました。

テレサはダニエルに「自分はメンデル子爵の長女だ。子爵は自分が継ぐから、妹(私)に仕事だけさせよう」と言ったそうです。

それを信じたダニエルは、自分の婚約者を私から、テレサに替えてくれ、と私の父に頼み、父はすぐに了承したそうです。


私が知らせを受け、王都に着いた時、ダニエルとテレサは既に、タウンハウスで蜜月を過ごしていました。

私はタウンハウスの家令を呼び、「居候二人に何も持たせず、叩き出せ」「父を部屋に閉じ込めろ」と命令しました。

デボラとテレサはすっかり我が家の女主人の積もりだったようですが、所詮愛人とその娘に過ぎません。

居候扱いしてやったのだから、感謝して欲しいです。

私はその場でささっと手紙を書き、「これをテラー子爵にお渡し下さい」と言って渡し、ダニエルを家に帰しました。


数時間後、真っ青な顔でやって来たテラー子爵と、その嫡男チャールズは、私の顔を見るなり、物凄い勢いで「申し訳なかった‼」と謝って来ました。

私がダニエルとの婚約解消の話をしようとすると、テラー子爵は「出来心なのだから、一度だけ許して貰えないか?」と訊いて来ました。

まあ、図々しい。


テラー子爵は小娘如き、口先で丸め込めると思ったのでしょう。

ニヤニヤ笑って、こちらの顔色を伺って来ました。

ふと、隣のチャールズを見た所、テラー子爵と同じ顔をしていました。

祖父はチャールズを買っており、「子爵家の嫡男でなければ、お前の婿に据えていたのに」とよく言っていました。

見る目が無いですね。

もしチャールズを私の婿に迎えていたら、メンデル子爵家を乗っ取られていた事でしょう。


私は「ダニエル様は既に、我が家の居候と情を交わしておいでです。そのような方を婿としてお迎えする訳にはいきません」と拒絶しました。

「しかし!」と追い縋ろうとするテラー子爵に、私はこう言いました。

「早い段階で分かって良かったですわ。もし居候に家を乗っ取られた後でしたら、国家反逆罪ですもの」


この国ではその昔、家の乗っ取りが横行し、国が乱れに乱れた事がありました。

その為、相続に関する法律は物凄く厳しく定められているのです。

貴族の家の乗っ取りは、国家反逆罪。

一族郎党、縛り首です。


「そ、そんな、国家反逆罪など‼」

慌てて否定するテラー子爵に、私は追い討ちをかけました。

「ダニエル様は居候にメンデル子爵家を継がせ、その婿に入られるお積もりでした。…乗っ取りですわよね?」

横に首を振る人形のようになったテラー子爵を横目に、私はチャールズに目を向けました。

「我が家では既に、居候は放逐済み、父は蟄居させる事に致しました。乗っ取りに関わったなんて噂でも立てられたら、お終いですもの」

それを聞いたチャールズは、テラー子爵を抱えて、慌てて帰って行きました。


後日、私とダニエルの婚約は正式に解消されました。

ダニエルはテラー子爵家の籍から抜かれ、平民になったそうです。

テラー子爵は嫡男チャールズに家督を譲り、領地の屋敷に引っ越したのだとか。

実際は家督を譲ったのではなく、譲らされたのでしょう。

あの日、チャールズがテラー子爵を見る目が、あからさまに変わった事は、目の当たりにした私しか知らない事ですが。


父は王都にいるだけで迷惑なので、領地に連れ帰り、別邸にて蟄居させました。

更に小遣いを減らしたのですが、何も言って来ないので、問題ないのでしょう。


デボラはタウンハウスから追い出された後、金持ちの商人の愛人になったそうです。

ですが、すぐに商人は「若い方がいい」とデボラから、テレサに乗り換えたのだとか。

デボラは追い出され、娼館行きになったようです。

商人は最初から、テレサが目当てだったのだと思います。

駆け引き上手な商人は、デボラからじわじわとテレサに手を伸ばしたのでしょう。

ですが、テレサにしても、若い女好きな商人の愛人でいられるのは、若い間だけ。

いずれ、娼館送りになる運命でしょう。


私は成人間近にして、婚約者探しをする羽目になりました。

毒にも薬にもならない、と思っていたダニエルの家乗っ取り未遂によって、私はどうやって婚約者を探せばいいか、分からなくなってしまいました。

そんな時、偶々出掛けた港町で、商会の会計を務める青年に出会いました。

ガテン系の男達の中で、一人毛色が良いのがいるな、と思っていたら、没落貴族の生き残りでした。

領地に連れ帰り、秘書として雇ってみた所、大変優秀だったので、大喜び。

ついでと言っては何ですが、プロポーズしてみたら、OKされたので、結婚しました。


2男3女に恵まれ、幸せな人生を送った私ですが、よく考えたら、いつの間にか、色んな人に『ざまあ』していましたね。

と言っても、別に私は『ざまあ』したかった訳ではありません。

一番『ざまあ』したかった祖父は、早々に亡くなってしまいましたし。

私が幸せだった、という事が一番の『ざまあ』です。(終)
























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