あぁ…愛する我が妹よ
今宵も、魔王様率いる「Hell’s Gatekeepers」のライブは熱狂の渦の中で幕を閉じた。ステージ上では、魔王様がその圧倒的なカリスマでファンを魅了し、彼らからエネルギーを吸い上げていた。彼らのライブは「サバト」と呼ばれ、集まるファンたちは「華」と称される。
ステージの灯りが消え、会場は静寂に包まれた。しかし、その静けさの中にも、ファンたちの心の高鳴りが感じられる。彼らはただの観客ではない。彼らは「華」であり、魔王様の力の源なのだ。
魔王様はバックステージで深呼吸をした。今夜も多くの「華」からエネルギーを得た。その力は、彼の封印された能力を少しずつ解き放つ鍵となる。
「ふふふ…また一歩、元の力に近づいたな」
そう呟きながら、彼は高校生、黒崎 雷太としての日常に戻る準備を始めた。
深夜、街の喧騒から離れた静かな住宅街を歩いていると、足取りは重いが、心はまだステージの余韻に浸っていた。家に近づくにつれて、雷太の心臓の鼓動は速くなった。今日もまた、彼女が待っている。
家のドアを開けると、時計はすでに日付が変わる時間を指していた。
「おかえり!お兄ちゃん!バイトお疲れ様!」と小動物のように飛びついてくる女の子がいた。この可愛い生き物は、我が妹の黒崎 美鎖だ。
「妹の美鎖は、いつもこんな風に待っていてくれる。彼女は僕のことを溺愛していて、将来は本気で僕の嫁になろうと思っているらしい。重度のブラコンで、すぐに僕に抱きつく癖がある。黒崎家では両親はもういない。だから、僕たち兄妹の絆は、他の誰にも分からないほど強い」
「ごめん、遅くなったね。待っててくれてありがとう。でも美鎖、もう遅いから寝なさい」
僕は優しく彼女の頭を撫でた。彼女は僕の言葉に頷きながらも、「えー、まだ寝たくない!」と子供のようにむくれて、まだ離れようとしなかった。僕たちにとって、この時間は一日の中で最も大切な時間だ。
「あ、晩御飯出来てるからあとで温めて食べてね。おやすみお兄ちゃん」
そう言って美鎖は眠そうにあくびをしながら自分の部屋へと帰って行った。本当は眠たいのに頑張って起きていてくれたことに嬉しく思う雷太だった。
「さて、いただきますか…今日のメニューは…」
美鎖の料理は、彼女の個性が光る一風変わったものだ。彼女の作る「地獄のマグマ風シチュー」は、その名の通り、辛さと熱さで有名だ。一方、「悪魔的トースト」は、甘いと辛いの意外な組み合わせが特徴で、食べる者を虜にする。そして、「スライムゼリー」は、ぷるぷるとした不思議な食感が楽しめるデザートだ。最後に「ユニコーンエッグ」は、カラフルで幻想的な見た目が特徴の料理で、見るだけで幸せな気分になれる。
雷太は、妹のこのようなネーミングセンスに、自分の前世が魔王だという秘密がバレているのではないかと、内心ヒヤヒヤしている。しかし、美鎖はただ単にファンタジーが好きなだけで、兄の秘密には気づいていないようだ。雷太は、そんな妹の無邪気さに安堵しつつも、自分の二重生活を守るために慎重に振る舞う日々を送っている。
「あぁ…愛しの我が妹よ…本日の晩御飯もかなり美味しかったぞ…」
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朝の光が窓から差し込む中、雷太は目覚まし時計のアラームを止めると、静かにベッドから出た。彼はまずキッチンへ向かい、手慣れた手つきで、美鎖の好きなホットケーキの生地を混ぜ始める。フライパンに生地を流し込みながら、彼は洗濯機のスイッチを入れる。家事は彼にとって、日々のルーチンとなっていた。
「お兄ちゃん、おはよう…」美鎖が眠そうな顔でキッチンに現れると、雷太は優しい笑顔で返す。「おはよう、美鎖。朝食出来てるよ。」
ホットケーキを二人分盛り付け、雷太は美鎖の分には特別にホイップクリームとフルーツをトッピングする。美鎖は目を輝かせながらそれを見て、「お兄ちゃん、いつもありがとう!」と言い、幸せそうに食べ始める。
食事が終わると、雷太は美鎖を先に出発させ、彼女が学校へと歩いていくのを見送った後、雷太は自分の部屋に戻り、バンドの衣装を隠し持っているクローゼットを一瞥する。今夜もまた、彼は「魔王」としてステージに立つ。しかし、その秘密は美鎖には決して知られてはならない。