鈍感な君の失恋①
「お、やろやろ!」
反応的に引っかかるところは無い。
よかった、トラウマになってないならいいのだ。
これでたくさんゲームの話ができる。
でも、そう喜んだ後にリュウの表情を見ると、彼は目を細め、少し体を震わせていた。
画面にはフレンドの一覧。
ああそうか、木下さんともフレンドだったな。
「俺さ、木下さんに謝ってほうがいいのかな…」
「えっ」
暗い表情で彼は言った。
彼が言ってすぐに僕は謝ったほうがいいと思った。
それはきっとお互いにかもしれない。
個人的な意見として、無理やりした木下さんは悪かったとは思う。
でも、高校生を舐めてはいけない。
突然逃げてしまったのは、彼女も傷ついた…と思う。
ああもう、よくわからない。
謝って損はしないけれど、謝るのはこっちもするべきなのか、わからない。
「リュウがした方がいいって思うなら、した方がいいのかも」
「タツは自分の意見をズバッと言うのに珍しいな」
「そう?だとしたら、話題が珍しすぎるし、僕はリュウを家に泊めただけの存在で、2人の問題だろ?そこらの常識は疎い」
第一、童貞の恋愛無経験者に聞く質問じゃない。
いや未経験者ではないか。
一応好きな人だっていたわけだし。
思いっきり失恋したけど。
もっといい相談相手がリュウにはいるはずだ。
「でも、謝るなら早めがいい。今ならまたリュウが泣いても慰められる人が1人ここに」
「あー、タツの部屋に行ってもよろしいですか?」
「よろしいです」
僕の両親に泣き顔を見られたくないのだろう。
リュウは「ごちそうさまでした」と2度目の感謝を母親に伝え、僕の部屋へと行く。
それについて行く。
昨日座っていたあの位置に座り、うーんうーんと声を発するリュウを見る。
「なータツ」
「んー?」
「俺泣きそう」
「謝る時って泣きながらの方がいいんだろうけど、内容が内容だからこらえろ」
「保冷剤持ってきてくんねー?ちょいあったかめの布も」
「はいはい」
どうせ、僕が保冷剤持ってきている間にかけるんだろ。
保冷剤ってリビングにあるよな。
お湯沸かすのもリビングだし。
リビングには両親がいる。
泣いているのが知られたくなくて僕の部屋にきているはずなのに。
やっぱ時々リュウは抜けてる。
ゆっくりと立ち上がり、部屋から出た。
扉を閉め、耳を傾ける。
「鈴花ちゃん、あのさ、」
どうやらワンコールのようだ。
彼女も辛かったのかもしれない。
それでも手足拘束はやりすぎだとは思うが…
もしかして癖なのか?
いやでも説明くらいするよなぁ…?
これ以上聞くのはダメな気がして、リビングへと戻る。
「あら、飲み物?」
「んーん、昨日のことについて話してるから少し1人にしてやってる。保冷剤ちょうだい。あと、火傷しない程度にあったかい布」
「泣くの確定なのね」
「僕母さんの軽いノリ好きだよ」
「俺も好き」
「もう2人ったら、私はいい家族に恵まれたわ」
もしかしたらだけど、僕の家に来ていたのは僕らみたいな家族に触れたかったからなのかもしれない。
僕に頼りたかったからじゃなく。
リュウの家族と似てるらしいから。
でも、そんなの関係なしに、この家に生まれてきてよかった。
きっと、またこの心が成長してしまって、また枯れた時、軽いけど暖かく包み込んでくれるだろう。
「麦茶も持って行きなさい。もしかしてあったかい方の緑茶がいいかしら」
「いやいいよ。朝からたくさんカフェイン取ることなる」
「そう?はいこれ」
クッキングペーパーに包まれた保冷剤と、まだ熱々の布、麦茶の入ったコップを乗せたお盆を僕の部屋へと運んでいく。
いつ頃入ればいいのか…
「だからその、ごめん…」
まだまだ通話は続いている。
そっと床に座り、膝の上にお盆を乗せる。
終わった頃がいいよなぁ。
まさに、ヒーローは遅れてやってくる的な?
ちょっと自分で思って恥ずかしくなった。
「そっか、うん…」
鼻の啜る音。
それだけで泣いてるのなんて分かって、今すぐにでも慰めに行きたい。
でも今は絶対慰めに行くタイミングじゃなくて。
なんで僕はこんな事をしているんだろうと、よくわからないことすら考えてしまう。
何を話しているのかはわからない。
ドア越しだからか、聞き取りづらい。
泣きながらだからってのもあって聞き取りづらい。
木下さんもそこまで酷い人じゃないのかもしれない。
お互いに反省しあって、あれ、?
お互いに反省しあったら、別れるって話にはならないんじゃないか?
もしかすると、2人は関係は続いたままかも?
いやでも、リュウの発言には、彼女のそばにいられないと言っていた。
でも、今はどうだ?
彼女とちゃんと話すことができている。
なんだよ、また生まれてきそうな芽が、また萎んでいくのを感じて、胸が苦しい。
リュウを好きになったら、僕はずっと苦しいままだ。
捨てたい感情なのに、捨てさせてくれないのはリュウで。
本当に、厄介だ。
「ごめん。それじゃあ、」
話終わったのに気づくと、僕はお盆を持ち、立ち上がって一呼吸してから扉を開けた。
昨日ほどではないが泣いている。




