鈍感な君との朝食
気がつくと朝になっていた。
寝てしまっていたらしい。
耳栓を外すと少々雨が降っているが雷は鳴っていない。
起きあがろうとすると、袖を掴まれた。
少し腫れが治ったリュウだ。
でも泣いている。
いやだ、離してと小さく言いながら。
「昨日の夢でも見てんの?」
返事はない。
ただ、弱々しい寝言を言いながら、目を瞑っている。
悪夢に囚われているのか。
「リュウは、僕の家で笑ってる方がいいよ。風呂行ってくる」
ていうか、なんでベット使ってないんだよ。
そう思いながらリュウの手を退け、追い焚きをして風呂に入る。
朝イチの風呂は気持ちが良い。
そういえば、昨日リュウの服は洗濯したままだったが、母さんは乾かしてくれているだろうか。
また回してたりして?
昨日は雷のせいで色々できなかったとはいえ、少し申し訳なく思う。
水道代に関わってくるかは知らないが。
風呂から上がり、服を着るとリビングへ向かうとイチャイチャしている両親がいた。
「おはよ。龍司くん起きた?」
「まだ寝てるんじゃない?」
クソみたいな夢を見ながら、寝ている彼を思い出す。
昨日の弱ったリュウは初めて見たけど、悪夢をみたリュウは毎度あんな感じなのかも。
夢はいい夢も悪い夢も少しずつ忘れて行く。
あの出来事が夢のように少しずつ消えていけばいいのに。
「朝ごはんいるかしら」
「んー、起こしてくる」
「ちょっと、龍司くんがいるんだから、髪は乾かして来なさいよ」
「めんどいからいい」
自分の部屋に戻り、リュウを起こす。
スヤスヤと寝ている。
僕の服はやはり小さめで、程よい筋肉が見える。
そこには見たくもない赤いものがあるけれど。
これさえなければドキドキしたんだけどなーとか思いながら体を揺らす。
髪から落ちる雫が彼の瞼に落ちると、眉間に皺を寄せ、怒るように布団を被った。
「朝弱すぎ…」
いい加減起きろというように軽く蹴ってやると、何事だと言うように起きた。
「おはよ、リュウ」
「うおっ、タツ⁉︎え、タツ?偽物?」
「おい」
「声はタツだ。え、髪の毛濡れすぎてわかんなかった」
「ボケる暇があるならさっさと起きろ!」
敷布団を持ち上げ、床へ落とす。
「いってえぇ!」という声が聞こえて来たが、仕方ない。
これは目が覚めても起きようとしないリュウのせいだ。
「てかタツ、髪の毛ぐらい乾かせよな」
「いいだろ別に。これで風邪引いたことないし」
「乾かしたことないから分からんだけだろ」
「言われてみれば確かに」
「よし今すぐ乾かそう」
「いや飯が先」
強制的にリュウを連れてリビングへと行く。
美味しそうな匂い。
今日の朝はフレンチトーストらしい。
4人で机を囲み、手を合わせる。
食と人に感謝し、食べる。
うん、美味しい。
「うん、2人とも可愛い」
「おい俺は⁉︎」
「盛夫さんはカッコいい」
「恵子ったらぁ〜!」
このバカ夫婦は置いておいて、リュウの食べる姿は確かに可愛らしい。
ニコニコしてて、昨日の事が無かったかのように感じる。
腫れは治ってないけど。
「なんだよ、ジロジロ見て」
「見惚れてた」
「タツのその冗談は聞き飽きた」
「ふは、冗談は何度言ってもいいだろ?減るもんじゃないし」
「なにそのキスした時に使う言葉」
「例えが細かいな」
昔は本気だった。
今は冗談なのか分からない。
まだあの気持ちが残っているかもしれないから、分からない。
ただ、失恋しても、元々可愛いとかかっこいいとか思っていた相手なら、元々気づいていたのなら、そう思っても仕方ないんじゃないかな。
恋が絡むと自分のことがわからなくなる。
何がしたいのか、わからなくなる。
「そうだ、龍司くん。食べ終わったらカフェオレ飲む?」
「あ、いただきます!」
あっという間に朝ごはんは食べ終わり、母さんの入れたコーヒーを飲む。
うん、うまい。
「タツ、ブラック行けたのか…!」
「僕甘いの少し苦手」
「苦手多いな」
「雷のことは忘れろ」
そういえば、僕はよくリュウがカフェオレ飲んでいるところを見ていたから知っていたから好きだと知っていたし、そのことを両親にも伝えていたが、僕がブラック派なのは教えなかったな。
教えてどうと言うことではないけど。
「え、恵子さんのカフェオレ、めっちゃ美味しいです!」
「そんな、声を大きく言ってくれるなんて…照れるわ」
顔を赤く染め、本当に照れている。
その姿を見て父さんは嫉妬しているかのような表情を見せる。
そのことに気づき、母さんは父さんに抱きついた。
30後半の2人は倦怠期という時期が訪れたことがないらしい。
「タツも飲んでみろよ」
「リュウのから一口なら」
「いいぞ」
「いやいや、えっと、」
「男同士なのに間接キス意識してるのか?可愛いやつだな!」
もしかして、リュウが僕に警戒してないのって、同性だからなのか?
嫌なことがあったばかりだから、そーゆーのもう無理になったのかと思っていた。
もしかして、漫画の読み過ぎ?
実はこう言うのって、時間さえ経てばどうでも良くなる的な?
さっき夢みたいに忘れていけばいいって思ったけど、結構期待していい感じ?
さすがにまた付き合うって言うのは無理だろうけど…
「照れてんのか?」
「じゃ、じゃあ、僕のブラックも飲むか?」
「無理。苦いじゃん」
「僕も甘いの無理だから」
「でもさっきはいいって」
クッソ、逃げることができなかった。
元好きな人のだぞ?
意識しない方がおかしい。
口に溜まった唾液を飲み込み、リュウからコップを受け取る。
受け取った時のリュウの嬉しそうな顔はとても可愛い。
が、可愛いからこそもっと意識してしまう。
ゆっくりと飲んでみる。
うげ、甘い…
どんだけ母さんは砂糖を入れたんだ…
甘すぎるせいで間接キスのことなんかすっかり忘れ、リュウへ渡す。
「どうだ?」
「次カフェオレ飲むとしても砂糖なしがいい」
「マジで甘いの無理なんだな。んじゃ俺ももーらい」
「あっ、僕の!」
僕のコップを奪い、飲んでいる姿をみる。
イケメンがブラックを飲むとよりイケメンに見えるが、今はどうでもいい。
僕のが…
飲んですぐに僕のところへコップは帰ってきたが、舌を出して「にが、」と言っている彼の表情はとても可愛らしいが今は恨む。
「やっぱ俺は甘い方が好きだなぁ…」
「じゃあ飲むなよ…飲み物の恨みは恐ろしいんだからな」
「ご、ごめんって、」
でもまぁ、減ったのはほんの少しのようだ。
だが、また間接キスのことを思い出す。
僕だけこんなに意識して、乙女かよ。
だんだん恥ずかしくなって、コーヒーを一気飲みする。
「2人もイチャイチャしてぇ〜」
「してない!」
「私達からしたらイチャイチャしてるように見えたわよ?」
「男同士でイチャイチャって、面白いだけだろ」
「面白いならいいじゃない」
照れ隠しで放った言葉を包み込まれる…
子は親に勝てない…
「辰眞はツンデレの才能があるかもな!」
「おぉ、タツのツンがこれか!」
「全然違いますけど?」
ツンデレではない自信はある。
リュウには毎日のように想いを伝えていたし、その時にツンの要素は無かった…と思う。
ちょっと自信がない。
でも、好きって言ったこともあるし…
恋人としてとか、そう言った意味で捉えられてはないだろうけど。
「てかリュウ、うちの両親と意気投合するのやめて、めんどくさくなる」
「いいじゃん楽しい」
「疲れるわ!」
それでリュウが楽しそうに笑っているならいいんだ。
でも、流石に疲れる。
「ちょっとトイレ」
ひと休憩と、溜まっていた尿を出すためにお手洗いに行く。
ノリがいい人が両親に絡み出すと、いつもこうなる。
人の親だし、気を遣って僕をいじる方へ行ってしまう。
別にいいけど、相手はリュウだからより意識して疲れてしまう。




