鈍感な君のお泊まり
昔の僕だったら、リュウが僕のことを信用して眠った事に嬉しいと思っただろう。
しかし今は、少々辛い。
こんなに信用されると、またあの恋心が戻ってきそうで。
鈍感な彼に恋をしたら、同じことを繰り返す気がして。
いや違う。
彼がもう誰も好きにならない気がして。
仮に、仮の話だが、付き合ってもキスもできない気がして、たまらなく寂しくなる気がして。
リュウのためにも、僕のためにも、離れた方がいい。
そんなのわかってる。
でも、こんなに信用されたら離れようにも離れ難くて、どうしたらいいのかわからず辛い。
イケメンはずるい。
こうやって周りを混乱させる。
とりあえず、リュウの親に連絡をして、うちで泊まらさる事にした。
リュウの野郎、自分の誕生日をパスワードにしやがって。
一応事情は説明しておいた。
リュウからは言いたくないだろうし、隠したい気持ちもあるかもしれない。
そのことも含め、リュウが言ったことをそのまま。
「龍司をお願いね、タツくん」
「はい」
静かに電話が切れる。
リュウの母親にはたくさん感謝された。
僕のことはリュウがよく話していたらしい。
彼女ができてからは、クラスで顔を合わせるだけだったため、話すことすらなかったみたいだが。
今はもうクラスも違う。
唯一のつながりであるゲームも、彼にとっては嫌な思い出になったかもしれない。
彼女もゲームをやっていたら、思い出してしまうかもしれない。
もしかしたら、このことが理由で僕から離れるかも。
はは、離れた方がいいって思ってるのに離れたくないという感情が出てくるなんて。
笑えてくる。
僕の両親が帰ってきて、リュウが泊まりに来たことだけ教える。
歓迎するように母さんは4人分の料理を作った。
父さんはリュウのことが懐かしいようで、会うのを楽しみにしている。
保冷剤で冷やしはしたが、平気だろうか。
腫れたままだったら両親を心配させるかもしれない。
やはり、教えておくべきか。
そう悩んだが、やっぱりやめた。
これはリュウの弱みだ。
そう簡単に教えていいものかわからない。
たくさんの人に知られたら嫌かもしれないし。
ご飯の時間になり、リュウを起こす。
目はパンパンに腫れている。
さっきよりも腫れているせいで、いつものイケメンが半減している。
ちょっと面白い。
「な、何笑ってんだよ」
「いいや。リュウのお母さんから泊まり許可されたから、泊まって行ってよ。明日日曜だし」
「いいのか…?」
「うん。あと、うちの両親に心配されるその顔、どう説明したらいい?」
「あー、そのままでお願い。タツの両親いい人だし。その、ちょっと恥ずかしいから他の人には…」
「漏らさない。ほら、飯いくぞ」
彼の笑った顔は半減してても可愛い。
いつものように見ていたから、想像しやすいのもある。
両親はやっぱり心配し、僕から説明した。
リュウは気まずそうにしたが、両親がその事に気づき、空気をガラッと変え、ご飯の話になった。
「今日は龍司くんが好きなハンバーグにしてみたんだけど…どう?」
「美味しいです!恵子さんの料理なら美味しいですけど」
「旦那よりいい子だわ」
「俺の方が恵子の料理が好きだ!」
「あら、盛夫さんったら…」
この夫婦はすぐイチャイチャする。
僕は見慣れたものだし、リュウの家も大体こんならしい。
お互いいい家族だなと顔を合わせ、笑いあった記憶は古いが、この光景を見てるとすぐに思い出せる。
だがまぁ、確かに母さんの料理は美味しい。
「龍司くんは辰眞と同じくらい美味しいが顔に出て、本当に作り甲斐があるわ」
「ゴホッゴホッ、母さん!」
「事実じゃない。2人を見てると癒されるわ」
「全く似たもの同士だなぁ!」
両親はすぐ僕とリュウを比べて同じだという。
親は子を誰よりも可愛がるせいで、このイケメンの力でも同じように可愛いという。
いつもは流しているが、リュウの隣で言われると少し恥ずかしい。
両親なりに気を使ってるのか、僕のことばかり話すんだから。
「僕は凡人。リュウは容姿も頭も運動も完璧なんだから似てない」
「タツは確かに普通って感じする」
「それ以外は似てるから安心しろ」
「安心って…不安を抱えてるわけじゃ無いんだから」
賑やかな団らんは笑顔であふれ、うるさい雨音も気にならない。
リュウも今日あった事を忘れるように笑顔で。
そんな笑顔を見ていると、『あの人の所に行かなきゃ、ずっと笑顔でいられたのか』という感情が出てくる。
ちょっとした後悔。
恋心からじゃ無い。
なんて思ってる自分はどこかでまだ彼のことが好きだって言ってるのを隠しているようで嫌になる。
今のリュウに好きと伝えるのはダメだ。
今嫌われるのは、ダメなんだ。
今1番頼れるのはきっと僕で、その人からトラウマが出てきてしまっては、ダメなんだ。
「僕、風呂入れてくる」
「あら、早くない?」
「今日はリュウもいるから、早めに入んないと寝る時間遅くなるぞ」
「え、俺シャワー浴びたけど…」
「遠慮すんなって。お前はシャワーより風呂派だろ?」
「えと、ありがとう」
下を向きながら感謝を伝えるリュウは見えにくいが嬉しそうに笑っていた。
そういう仕草だよ、可愛いって思われんのは。
そういう感情を隠すように風呂場へ向かう。
レックを手に持ち、浴槽をゴシゴシと洗っていく。
なんとなくリビングから楽しそうな声が聞こえてくるが、何を話しているかはわからない。
ただ、楽しそう。




