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鋭い凡人と鈍い美形と  作者: 雨露 甘雨
3/14

鈍感な君の悲劇

いつもと変わらない日常。

ホームルームが終われば、すぐに家に帰る。

気づけば2年生になっていて、リュウの話は1年生でも話題になっていることがわかるくらい人気だ。

昔は少し嫌だった。

同性だし、叶わない恋だなんて思っていても、ライバルには変わらないから。

でも今はなんでもない。

僕の初恋は終わり、今は新しい恋を見つける時だと感じる。

次は僕の感情がしっかり伝わる子がいい。

相手が鈍感だったら、他の人に取られちゃうかもしれないから。

そんなことを考えていた日だった。


雨の土曜日。

いつも家にいるから天気なんて興味なかったけど、雨音がうるさくてあのゲームの小説化版を読もうとしていたが、集中できなかった。

昼の5時。

玄関のチャイムが鳴った。

今、両親はいない。

いない時間は配達の人も来ることはないはず。

お客さん?

疑問に思いながら、ドアを開ける。

すると、体が冷たくなった。

誰かに抱きつかれた。

濡れている。

僕の服が少しずつ濡れて行っているのを感じる。

雨の匂いと共に、吐き気がするほどの甘ったるい匂いがする。


「タツ、タツ…」


僕をタツと呼ぶ人は、1人しかいない。

どうして、君がここにいるの?

左肩が熱くなる。

泣いている。

君が泣く姿は見たことがない。

何があったの?

なんて優しい言葉がなぜか喉から出てくれなくて、僕は彼を抱きしめ返す。


「ごめんっ、ごめんっ…」


どうして彼は僕に謝るのだろうか。

抱きしめ返してからは、彼の力も強くなった。

ドアを開けっぱなしのせいで、雨の音が家の中よりうるさく聞こえる。

でも、そんな雨音すらかき消すくらい、かれの啜り泣く音は僕の耳を捉えて離さない。


「風邪ひくから、とりあえず中入りな。シャワーでも浴びる?服は小さいけどいいよね?同じ下着でも平気?」

「ゔん、ありが、とぉ…」


弱々しい彼を見ていると、胸が苦しくなる。

恋心が再び出てきたからじゃない。

彼の状態があまりにも酷かったから。

僕から離れた彼の首には赤い印があった。

そして、目は赤く腫れ、髪の毛も服も濡れていてもぐしゃぐしゃで、バックはチャックが閉まっていない。

僕の家に来る時、君の綺麗な顔でにこりと笑い、「お邪魔します」と優しく言う声が懐かしい。

でも、今の彼にはそんな暇がない。

僕が腕を引かなければ歩かない。


風呂場まで案内して、脱ぐ気のない服を脱がせる。

すると、首の他にも赤い印があった。

綺麗な肌についた赤い薔薇。

トゲがありすぎて触りたくない。

流石に下を脱がせるわけにも行かないため、「ちゃんとシャワーを浴びてね」と言い、脱衣所から離れ、自室から服を持ってくる。

戻った頃にはシャワーを浴びていた。

彼が歩いたことで濡れた床を拭き、自分自身も着替えて、洗濯機の中に入れた。

ついでに彼の分も入れ、回す。

バックは中を取り出すのは申し訳なくなるため、バスタオルで包み、僕の部屋まで持って行った。

廊下から聞こえる彼の啜り泣く音はシャワーを浴びていても聞こえる。

雨音よりも、シャワーの音よりも聞き取りやすいのは、彼が聞き取りやすい声をしているからか、玄関で聞いたあの声がまだ耳に残っているからか。


数分後、僕の服を着た彼が部屋まで来た。

僕の持ってある服でも大きめのものを渡したが、それでも少し小さかったみたいで、ふとした瞬間腹が見える。

ズボンはそこまで気にならない。

って、こんなに見てたら失礼か。

ベットを背に座らせ、用意しておいた保冷剤をハンカチで包んだものを目にあてる。


「これ持って。これ以上悪化させたら大変だから」

「ありがとう、ここまでしてくれて…」

「いいよ。リュウにはよく助けられてたし」


泣きすぎたせいか、枯れている。

まだ呼吸が荒い。

ダンゴムシのように丸くなるリュウの姿は、僕しかいない部屋でも安心できなさそう。

飲み物でも持ってこようと思い、立ち上がると、服の袖を掴まれた。


「リュ、リュウ?」

「あっ、ごめん…すぐ、戻ってきて」

「わかった」


急いで飲み物を用意する。

いつもの麦茶をおぼんに置いて持っていく。

部屋のドアを開けて中を見てみると、僕より少し大きなリュウが小さく見える。

下を向き、保冷剤で目を冷やしている。


「リュウ、少しでもいいから飲んで。ゆっくり深呼吸して」

「うん」


大きく息を吸い、吐く。

その後に麦茶を飲む。

その姿を見ながら、僕も少し飲む。

落ち着くまでお互いに黙り、僕は彼を目から離さなかった。

呼吸が整った後、彼は口を開いた。


「急ごめんね。ちょっと、色々あって…」

「いいよ。助けになれたなら」


その色々が気になる。

でも、その色々を聞いたらまた呼吸が荒くなる気がして、何も言えない。

僕の放った言葉に安心するような表情は嬉しくなる反面、嫌になった。

でも、何か覚悟を決めたような表情になって、目を震わせながら僕と目を合わせてきた。


「タツ、俺、お、れ…」

「辛いなら言うな」

「っ、」

「どうしてリュウがこうなったのかは気になるさ。でも、僕はまたリュウが嫌な目に遭う方が嫌だ」


本心からの言葉だ。

友人として、彼を助けたい。

今の弱々しいリュウを見ていると、傷つけたくない。

また泣きそうなリュウを見たくない。


「ごめん、言わせて…」

「言ったら、リュウは軽くなる?」

「うん、」

「わかった」


相談相手として、僕は務まらない気がする。

友達はリュウしかいない。

恋愛経験はリュウへ向けた恋以外にない。

リュウよりも何事の経験値も少ないのだ。

リュウが一体どうしたのか知らない。

大体の予想は彼の体についていたモノでつくが、それでも細かいことはわからない。


「俺、鈴花ちゃん、木下さんに襲われて、」

「おそわ、え?」

「起きたら手足縛られてて、俺ので遊ぶようにして、それで、それで…」


話をすると、涙がまた出てきていた。

僕の部屋にはもうティッシュしかなく、それをリュウに渡す。

呼吸も過呼吸になりかけながらも話してくれた。

今日はデートする予定だったが、雨が降ったせいで木下さんの家でデートをすることになったらしい。

最初は映画を一緒に見たり、喋ったりをしていたらしい。

ご飯を一緒に食べていた時に盛られたんだろう。

媚薬と睡眠薬を彼は摂取してしまった。

起きた時には服を脱がされ、手足を縛られ、彼の息子をフェラしたり、ゴムはありだが中に入れたりなどしたらしい。

リュウは快楽よりも恐怖が勝ったみたいだ。

嫌だと抵抗するも、ゲームに付き合ったんだからいいでしょ?と言い放ち、行為は続けられ、やっと解放された時に逃げ出したみたいだ。

気がつけば僕の家のベルを鳴らしており、今に至ると。


「俺、ほんとに、怖くて、こわくて…」


高校生はそれなりに性欲が強いお年頃だ。

相手がビッチでも頷ける。

しかしリュウはきっと純粋で、そこらの知識は基礎しか知らない。

手足を拘束されることがまず怖くなり、同意もなしに襲われたことで怖いが最大まで言ったのだろう。

リュウの顔はいい。

女で遊び放題だとか思う人もいる。

木下さんもその中の1人だったのかもしれない。

いや、2人が付き合ってからは5ヶ月は経つ。

そろそろいいと思ったのだろう。

彼女のいけないところは、無理やりと言うところだ。

でも、そんなことリュウにとっては知った事じゃない。

怖いものは怖いし、嫌なものは嫌だ。


「俺もう、鈴花ちゃんのところに、いれないっ…」

「リュウ」


優しく声を出して、両手を広げた。

いつもしない事だが、なんとなくそうしたかった。

リュウは涙目で飛び込んで、さっきは声を殺して泣いていたが、今は大きくして泣いた。

呼吸のしやすいようにリズムよく背中を叩き、もう片方の手ではふわふわの触り心地の彼の頭を撫でた。

いっぱい泣いた彼は、途中で寝落ちた。

目が腫れていても彼はイケメンで、寝顔は可愛い。

昔の僕だったら、彼の唇を奪っていたかもしれない。

ベットまで引き上げ、寝かせる。

たくさん泣いて、たくさん寝て、少しでも楽になればいい。

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