鈍感な君の帰り
11時、あと少しでお昼ご飯の時間。
リュウの方を見ると寝ているみたいだ。
このまま唇を奪ってしまいたいほどリュウは魅力的だ。
寝顔をずっと見るのは僕のためにならない。
ぬるくなったリュウの分の麦茶を飲んで落ち着かせる。
ふわふわの猫っ毛な髪。
少し癖っ毛だけど撫でる時、逆にそこが心地いいくらいの優しい髪。
あーあ、また触りたい。
触っちゃいけないとわかっているからこそ触りたくなる。
12時じゃないから起こすわけにもいかない。
解決したからって心地良さそうに寝やがって。
床に寝っ転がり、ため息をついた。
ゲームの続きでもと思ったが、今やれることは全てやり終えた。
ストーリーもイベントも今できる育成も。
全てのマップの敵狩り尽くすか?
この感情をゲームにぶつけまくるか?
ちょっとゲーム内のモンスターだけど可哀想だな。
スマホの電源を切り、窓の方を見る。
まだ外は少し雨が降っている。
でもだいぶ止んだ。
あのゲームの小説でも読むか。
椅子に座り、本を開く。
やっぱり最初は頼れる仲間と出会うところからだ。
少しずつページを開いていく。
知っているストーリー。
だけどどんどん小説の世界に入っていく。
声優さんの声も聞こえないはずなのに聞こえてきて、楽しい。
本はそこまで読むタイプではない。
でも、気になるアニメの原作が読みたいって時は買ったりする。
キャラクターの見えなかったシーンが見えるから好きだ。
また1ページ。
1ページとめくっていく。
挿絵のない小説だが、面白い。
「タツ!!」
「うわぁ⁉︎」
急に名前を大声で呼ばれびっくりする。
後ろを見るとリュウがいた。
起きたのか…
時計を見ると45分を指していた。
「無視されてたのかと思ったわ」
「ごめん、集中してて」
「何読んでんのかなーって思ったら、これ買えたの⁉︎」
「もしかしてリュウ買えなかった?」
「買えなかった。1時間で売り切れだった。予約中」
僕って運良かったんだな。
SNSで売られることを知って発売日に本屋行って買っただけなんだが。
大手の本屋ではなく、近所の本屋だから狙う人が少なかったのかもしれない。
多分在庫あるし、お勧めしようとは思ったが、予約中ならいいや。
「いいなぁ、面白い?」
「面白い。今はボムパムが初めて泣いたシーン」
「あーあそこなぁ…ゲームしながら泣いた」
「僕も。まさかあの子が死ぬなんて思ってもなかったし、実は死ぬつもりだったってボムパムが可哀想すぎた」
「あの敵キャラに対してはボコボコにすることしか考えてない」
ボムパムはゲームの中でも人気のキャラクター。
サポートキャラで会心ダメージだとか、攻撃力とかを上げてくれる。
配布キャラだが、めちゃくちゃ強い。
みんな人の形をしているが、ボムパムは作られたキメラだ。
必殺技は巨大化して大ダメージ。
その動きも可愛かったりする。
「てかそんなに進むんだな。ボムパムって三章からだろ?」
「何を言う。小説版はこれで6冊目だって知ってるだろ?」
まさかだと思い、ジト目でリュウの方を見る。
ゆっくりとため息をつき、しおりを挟み、本を閉じる。
「……なんだって⁉︎嘘だろ待ってくれ知らないぞ⁉︎」
「リュウの抜けてるとこ好きだけど、そこは抜けてないでくれ」
確かに公式SNSでの発表はこの本が初めてだった。
このゲームが好きな人なら気づくだろというのでこっそりゲーム内のお知らせの端っこに書いてあったのだ。
あまりにも人気が出たためようやく発表された。
リュウも知ってるものだと僕も思っていた。
「タツ、俺ってそんな抜けてる…?」
「リュウはちゃんとお知らせの一覧見るタイプだが、端っこにある小説化のお知らせを見落とすくらいには」
「最悪だ」
うわぁ!と悲鳴をあげながらしょぼんとした顔可愛い。
じゃなくて、どんまいと思ってやる。
実際にリュウみたいな人はちらほらいたが、リュウなら大丈夫だろと思っていたし、放課後話す時も話題に出さなかった。
なんかごめんな。
「タツ、俺帰りに本屋寄りたいんだけど、あると思うか?」
「ない。本屋に行って売り切れのお知らせしかなかったんなら1から6全てない。あったらまず気づいてたはずだし」
「だよなぁ…」
やっぱ近所の本屋さんおすすめしとくべきか?
面白いしやめとくか?
よし、面白いからやめとこう。
性格悪いだなんてそんなの自覚してるし。
「全部予約しとけ」
「うぃっす…」
良心が少し痛むが、少しくらいだ。
面白いが勝つ。
スマホをぽちぽちと押し、予約していく。
にしてもこのゲーム人気になったなと思う。
最初は隠れ神ゲーだった。
ゲームの入りなんてつまらない要素ばかりだった。
でも進めていくにつれてそれは実は伏線で、諦めずにやっていくと面白さがわかっていくものだった。
まぁ僕はサービスが始まってすぐに入れた古参ゲーマーなので。
誰にドヤってんだか。
「一巻読ませて」
「どうぞ」
「さんきゅ」
「そこの棚の右下」
指を刺さずとも、本などそこにしかないが、リュウなら絶対「どこ?」とか聞いてくるだろうし、説明しておいた。
僕って絶対リュウのこと下に見てるとか自分でも時々思う。
が、そうさせるのがリュウなため、罪悪感はない。
「表紙エグすぎだろ」
「綺麗だよなわかる。汚すなよ」
「汚さない安心しろ」
リュウは風と水に覆われた少女が木に座り、眠っている表紙の本を一冊取り、僕のベットへダイブするように寝転がった。
寝ながら読むのか。
体制的に難しそうだが、読めているみたいで、キツくないのかなとも思いながら、僕自身も読み進めていく。
ていうか、人のベットを自由にしすぎなしないか?この人。
まるで第二の家だと言うように寝ていますが。
「リュウってさ、家ではずっとベットの上?」
「病人みたいに言うなよ。だが、当たり」
「なに病人なの?」
「ツッコミ待ちだったの」
「どんまい」
「悲しい」
リュウが病人だとは思ったことはない。
頑張りすぎて風邪を引いたことは一度だけ見たことあるが、健康体。
僕も健康体。
冗談ばかり言い合い、楽しく話をする。
ご飯に呼ばれ、また朝と同じくゲームをして。
違うゲームだったため、僕が圧勝し、父はボロ負け。
ただ、いじめのようにチーム戦にし、僕だけ別チームにされた時は負けた。
仲間のCPUも弱いにされてしまっては、仕方ない事だと言えば、「言い訳だ!」と母とリュウが言ってきたので、鋭く睨んでやった。
「んーっ、楽しかったわ。そろそろ帰る」
背伸びをし、コントローラーを置いたリュウが言った。
時間を見ると5時を指しており、空はまだ明るいが時間も時間なため、リュウの荷物をまとめるのを手伝った。
「あ、服」
「明後日あたりに返してくれればいいよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
空も雨は降っておらず、雲だけが空を覆っていた。
乾いたバックを持ち、母さんがいつの間にか乾かしてくれていた靴をリュウは履いて家を出た。
僕は手を振りながら見送った。
姿が見えなくなるとまた自室へと向かい、晩ごはんの時間になるまで小説を読んでいた。




