鋭い君の近くは楽だ
俺はいつの間にか寝ていたらしく、タツに起こされた。
起こされてすぐに笑われた。
そのあとはご飯食べたり、甘く作られたタツのお母さんの作ったカフェオレを飲んだり、ゲームをしたり。
タツのお母さんのゲームスキルは高かった。
気を抜いたらすぐ負けた。
タツはすごい弱かったけど。
「リュウ、久しぶりにコレ、一緒にするか?」
「お、やろやろ!」
タツが提案したゲームは俺たちが放課後によく一緒にしていたゲーム。
タツと出会ったあのゲームだ。
最近はデイリーしかできていなかったし、いいかもしれない。
タツと一緒だと、ログイン画面も久しぶりに見るような気がする。
何年も変わってないBGMもいつもより楽しく聞こえて来て。
でも、すぐにその感覚が消えた。
タツのフレンドカードを見ようとフレンド一覧の画面を開いてしまった。
そこには本名で鈴花と書かれた文字。
指が止まってしまう。
すぐに閉じればいいだけなのに。
俺はまだ彼女に謝っていない。
そして、タツにもちゃんと謝ることができていない。
「俺さ、木下さんに謝ってほうがいいのかな…」
「えっ」
謝った方がいいってわかってるのに質問してしまった。
それでタツは困ったような顔をした。
俺は答えを知っているのに、質問してしまったから。
どうして俺はこの問題になると弱るんだ。
いつものように明るく解決したいいのに。
「リュウがした方がいいって思うなら、した方がいいのかも」
「タツは自分の意見をズバッと言うのに珍しいな」
いつも彼はまっすぐですぐに答えを言ってしまう。
今回のことなんて、謝るが一番の正解のはず。
なのに、しなくていい選択肢を与えるなんて。
やっぱり、困ってるから?
「そう?だとしたら、話題が珍しすぎるし、僕はリュウを家に泊めただけの存在で、2人の問題だろ?そこらの常識は疎い」
つい笑ってしまいそうになる。
タツが誰かを好きになってる姿が想像できなかった。
ゲームにもまっすぐで、結婚するなら二次元と!って言いたそうな彼だ。
タツに好きな人ができたら全力で応援しよう。
その人がいい人であるように願おう。
「でも、謝るなら早めがいい。今ならまたリュウが泣いても慰められる人が1人ここに」
自分を親指で指し、ニコリと笑ったタツに嬉しく思う。
1人になった時のあの感覚。
ずっと続くくらいなら、タツに慰めてもらおう。
男として恥ずかしいが。
「あー、タツの部屋に行ってもよろしいですか?」
「よろしいです」
タツの両親は昨日俺が泣いたことを知っている。
が、実際に見られるのはまた違う。
タツよりも先に部屋に戻り、座る。
でもどうしようか。
彼女に謝ってる時にタツに見られながら謝るのはなんか嫌だ。
それに、ずっとずっと変な俺を見せ続けたくない。
謝るなら、心から謝りたいし。
そうぐるぐる感じている時に視界が歪んだ。
「なータツ」
「んー?」
「俺泣きそう」
「謝る時って泣きながらの方がいいんだろうけど、内容が内容だからこらえろ」
やばい俺泣く確定なんだけど。
我慢したとしても声絶対震えるし。
タツそれは無理なことだ。
なんとかしてタツを外に追い出したい。
泣くじゃん絶対。
さっきからずっとある気持ちもあるし。
「保冷剤持ってきてくんねー?ちょいあったかめの布も」
いい案だと思った。
腫れた目に温かい布は効くと聞いたことがある。
実際にどうかはわからない。
でも、時間稼ぎにはなるだろうし。
「はいはい」
なぜか半笑いのタツはゆっくりと部屋を出た。
出てすぐ俺はスマホの通話アプリから鈴花という文字を押す。
心の準備をしていなかったが、彼女はワンコールで出た。
「鈴花ちゃん、あのさ、」
『龍司くん!ごめん。ごめんねっ、!』
彼女の声を聞いた瞬間にあの時の恐怖がまた襲ってくると思っていた。
でも違った。
俺が謝ろうとしていた。
なのに彼女が先に謝って来た。
そのことに少し戸惑った。
焦った声、告白の時以来で、俺自身も少し戸惑う。
「いや、俺こそごめん…」
『龍司くん、嫌だったよね。ごめんね、無理やりとか、ほんと最低なことしたし、』
鈴花ちゃんはずっと泣いていたのかもしれない。
鼻水を啜りながら必死に謝っている。
彼女は、俺みたいに誰かに慰めてもらいもせず、ずっと泣いていたのかもしれない。
俺が思えることじゃないが、可哀想だと思った。
「俺も、鈴花ちゃんを置いて逃げた…俺も最低なことを、」
『言い訳かもしれないけど、龍司くんたくさん経験あると思ってて、それで私…』
「初めて…だったんだ、」
『気づいた時のあの表情でわかったよ。でも私、止められなかった…どうせ抵抗できないでしょって思っちゃって、』
実際にあの状態では抵抗できなかった。
怖かった。
知らないことばかりで、怖かった。
そのことを思い出して、目に溜まってたぬるい水が頬から流れてくる。
『ゲームのことも、私、龍司くんが好きだって知っててあんなこと、ほんとにごめんっ…』
「大丈夫、少し落ち着いて。ごめんって気持ちは伝わったから。だから、ね?」
『でもっ、でもっ…ほんとに出来心で…』
「大丈夫、伝わってるから」
俺は無知だっただけ。
無知だったせいなんだ。
だから鈴花ちゃんを悲しませた。
彼女に答えられなかった。
今はそのことが悔しい。
『また、付き合ってほしいなんて言わないよ。ごめんって言えずに別れるものだと思ってた。電話、ありがとう』
「んーん、俺も謝りたかったから。それに、好きって気持ち、どっかいっちゃった…ごめんね」
『怖かったよね。私、調子に乗っちゃって』
「次好きになる人にはちゃんとゆっくり接していくんだよ」
『うん』
彼女と別れた。
最初に好きになった女の子。
俺は無知だから傷つけてから別れてしまった。
俺に恋愛は向いていないのかもしれない。
相手を傷つけるだけだから。
「俺もさ、怖いしかなくて、逃げちゃって、鈴花ちゃん罪悪感でいっぱいだったのに、逃げちゃってごめん…」
『んーん、悪いの私だし』
「俺にも悪いところあったよ。だからその、ごめん…」
『悪いとこなんてなかったよ。でも、ありがとう』
優しかったのに、すぐに壊れてしまう。
恋愛は難しい。
好きになるって難しい。
やっぱり、向いてない。
誰かに好意を寄せられていると思うともう鳥肌が立つ。
誰かを好きになりたくないし、誰かに好きと思われたくない。
もう恋愛したくない。
『トラウマになってない?』
「どうだろ」
『なってしまってたら…ごめんね、ちゃんと反省してるから…』
「そっか、うん…なら、平気だよ」
お互いに泣きあって、お互いに謝りあって、お互いに別れを告げて。
失恋はきついって聞いたことがある。
でも俺にはわからない。
これがきついなのか、わからない。
ただ、胸が空いた気持ちになる。
『龍司くん。学校で会ったら、話しかけない方がいい?いやなら、話しかけない。私、電話越しで謝れたけど、顔を合わせてちゃんと謝りたい』
「わかった」
『明日、学校で、また…』
「うん、最後にごめん。それじゃあ、」
『私も。ごめんね』
通話が切れた音。
涙がこぼれ落ち、タツから借りた服が所々濡れてしまっている。
ガチャと入って来たタツは静かに俺の隣に座った。
鈴花ちゃんは誰にも慰めてもらえないのに、俺には慰めてくれる人がいて、幸せものかもしれない。
「ごめんって、誤りあった」
「うん」
「出来心って言ってた」
「うん」
「お互いに気持ちを言い合って、さよならした」
「そっか」
坦々と相槌を打つタツは安心したような表情をした。
ちゃんと仲直り出来たことに安心してくれたのかもしれない。
「好きって気持ちって、簡単に壊れるんだな…」
そう言うと、タツは苦しそうな表情に変わった。
変なこと言っただろうか。
いや違う。
タツは優しいから、俺が失恋して一緒に悲しんでくれているのかも。
「簡単ではないだろ。こうやってお前、たくさん泣いてんじゃん」
「確かに…?」
簡単ではない?
泣いてるから?
よくわからないけど、わかったような気持ちになる。
「好きって気持ちは感情だろ?リュウの気持ちは辛かったり、悲しかったりだったんだろ?行動では簡単かもしれないけど、気持ちは簡単じゃねぇよ」
ああそっか。
俺はちゃんと鈴花ちゃんのことが好きだったから、たくさん泣いて、失恋したんだ。
じっくりと失恋したのだから、簡単ではない。
そうタツは言いたいんだ。
なんだよそれ、いろんな当て馬のキャラたちって辛い目にあってばっかじゃん…
報われない恋も、悲しいものだ。
「あ、でもリュウは単純だから分からないかも」
「おい、かっこいい言葉が台無しだぞっ…」
「いいよ。僕にかっこいいは向いていないし」
「タツはかっこいいぞ?」
「泣き顔で言われてもなぁ〜」
笑った。
タツはどんな時でもきっと俺を明るくする。
タツはかっこいい。
時々眩しくて、目を細めてしまうほど。
行動一つ一つが俺の心を癒してくれたから。
実際に、髪が濡れた状態のタツはカッコよかったと思う。
行動とかではなく顔が。
水泳の時間の時マジマジと見ていなかったからびっくりした。
「やっぱ、タツの側は楽だな」
「そう?明るいの間違いじゃないか?」
「明るいから楽なんじゃないか?よくわからん」
「本人がわからないなら神様だって分からんわ」
「神さま、俺はどうしてタツの側が楽なんですか!」
「なんか照れるからやめろ」
こうやって笑顔が出て来て、2人でふざけて、そうしている時間が楽しい。
ゲーム以外でもたくさん話したい。
放課後以外でも話に行ったら迷惑かな。
タツにも友達いるだろうし、やめとくか。
そう考えているうちに眠気が襲って来た。
泣いていたから目が疲れていたのかもしれない。
俺寝てばっかな気がするのに。
「よっしゃ、眠いから寝る」
「は⁉︎」
「泣き疲れてねみぃの!」
「あ、そ、そうですか…」
後ろにあるベットに飛び乗り、布団を被る。
目を瞑ると今すぐにでも寝れそうなほど眠い。
タツの布団からはよくお日様の匂いがする。
そして、タツの優しい匂いも。
「タツ、ありがとな」
「お、おう?」
「タツの家の前に行った時、なんでここなんだろって思ってた」
友達なんてたくさんいる。
その中でタツの家だった。
タツと一緒にいる時楽だって知ってた。
でも、ずっと話していなかった人だったから。
だから、どうしてここなんだろって。
「ん?」
「でもさ、趣味が合うのってタツな訳じゃん?価値観も何となく似てるって言うか…」
「うん、」
「話して楽になる人のところに行ったんだなーって思ってさ。なんかはっず」
「いや恥ずいのこっちこっち」
顔が熱い。
なんで俺こう言うの言い出したんだっけ?
その場のノリ?
匂いに誘われた⁉︎
タツの家の布団の力つえぇ
まぁでも、言い出したんだしどうにでもなれ!
「つまり!」
「はいっ!」
「お前が友達でよかった。タツみたいに軽く相談してくれる人なかなかいないし、みんな相談し始めると重く感じてくるからさ。1番は切り替えの速さだけど」
そう言うところに俺は安心した。
優しくしてくれるところは優しくしてくれるし、楽しまなきゃいけない時は楽しいし、慰めてくれる時は程よい程度だし。
それに、
「しんみりとした感覚、そこまで得意じゃないし」
俺のせいで空気が悪くなるのはもっと嫌だ。
いやまぁ、あの時すごく優しくしてほしいから自分の知らなかった弱さとか見せてたけど、
あれ今考えると恥ずかしいな!
「初めて知った」
「え、タツも得意じゃないと思ってた」
「リュウのそう言った空気は得意じゃない。お前にはずっと笑ってほしいし」
「なにそれ恋人っぽい」
「すみませんねぇ、恋人っぽくて」
「怒んな怒んなw」
タツが恋人になったら楽しそうだな。
男同士だしないだろうけど。
それに俺は恋愛なんてもうしないつもりだし。
誰ともずっと友達でいたい。
今幸せなら、それが俺にとって1番いい未来なんだ。
でも、こう言うノリって、
「なんか久しぶりだなー」
「リュウが僕と会ってくれなくなったせい」
「うぐ、これからはちゃんとまたゲームの話をしよう!」
「言ったなー?僕はリュウがいない間は喋り相手がいない分ゲームに集中してリュウより強くなってるからな」
「タツって人の心エグるよな…」
デイリーしかできなくてすみませんねぇ!!
そりゃあまぁ楽しかったけど。
でも俺だって、ゲームのこと、少ししかできなくて少し嫌だったんだ。
タツにちゃんと謝りたい。
なのに口が動かない。
鈴花ちゃんに謝るよりずっとずっと簡単なはずなのに。
嫌になってまた布団を被る。
彼に突かれても、名前を呼ばれても反応するのがおこがましく感じてしまって、瞼を閉じる。
このまま眠ろう。
タツがやるゲーム音は心地よいオルゴールみたいで眠気を呼ぶ。
リュウ視点は短くするつもりです




