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鋭い凡人と鈍い美形と  作者: 雨露 甘雨
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鋭い君の優しさ

タツの家の前。

俺はどうしてここにきたんだろう。

俺は彼との約束を破って、彼女を優先した。

そんな彼女から、逃げてここにきた。

もっと他の家があったはずなのに。

いや違う。

1人になれるところなんて、どこでもあるのに。

体は震えながら、彼のインターフォンを鳴らす。

雨の音は俺の存在をかき消してくれるような気がして心地よい。

すぐに開いた扉から彼を目の前にした瞬間、体が動いた。

「タツ、タツ」と名前を呼びながら、抱きしめていた。

涙が止まらない。

安心してしまって、止まらない。

こんな安心できる人なのに、俺は一緒にいることを辞めたんだ。

まるで都合のいい男だ。

必要のある時だけ頼る、そんな最低な。


「ごめんっ、ごめん…」


こんな俺でごめん。

急に来てごめん。

服を濡らしてごめん。

迷惑かけてごめん。

色々と、ごめん。

謝りたいことはいっぱいあるのに、泣くことしかできない。

タツは俺を抱きしめてくれた。

汚い心を持った俺を抱きしめてくれた。

それが少し嬉しくて、少し嫌で、それでもやっぱり嬉しいが勝っていて、抱きしめる力も強くなってしまった。


「風邪ひくから、とりあえず中入りな。シャワーでも浴びる?服は小さいけどいいよね?同じ下着でも平気?」


どうしてタツはそんなに優しいんだ?

どうしてタツはすぐに行動に移せるんだ?

どうしてタツは俺をすぐに包み込める?

どうしてタツは俺をこんなに安心させるんだ。

分からないことだらけ。

でも、彼がいてくれてよかった。


「ゔん、ありが、とぉ…」


掠れた声。

体が震えると共に喉が震えて、言葉も震えた。

俺の冷たい体がタツの温かな体で解凍されていくような感覚になる。

タツの力が弱まると、俺から体を引き剥がし、腕を引いた。


「おじゃま、します…」


久しぶりの感覚。

彼の家に最後に行ったのは約半年前。

タツの両親はいい人で、うちの両親と変わらないぐらい明るくて、楽しい家族。

まるで第二の家で、落ち着く。

だから無意識にここだったのかなと考えるくらいには。

気づけばそこは脱衣所で、俺は体が動かなかった。

頭がぼーっとして、力が入らなかった。

タツを抱きしめた時は力が入ったのに。

その姿を見てか、タツは俺の服を脱がせた。

見られてしまった。

タツの顔はどこか苦しそうで、また謝りたくなった。

迷惑ばっかりかけて、俺はダメダメな人間だな。

上を完全に脱がせられると、俺の服はカゴの中に入れられた。


「ちゃんとシャワー浴びてね。シャンプーとか自由に使って。着替えの服取ってくる」


テキパキと動くタツを見習って、彼が脱衣所から離れた時、ダラダラと服を脱ぎ、カゴの中に入れた。

全身にある跡。

あの時の恐怖を思い出す。

涙が止まらない。

シャワーは雨と同じように俺の涙を隠すが、感情までも隠してくれない。

どうせなら、全部隠してくれよなんて思いながら、力の入らない手で全身と頭を洗う。

香水の匂いがタツの匂いに変わっていく。

甘い匂いから、スッキリした匂いに変わっていく。

その安心感でシャワーを止めた。


風呂場から出ると、そこには綺麗に畳まれたバスタオルとタツの服。

全身を拭き、タツのオーバーサイズ用の服を着ていく。

少し小さめだが、気にするほどではない。

使ったタオルは空になったカゴの中に入れ、脱衣所から出る。

リビングにタツの姿はなくて、タツの部屋へと足を運ぶ。

一段一段が重たくて、手すりに必死に掴まりながら上がった。

ドアを開けると、タツの姿があった。


「これ持って」


渡されたのはハンカチで包まれた保冷剤。

何に使うんだ?と思いながら、受け取る。

ずっと触ってると冷たくて、雨の中歩いてたのを思い出す。


「これ以上悪化させたら大変だから」


もしかしてこれ、目の腫れのために?

そういえば、腫れた時って冷やせばよかったんだっけ。

鏡を見るのが嫌になって、自分の顔を見ていなかった。

酷い顔になっているのだろうか。

彼の優しさに触れてしまって、また涙が出てきそうになる。

こんなに泣き虫じゃないのに。

弱さなんて、あまり人に見せないのに。


「ありがとう、ここまでしてくれて…」

「いいよ。リュウにはよく助けられてたし」


その言葉に本当に涙が出そうになった。

助けてた?

助けていた?

俺が?

いつ?

タツとはゲームの話しかしていないじゃないか。

他の友達のようにノートを貸したり、部活のサポートをしに行ったりなどしていないのに。

まずタツは帰宅部だし。

俺がいつタツを助けた?

タツの優しさが俺の胸に刺さって離さない。

ベットを背に、丸くなる。

保冷剤を目に当て、タツに謝罪しまくる。

俺はタツの優しさを利用してるだけだ。

最低な男なんだと思いながら。

タツが立ち上がり、ドアの方へ向いた。

その瞬間、消えてしまうと思った。

いかないで。

口には出なかったけれど、俺は彼の服を掴んだ。

最低な男だとはちゃんと理解している。

でも、今は一緒にいて欲しい。

1人じゃ、色々と考え込んでしまうから。


「リュ、リュウ?」


そんなまっすぐな目線を送らないで。

わかってる。

ここはタツの家だから、どこにも行かないって。

でも安心できない。

俺が安心できる所は、今、タツの側だけなんだ。

他の誰でもない、優しすぎる君のそばだけ。

察し能力が普通よりも高い君の近くの居場所が心地良すぎて、依存しかけているだけだってわかってる。


「ごめん…すぐ、戻ってきて」


震えた声。

弱さを見せると余計に優しくなるタツのせいだ。

人のせいにでもしなければ俺自身も初めて見る自分の弱さを説明できない。

そんな自分も怖くなって、また下を向くことしかできない。

ガチャという音が聞こえ、タツが出て行くのを感じる。

1人になっただけなのに襲いかかってくる寂しさと恐怖。


「寒い、冷たい…」


温まった後だというのに、どこか寒くて、体も震えてくる。

それらに耐えた数分後、タツは帰ってきて、麦茶を持ってきた。

冷たい麦茶がまた体を冷やす。

しかし、先ほどより寒くない。


「急にごめんね。ちょっと、色々あって…」

「いいよ。助けになれたなら」


その助けが怖い。

でも、もっと優しさを感じたい。

俺のことを話したら、もっと優しくなるのか?

可哀想だって、優しく接してくれるのか?

包み込んで、俺を守ってくれるのか?

そう思っている時には口が滑っていた。


「タツ、俺、お、れ…」


だというのに声は小さく、言葉が出てこない。

喋って楽になりたい。

この胸のどこか感じる空間を見て欲しい。


「辛いならいうな」


違う、違うんだタツ。

俺は可哀想な俺を見て優しくして欲しいだけ。

こんなに弱った自分を見るのは初めて。

だから怖いという感情から早く元に戻りたいだけなんだ。


「どうしてリュウがこうなったのかは気になるさ。でも、僕はまたリュウが嫌な目に遭う方が嫌だ」


これも一つの優しさだって知ってる。

でも、今欲しいのは違う。

はは、今日のタツもどこかおかしいや。

いつも鋭いのに、俺を心配しすぎて察してない。

タツが悪いんじゃない。

俺のせいだ。


「ごめん、言わせて」


楽になってから、またタツとゲームがしたい。

楽しく、元気に。

喋り出す、約1時間前の出来事。

喋り出したら思い出して何もかも震え、涙が止まらなかった。

性行為というもの。

俺はちゃんと知っていると思っていた。

あんなに怖いものだとは知らなかった。

暗い部屋で動けなくて、知らない感覚が襲ってくる。

相手も中に入れていて、あの時の感覚と熱さが気持ち悪い。

彼女の聞いたことない甘い声がまるで自分が彼女に暴力を振るっているような感覚になって。

殴られてあんな声出るはずないってわかってる。

でも、怖さがそう思わせた。

こんな感じとは知らなかったんだ。

最後には、俺が大好きなゲームを盾にされ、抵抗することすら出来なかった。

解放されてからは早く服を着て、荷物をまとめて逃げた。

最低な行為だとは知ってる。

でも今すぐにでもあそこから逃げ出したかった。


「俺、ほんとに、怖くて、こわくて…俺もう、鈴花ちゃんのところに、いれないっ…」


きっと彼女のそばにいたら俺は思い出し、弱くなる気がする。

もう弱くなるのなんて嫌だ。

自分が最低に見えて。

いや、ずっと最低だった。

こうして優しくしてくれるタツを放って、彼女にばかり接して、最後には彼女を捨ててタツのところにいる。

他の友達のところにはちゃんといたのに。

彼のところにだけ俺は行かなかった。

彼との放課後の時間を全て鈴花ちゃんの時間にしてしまった。

メッセージすら飛ばさず、クラスが違ってからは顔を合わせることすらしなくなった。

もう5月。

今更タツのところに戻ってきて、優しさを求めるなんて最低だろう?

それでも、


「リュウ」


彼の広げる腕の中はきっと暖かくて、求めずにはいられないんだ。

きっとタツはこれ以上は優しくせず、いつも通りに接してくれる。

それがタツなんだ。

今だけ、こうして優しくして、次は俺をいつもの俺に戻すために、タツもいつも通りになるんだ。

俺の背中をトントンと優しく叩くリズムが俺を落ち着かせ、頭を撫でる手が少しずつ心を癒す。

たくさん喋って疲れた俺は、彼の温もりに当てられながら眠くなって行く。

もう大丈夫だ。

弱くなるのは、今だけでいい。

今は、タツの優しさに包まれていたい。

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