今宵、ゴールデンウィークは破滅を告げるッ!!!!! いやだいやだいやだいやだ嫌だ。嫌だ! 嫌だ嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁあああ!!!!!!!!!
「今宵、ゴールデンウィークは破滅を告げる……ッ!」
「何を言っているの、お兄ちゃん!」
ある日曜日。あるゴールデンウィーク最終日の夜。僕は実家の自室で、片手で顔を隠しながらそう不敵に笑っていた。
電気を消し、薄めの毛布をマント替わりに纏っているので、僕はなんだか闇の支配者みたいな雰囲気を放っていた。
そう。中二病である。
「何って、ただゴールデンウィークを召喚しようとしていただけなんだけど?」
「お兄ちゃんがついに狂った! いや元々狂ってたけど、ゴールデンウィークの最終日がキッカケに狂った!」
「おい! 中盤の言葉は余計だぞ!」
……黒髪ショートの中学生である妹の言葉遣いは、中々に酷い。誰だよ、こんな可愛い妹にこんな言葉遣いを教えたやつ! ……僕だよ!
「……はあ、なんでこんなお兄ちゃんを私は持ってしまったんだろう」
「なあ妹よ。ご飯の時間はいつだ」
「今日はお母さんもお父さんも外食なんだって! 私も誘われたんだけど、お兄ちゃんを独りで家に残していくのは可哀想だからやめたよ」
……黒髪ショートの中学生である妹の心優しいは、中々に完璧だ。誰だよ、こんな可愛い妹を更なる天使に育てたやつ! ……僕だよ!
「というか、なんで父さん母さんは僕のことを外食に誘ってくれなかったんだよ!?」
「さあ? お兄ちゃんが昨日、晩飯はカップラーメンで十分とか言ってたからじゃない?」
「あ、あう」
僕の疑問というか、嘆きは一瞬で破滅した。
それだ。それが、理由だ。どうやら僕は自分の発言で、自分の肩身を狭めていたらしい。
「でもお兄ちゃん、カップラーメンでいいの? 夜ご飯。このままだと本当にカップラーメンで今晩を過ごすことになるけど」
「……ゴールデンウィーク最終日。僕の最後の晩餐が、カップラーメンで終わるのは嫌だな」
「最後の晩飯って大袈裟すぎじゃない? お兄ちゃんは、ゴールデンウィークにしか生きられない生き物なの?」
「そりゃ言い得て妙ってやつだな」
本当に僕はそうかもしれない。
ゴールデンウィークみたいな休暇でしか、生きている心地が僕はしないのだ。つまりゴールデンウィーク以外、自分は”死んだ状態で生きている”といっても間違いではない。
つまり、そういうことだ(意味が分からないけれど、あえて説明しないでおく)!
「私が手心を込めて、美味しいご飯をつくってあげようか?」
「それは嬉しいけれど、なんかお前に悪い気がするし……」
僕はなんだか悪い気がして、その提案を飲み込むことは出来なかった。自室に設置された小さな窓の先、真っ暗な外に僕は視線を移す。
「じゃあお兄ちゃんが食材になるってのはどう?」
「何の脈絡もない話なのに、『じゃあ』って言葉をつけるのはやめよう! というか、さらりと妹ちゃんヤバイこと言ってないか!?」
「毒を以て毒を制すならぬ、狂人以て狂人を制す的な」
「何言ってんだよ、お前」
「なんだこのお兄ちゃん! せっかく私が、気色悪くて気味悪くて正直キモイお兄ちゃんの中二病なノリに付き合ってあげたのに」
おい。
ただ冷静にツッコミを入れただけなのに、なんだこの言われようは!
「待て待て待て待て──それ以上を口にすると、ゴールデンウィークが終わりを告げる前に! 僕の人生が終わりを告げて破滅するぜ?」
「いいよー、そんなことべつに」
「妹ちゃんにとって僕の人生は、そんなこと程度か!?」
中々辛辣である。いや、中々……じゃない滅茶苦茶辛辣である。
「うん。破滅していいよ、ゴールデンウィークと一緒に」
「ゴールデンウィークはとんでもないものを盗んでいきました。妹ちゃんの真心です」
すっかり心が疲弊して、泣きっ面になりかけていた僕をにこやかに、妹は笑ってみせた。
天使じゃなかった。
コイツは悪魔だった。
「お前……あまりないちょっと長めの休暇中に、ヤンキー気味になったんじゃないか?」
「ゴールデンウィーク中ずっと、えっちな本ばかり読んでたお兄ちゃんには言われたくないよね」
「──ッ!? なんでそんな事を知っているんだ……我が妹よ」
「見てたから」
僕は妹が言い放ったその五文字だけで、十分に破滅できる自信があった。謎の自信が僕にはあった。いやむしろ、逆に出来ないわけがない。きっと、塵一つ残らず破滅出来るだろう。
まさか、その瞬間を見られていたとは……。
「私はこのゴールデンウィークを有意義な使い方したよ? お料理の修行につかったり、溜めてたちゃんとした本を読んだりさ」
いつからお前はインテリ系になったのか。
お兄ちゃんは、そんな妹ちゃん知りません!
「ぐぬぬ、僕だってあんな事するのは夜ぐらいで! 昼は色々してたぞ! 昼寝しながら色々と妄想したりな」
「うわー……」
──まずい!
妹に、僕はなんてことを口走っているんだ。流石に我が妹でも、こんなお兄ちゃんの失言醜態を目にして引かずにはいられない様子だった。
……自爆するしかねえ!
「な、なあ、妹よ。今のは失言だったと僕も理解した。たったいま。だから、今の発言は少し記憶から消してくれると助かる」
「大丈夫だよ。言ったでしょ?」
「え?」
しかし、彼女は再び微笑んでみせた。屈託のない笑顔で。
「元々お兄ちゃんがここまでヤバイ人で狂っているのは、随分前から知ってたからさ」
それは全然フォローになってないし、そんなこと知らなくていいのだが、というツッコミはともかく。
「……泣」
思わず、その言葉に僕は瞳から溢れてしまうものを感じていた。感じられずにはいられなかった。
「ほら、実はさ」
「なんだい、天使様よ」
「これ」
彼女はどこからかスッとおにぎりを一つ取り出した。
なんだこりゃ。いや、おにぎりなんだけれども。
どういう意図なんだろうか?
「まあお兄ちゃんは私が手料理作ろうかっいっても悪い気がして断るだろうなーって思ってたから。先におにぎりを作っといたんだよ」
「妹! 妹おおおお!!」
「うわっ、急に抱きつかないでよ!?」
僕は思わず妹にタックルかますように、抱きついてしまった。毛布なんて床にぽいと捨ててしまって。そんな奇行に、僕は走る。
……あまりにも妹ちゃんが天使すぎたので、僕は涙をこぼしてしまうのだった。
◇◇◇
数分後。僕はベットで妹ちゃんがつくったおにぎりを、泣きながらほおばっている最中だった。
その味を表現するのはかなり難しい。
言うとするなら、変に難しい言葉を使わず、月並みな言葉で『美味い』となるだろう。強いて言えば、その言葉が一番似合っていた。
「美味しい!」
「そりゃ良かった~」
「美味い! 美味い! 美味い! このままだとゴールデンウィーク柱になってしまいそうだ」
「はい?」
あまりにも意味不明だったのか、彼女が低いトーンでそう言った。はい。ゴールデンウィーク柱です。一の呼吸、明日月曜日!
うぐッ!
──致命傷だった。
「あ」
「なんだい妹よ」
「そういえば聞くの忘れてたけどさ、お兄ちゃん。学校の課題。終わったの? 今日はゴールデンウィーク最終日で、明日は学校なはずだけど」
「……ふっ、もちろん」
もちろん、終わっていない。
────そこでようやく思い出した。
そういえば僕は今日、今までやっていなかった課題を終わらせてやろうと画策していたのだと。
そして今はもうゴールデンウィーク最終日、夜の七時であると。
……。
「終わってない」
「それって、非常にまずいんじゃない?」
「まずいし、不味い。このおにぎりが美味くて上手いのとはまるで正反対だな」
「ねえそんなふざけている暇あるの」
……。
……ない!
「────」
……あれ、それってかなりまずいし、まずすぎないか?
「あ。ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああやっべぇええええええええええええぇぇぇえええぇぇぇえええぇぇぇえええぇぇえええぇぇぇえええぇええええええええええええぇぇぇぇぇええええええ!!??!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
そして間もなくだった。
僕の絶叫が、自室で、いや、この一軒家で、いいや、この街に響き渡るのだった。
いつの間にか窓から差し込む外の景色の先──夜空には綺麗な月が懸かっていて、中二心がそそられる時間帯になっていた。
今宵、ゴールデンウィークを破滅を告げる。
ついでに僕の人生と課題と声帯も、破滅するのだった──。
そして。ゴールデンウィークという休みは、天国のような時間であるのと同時に、非常に恐ろしいモノなんだということを僕は強く実感する。
あと数時間でゴールデンウィーク最終日終わるって、マジ?
【お願い!!!!】
ということで少しでも絶望できた、ゴールデンウィークもう少し楽しみたかった、ゴールデンウィーク楽しかった、ゲームしたい、面白かった、お前(作者)馬鹿だよ? と思った方、どれかに当てはまったり共感してくれた方はぜひ【ブックマーク】や【評価】をいただけると、モチベーションがとても上がって嬉しいのでよろしくお願いいたします!