再会
黒服に案内された部屋に移動した
無事に、とは言えないがソーレを落札した俺は二つの契約をする為にこの部屋にいる
「この度はご購入いただきありがとうございます。奴隷商のグラタと申します。よろしくお願いいたします」
俺の目の前にいる怪しげな装飾を付けた男が口を開く
「冒険者のリヒトです。よろしくお願いします」
それにしても部屋の何処にもソーレがいない、
「心配しなくても直ぐに会えますよ」
心を読まれた!?
「リヒト様がこの誓約書に血判を調印なさった後ですが……ね」
渡された誓約書に目を通す
債務者担保全権譲渡書 通称債権書
そこに書かれている内容をまとめるとこうだ
債務者である俺は債権者でもあるグラタに借金を返済する
返済できなければ全身の臓器と全ての所有物を売り飛ばされることになる
それでも返済しきれない場合は親や親類にまで返済の義務が生じる
だが、不幸中の幸いとでも言うべきか孤児院を出た今の俺は天涯孤独の身、仮に全てを失うことになっても俺一人の犠牲だけで済む
「契約させていただきます」
「では、こちらをお使いください」
グラタから血判用のナイフを受け取り書類に調印してグラタに返す
「……確かに受け取りました。では、早速お呼びいたしますね」
グラタが黒服に耳打ちする
「奴隷が来ましたら私からリヒト様に所有権を譲渡いたします」
「……譲渡しなくていいです」
「?」
グラタは首をかしげている
当然だこんなを提案されたことは初めてだろう
「俺はソーレを自由にしたいんです」
「奴隷を開放するつもり……ですか、希望でしたらそのように致します。が、逃げられても自己責任ですよ」
「一緒にいる事を強要したくないので構いません」
俺はソーレが好きだ。その気持ちは今も変わっていない。でも、一緒にいることを強要してまで一緒にいようとは思わない
「承知しました。では、そのように致します」
グラタは口角を上げた
◆◆
グラタに耳打ちされた黒服がソーレを連れて来た
「……ソーレ!」
「リヒト……?」
八年ぶりに会ったソーレは別人の様に変わっていた
輝きを放っていた金髪は薄汚れ、透き通っていた碧眼の左側は失われ、髪で覆われている
全身には鞭で打たれたであろう細かい傷が刻まれていた……
ソーレの境遇を考えれば不謹慎かもしれないが、二度と会えないと思っていた初恋の人に再会できたこと自体は素直に嬉しかった
「もう大丈夫だよ、ソーレ」
「リヒトが、買ってくれんだね……」
ソーレは俯いている
「それでは手はず通りに執り行います」
ソーレの胸元から奴隷紋が浮かび上がり同じく右手に紋を浮かべたグラタが手をかざす
グラタの手から紋が消えて、ソーレの胸元からも奴隷紋が消えた
「リヒト様、これでソーレさんはもう奴隷ではございません」
「な、……んで、」
ソーレは目を見開いて硬直している
「もう、ソーレは奴隷じゃないんだ。もう、苦しまなくていいんだ」
ソーレの肩に手を当てる――
「――きゃっっ!」
ソーレは小さな悲鳴を上げて肩を震わす
「ごっ、ごめんいきなりだった……」
急いで手を離す
「いっ、いいの、リヒトは何も悪くないの……悪いのは……」
ソーレが小声でつぶやいているがよく聞こえない
「グラタさん、これからもよろしくお願いします」
グラタに意識を向ける
「私、もう何十年もこの仕事をしていますが、購入した奴隷をその場で解放した人は初めて見ました。あなたはとても面白い人だ。こちらこそこれからもよろしくお願いします。」
グラタに別れを告げた俺は再びソーレに意識を向ける
「とりあえず、外に出ようか」
「……うん」
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