冤罪で婚約破棄されたけどもっとヤバい罪を犯しているので全然気にしてない系令嬢
やべぇぇぇぇ!!!! ばれたぁぁぁ!!!
「ジャクリーン伯爵令嬢。貴様との婚約をこの場で破棄する! 貴様の行動は目に余る!!」
「い、いや、殿下! ななな、なん、で突然そんな事をぉ!? か、かいもきゅ見当もつきませんわぁ!?」
「いくらなんでも動揺しすぎだ!!」
動揺もする。焦りもする。正直もうだめだとも思う。
ぶっちゃけ婚約破棄される覚えがありまくるからだ!!
場所は、王城の広間。夜会の真っ只中であり、幾つもの目が私達に刺さる。こんな中で糾弾されたのなら、もはや言い逃れの余地などないではないか。
「どどど動揺!? な、何を言っているのかさっぱり????」
「無理あるって! さっさと認めろ! お前がアメリアに行っていた嫌がらせ行為は分かっているのだ!!」
「え?」
「え?」
あれ? そんな事?
もしかして、私が魔王軍に情報を流してるのとかばれてない? 魔族軍に武器を横流しにしているのも? たかだかいじめくらいしかしてなかったと思われてるの?
なら……
「はい! そうです! 私がしました!」
「何故開き直る!?」
危ねぇ〜。私普通に国賊だからバレたら殺されるんだよね。
しょうもない罪だと思われてるんだったら乗っかっちゃお!
「いやぁ〜バレちゃったかぁ。バレちゃったなら仕方ないですねぇ〜」
「開き直りすぎだろ!? もうちょっと悪びれろよ!」
「とは言ってもですよ、殿下。もう私の罪は明らかです! ここから何を言っても意味などない事でしょう!」
ぶっちゃけ、すぐに私の罪を確定させて話を終わらせたい。
マジの罪人だから罪人扱いは当たり前だけど、嫌疑をかけられている状況は生きた心地がしないのだ。
「いや待て。貴様が一体何をしたのか、この場のみんなに説明させてもらう! 来なさい、アメリア」
「はい、殿下」
アメリア男爵令嬢。
大輪ではなくとも華であり、月ではなくとも星であり、炎ではなくとも輝く令嬢。彼女は圧倒的な美貌を持つ傾国の女ではないものの、庇護欲を掻き立てる小動物のような愛らしさを持っていた。
目を泳がせ、落ち着きのない様はおよそ貴族にあるまじき醜態ではあるものの、そんな事に不快感を抱く者などいるはずはない。むしろ、彼女を怯えさせる環境が悪いのだと責任を転嫁してしまうだろう。
事実、殿下は心配そうな視線をアメリアに向ける。
「すまない、アメリア。怖い思いをさせて。思い出したくもなかろうが、ジャクリーン伯爵令嬢にされた事を話してくれるか?」
「……分かりました、殿下。実は……」
「お待ちくださぁい!!!!」
「お前さっきからテンション高いな!?」
長話はノーサンキュー! 私はさっさと沙汰を言い渡されたいのだ。
「私は罪を認めているのにあえて晒し者にするのは不誠実だと思います!」
「ぅ……っ! た、確かに」
「貴族である私を裁くなら国王陛下の許可がいると思います!」
「いや、まあ……そうか」
「なので今から陛下にご報告にあがりましょう!」
「物分かり良すぎるなお前!?」
私は当たり前の事を言っているだけだ。
魔族に与した売国奴として当然の事。つまり、必要以上の悪目立ちを避けなければならない。
だが、それを面白くなく思う者もいる。
「で、殿下! 私はジャクリーン様から大変な辱めを受けました! 大衆の前で傷付けられた償いは、やはり大衆の前での謝罪しかありえません!」
「む? 確かにアメリアの言う通りだ。それが平等というものだろう」
「そうですか? じゃあ謝りますわ。アメリアさん、これまで酷い事をしてすみませんでした。二度としませんわ」
「え、あ、うん……」
なんだ? なんか歯切れが悪い。
もしかして、私が人類を名乗る事すらおこがましい裏切り者だとバレているのだろうか?
「まだ何か私にお望みかしら? なら遠慮せずに言ってくださいな! 貴女への償いのためならどんな事でもしますわ!」
「うむ、殊勝だな。では、改めて父上にご報告にあがろうか、アメリア」
「は、はい。そうですね」
後から思えば、私のこれは冤罪なので、アメリアさんは嘘を言っていた事になる。つまり、私を貶めるために、たくさんの言い訳と捏造を用意していたのだ。しかし、それが必要なくなって肩透かしを食らった。どうにも歯切れの悪い言動は、その感情を如実に表していると言える。
しかし、彼女の誤算はもう少し続く。
「ジャクリーン様、随分素直だな」
「殿下のお話は本当なのかしら?」
「嘘なら従う理由はないだろう」
「しかしなんと堂々としたお姿だろう。むしろ晴れやかにすら見える居振る舞いではないか」
周りの反応が、思いの外私に対して好意的だったのだ。
その時のアメリアの表情は筆舌に尽くし難い。愛らしいはずの目をこれでもかと見開き、愛おしいはずの顔を驚くほどに歪めている。それは瞬く間に元に戻り、あるいは見間違いかと思うほどの早変わりではあるものの、しかし紛れもなく彼女の感情を表していた。
私を貶めるはずが、思ったほどの反応がなかったためである。
「きゃあ!」
「ど、どうしたアメリア!」
アメリアが転ぶ。何もないところで。
「ジャクリーン様に突き飛ばされ……」
「大丈夫ですかアメリアさん!? 殿下! 歩くのが早いです! 貴方は昔からエスコートがおざなりですわ!」
「そ、そうだったのか。すまない、アメリア」
「いえ、そうではなく……」
「気を遣わなくても構いませんよアメリアさん! 私がついていますからね!」
「あ、えっと……はい」
その後は、特に滞りなく陛下にご報告した。
特筆すべき事はない、ごく当たり前の反応が返る。お前は何をしているのかと。何が婚約破棄かと。私には後日正式な謝罪があるらしく、殿下はその場で廃嫡が言い渡された。アメリアさんは随分と腹を立てていたけれど、何を言っているのかはイマイチ理解できなかった。
お前が上手くすると言ったから乗ったのにとか、王太子じゃないお前に価値なんかないとか、かと思えば私も騙されていたんですとか。支離滅裂で要領を得ない。陛下は呆れ顔で兵士を呼び、重ねて私に謝罪をする。
別にそこまでしなくてもいいのにね? 魔族に情報を流した裏切り者にさ。
あ、そういえば魔族が世界を支配した。年を跨いだくらいに。
すぐに降伏したわが国は属国となり、わりかし前までと変わらない生活をしている。