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 ヒナツから聞ける事を全て聞き終えたミーナには、もう一つやる事があった。前からしなければならないと思っていたのだが、中々勇気が出なくて出来ないでいたことだ。


 ヒナツと会ったその日の実家での夕食は、久しぶりに家族全員が集まっていた。何しろミーナが帰宅するのは一カ月ぶりだ。父も兄も、ミーナに会いたくて食事の時間に間に合うように帰って来たのだ。


「ミーナ、具合はもういいのか? 気持ち悪かったりしないだろうな?」


 席に着いた長兄のトーマスは、ミーナの顔を見た途端にそう尋ねてきた。その心配そうな顔に、このところ仮病を使って帰らないでいたミーナの良心がチクリと痛む。


「もう大丈夫よ。修道院で寝ていたら、すっかり元気になったから」


 ミーナがそう答えると、次兄のジェイコブが嬉しそうに言った。


「なら良かった。明日は兄さんも休みだから、久しぶりに買い物に行こう。来週の収穫祭にも帰って来るんだろう? なら晴れ着を買わないと。兄さんが見繕ってやるからな」


 収穫祭は毎年秋に国中で行われる、最も華やかな祭りだ。皆はその日の為だけに晴れ着を用意する。年頃の娘の場合、婚約者や恋人がいるならその男が晴れ着と首に掛ける花飾りを送るのが普通だ。いない場合は家族が用意するのだが。

 嬉々としているジェイコブの横で、トーマスは仏頂面だ。どうやらどちらがミーナの晴れ着を買うかで争ったようだ。


「いいか、花飾りを買うのは俺だからな! それだけは譲らんぞ!」


 断固として主張するトーマスに、ジェイコブは眉を上げる。


「馬鹿言え! そっちの方がメインじゃないか。花飾りは花飾りで、また勝負するからな」

「二人とも、いい加減におし!」


 喧嘩になりそうな兄弟を、母は苦笑しながらたしなめる。

 自分を巡る愛情あふれるやり取りを、ミーナは複雑な思いで見やった。


 この家の娘として生まれてからずっと受けてきた愛情。成長するにつれ、ミーナはそのことに悩むようになっていた。明らかに授かり子の自覚がある自分が、亡くなった娘が本来受ける筈だった愛を、横取りし続けて良いのだろうか?


 しかし悩みながらも、今の今までミーナは家族に授かり子の自覚があると打ち明けられないでいた。理由の一つは彼らの愛情を失うのが怖かったから。もう一つは、これだけ自分を娘として可愛がる彼らに娘が死んだことを知らせ、悲しませたくなかったからだ。


 それでも、いつまでも隠しておくべきでは無いとミーナも分かっている。

 家族がどんな反応を示そうと、これだけ前にいた世界の記憶が戻っている以上、最も親しい者にその事を隠して生きることはしたくない。

 それに、いい加減亡くなった娘に家族を返してやらねば。


 場が落ち着き、皆が食事にかかろうとした時、ミーナは覚悟を決めて口を開いた。


「あのね、あたし、みんなに話があるんだ。聞いてくれるかな?」


 皆がミーナを見る。父がフッと笑った。


「分かったよ、聞こう。実は私達も、お前に話しておきたい事があるんだよ。家族全員があつまるなんて、最近では滅多に無いからな。良い機会だ」


 ミーナはギュッと両の拳を握り締めた。いよいよ、この幸せな時が終わるのかも知れない。


 最初の言葉を発するのに、ミーナはかなりためらった。


「どうした? やはり話すのは止めておくか?」


 父がそう言った時、ミーナは遂に言った。


「あのね! あたし…… 授かり子なんだと思う! ――そういう感覚があるの。だから…… お母さんとお父さんの娘じゃ、多分無いんだ」


 簡単な言葉だ。だが自覚してから打ち明けるのに、十年かかった。

 それからミーナはバッと頭を下げて叫んだ。


「黙っててごめんなさい!!」


 そのまま目を閉じてミーナが皆の冷たい言葉を待っていると、父がこう言った。


「お前に授かり子の感覚がある事は、分かった。だが私達の娘では無いと言うのは、承服出来んな」


 顔を上げると、皆が自分を見ていた。誰もが、いつもの優しい目をしている。

 母がミーナの傍に寄ると、ミーナの背中に手を置いて言った。


「それじゃ、授かり子の記憶が甦ったんだね。ずい分驚いただろう。不安だったよね。可哀想に」

「――驚かないの? 嫌じゃ無いの? あたし、あの亡くなった女の子じゃ無いんだよ?」


 すると父が言った。


「お前が授かり子かも知れないという事は、お前が幼い頃から考えてはいたよ。いや、本当はそうなんだろうと分かっていた。その事を母さんと二人で少しずつ受け入れていって、お前が授かり子だろうがそうでなかろうがどうでも良くなったのが、お前が七歳になった頃だな。それから、ずっと私達の死んだ娘の生まれ変わりだと教え続けてきたお前に、授かり子かも知れないと話すべきかどうか何年も迷った。そして、まずトーマス十八歳になった時に、トーマスには話したんだ。そして二年後にジェイクが十八歳になったから、やはり話した」

「…………」

「その時皆で話し合って、お前が十五歳になったら授かり子の可能性もあると話すことに決めたんだ。ただ、十五歳になった頃のお前は、辛い思いをしていたからな。それで話すのはしばらく保留にしたんだ」


 ミーナが十五歳の頃というと、丁度子爵令嬢の婚約者との騒ぎがあった。


「この頃はお前も大分落ち着いたようだから、そろそろ話そうと思っていたんだ。だが、いつから授かり子だと感じるようになったんだ? 授かり子は今の暮らしとは全く違う、前世の世界の記憶が甦ることが多いと聞くからな。不安だっただろう。そうと知っていれば、もっと早くに話しておくのだったな」

明日も16時前後更新の予定です。

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