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「あたしもタクヤについてそれ程知っている訳じゃ無いよ。あいつは自分の事となるとホントに話さないから。たまにポツリぽつりと言うのを聞いたぐらいだよ。まあそれでも、もう十年近くの付き合いになるから、ある程度察しはつくけどね」

「それで構いません。この世界に来てからの彼がどんな生活を送ってきたのか、少しでもいいですから教えて下さい」

「――分かった」


 ヒナツは紅茶を一口飲むと、話し始めた。


「まずあいつが十二年前に転移した場所だけど、ザンドル王国だったのは知ってる? それも()()ジェノア地方」

「!!」


 ミーナは息を呑んだ。ザンドル王国は、多少は落ち着いたものの今も王位を巡る争いで政情不安定な国だ。しかも十二年前なら、王国が最も荒れていた時期だろう。

 中でもジェノア地方は今も世界中の人々の記憶にその悪名を刻みつけている。

 歴史上最も多くの〝人間の盾〟を使った場所として。


 この世界の主な動力源は、魔獣や霊草などから取れる魔石が発する魔力だが、それは普通に使えば地球で使用される電力やガス等とさして変わらない。

 だが魔石の魔力を凝縮させれば、かなりの破壊力を有する爆弾兵器を作ることが出来るのだ。その殺傷能力は、この世界に存在する他の兵器と比べて圧倒的に高い。ジェノア地方ではこの爆弾が多用された。


 ただ、爆弾を作るには多量の魔石が必要で、その結果保有出来る爆弾の量も限られる。

 そこで争っていた勢力は敵方の爆弾を誤爆によって消耗させる作戦を強行した。

 その為、多くの〝ダミー〟が設けられたのである。

 要人の一行、機密事項である軍の本拠地や重要な軍用施設。それらのダミーを用意する為に、多くの一般国民が人間の盾として駆り出され、犠牲になった。


 そんな場所にこの世界の事など何も知らず、知り合いも身内もいない異世界人が放り込まれたらどんな目に遭うか、火を見るよりも明らかだった。


「酒に酔った勢いで打ち明けられた事がある。何度も騙されて〝ダミー〟に送り込まれたらしいよ。実際に爆弾を落とされた事もあったって言ってた。今も生きているのが不思議だって。あいつがジェノアの事を話したのは、それ一度きり。それ以上の詳しい事情は、絶対に話さない」


 ヒナツは青ざめ言葉を失っているミーナから目を離すと、手元のカップを両手で揺らし、出来る波を見つめながら言った。


「あたしもそこまで酷くは無いけど、こっちの世界にいきなり転移してきたばかりの頃は散々苦労したよ。ホント、あんまりだと思わない? 普通異世界に転移する物語って言ったら、女神様か何かから結構なチート能力を与えられて、戦場やらダンジョンやらで大活躍するってのがセオリーでしょう? でもこの世界では、転移してきたあたし達は言葉と文字が分かる以外は少し若返る場合があるってだけで、他の能力はニホンにいた時と変わらないんだもの。それでいて環境だけ劣悪って、ふざけてるよね」

「…………」

「バルバロッサは、そんな状態にいたタクヤがずっと心に抱き続けていたヒロイン(女神)なんだよ。だから、あれだけ輝いているんだと思う。地獄で生きるには、光が必要だから」

「――そうなんでしょうね」


 ミーナは呟いた。


「小説、読みました。本当に面白かったです。ヘンリーさんや王太子ご夫妻があれだけ熱中されるのも、納得出来ます。何と言ったって、あのヒロインが素敵ですよ。強くて妖艶で、でも可愛くて優しくて。私なんかとは、まるで違う」

「そりゃそうよ。理想の女性だもの。生身の人間には、どうやったって、なれっこ無い存在よ」

「そうですよね。理想には、敵いっこ無いですよね」


 互いに笑いあった後で、ヒナツは真剣な表情でミーナを見つめると、言った。


「そういう事だから、あいつの目を覚まさせてやって」


 そんなヒナツにミーナは静かな口調で言った。


「御影君には、会うつもりでいます。彼はマリアだった私にとって、大事な友人だから。その御影君が私に望んでいる事に対して、私は出来るだけの答えをあげたい。それだけです」

「――それで良いわ。あなたは、あなたのやるべき事をすればいい」


 そう言ってヒナツはまた笑った。


「あなたがあたしに会いたがっているって聞いた時はどうしようかと思ったけど、会って良かったわ。やっぱ人って、顔を合わせてみないと分からないものね」


 話を終えて個室を出て行くミーナの背中を見ながらヒナツは思った。

 小説のヒロインは徹底的に理想化されているとは言え、やはりミーナはモデルだ。姿を見ないでも、その言葉から感じられる心に、バルバロッサがいる。


 ヒナツは呟いた。


「あのユリスモール気取りの蒼の魔王を頼んだわよ、バルバロッサ」

明日も16時前後更新の予定です。

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