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12

 デイケアの職員が祖母を連れて行った後、マリアは卓也との待ち合わせ場所へ向かったが、心はグチャグチャだった。

 自分にはあれだけ警戒心をむき出しにしていた祖母が、施設の職員には安心した様子で大人しく車に乗った事がショックで、そしてショックを受けている自分が情けなくて。

 自分はこの日が来ることを覚悟していた筈なのに。そして、祖母がいなくなってどこかでホッとしていることも、疚しくてたまらない。


 嫌な感情を振り払うかのように、その日のマリアは花火大会の縁日ではしゃぎまくった。卓也も面食らっていたのではないか。不自然なくらいテンションが高かった自覚はある。

 その挙句にそろそろ帰る時間が迫ると、考えまいとしていた祖母についての鬱屈した思いが一気に押し寄せ、耐え切れなくなったマリアは――


 その場にいた卓也に縋りついた。ハッキリ言えば、抱きついた。


(え!? まさか、あれだけで!?)


 ミーナはあ然とした。

 マリアの記憶にあるニホンは、この世界に比べて男女の交際はかなりフランクだった。ちょっと抱きついた程度の触れ合いに、タクヤがあそこまで執着するだろうか。

 タクヤは転移してから十二年になると言っていた。普通ならその間に誰か別の女性と出会い、心を通わせるのではないか。


 だが、ひょっとしたら自分が憶えていないだけで、マリアと卓也はその後仲間以上の、今もタクヤが自分に恋焦がれる程の関係に発展していた可能性はある。


 焦ったミーナは必死にその後の出来事を思い出そうとした。しかし幾ら考えても、ニホンの記憶は卓也に縋りついたところで途切れている。

 しばらく記憶を探ってみたが、やがてミーナは思い出すのを諦めた。


「あとは、あの人(タクヤ)に聞くしか無いわね……」


 だが、再びタクヤと会うなら、彼の求愛に対してどう答えるかはきちんと決めておかなければならないだろう。その場合、今ある情報だけで判断するしか無い。


 そうなると、もう答えは出ている。自分は、タクヤがマリアを想うように、タクヤを想うことは出来ない。

 それに、ミーナは今の生活が大事だ。だからタクヤが望む様に、異世界人(マリア)として彼と共に生きていくなど、絶対に考えられない。


 しかし、だからといってこのままタクヤを顧みないでいる事も、ミーナには出来なかった。あの時のマリアにとっては、本当に大事な友だったから。

 そして、思いつめた目で自分を見つめるタクヤは、初めて会った時の縋りつく様な目でマリアを見た少年と重なる。


 想いは受け入れられない。だけど、やはり放ってはおけない。それが、タクヤに対して逃げずに向き合った時の、自分の嘘偽りない想いだ。


 ミーナはしばらく考え、決めた。タクヤに会う前に、今のタクヤについて知ろうと思ったのだ。

 その為にやるべき事は色々あるが、まずは()()だろう。


 ミーナは初めて魔王バルバロッサを読むことにした。



 





 指定されたカフェは、銀の渓谷の近くにあった。洒落た雰囲気の個室で待っていると、十分程して目当ての人物がやって来た。ミーナは立ち上がって挨拶した。


『初めまして。今日はお時間を取って頂き、ありがとうございます』


 それを聞いたヒナツは目を丸くして口笛を吹いた。


「久しぶりに聞くネイティブなニホン語だなあ。あなた、本当に転移者なんだ」

「ええ、〝あちら〟の両親は二人ともイギリス系ですが、どちらもニホンで生まれ育ちましたので」


 この世界の言葉に戻したミーナに、ヒナツは笑いかけた。


「そっか。よろしくね、ミーナさん」

明日は12時前後更新の予定です。

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