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あの時、御影卓也はまるで救いの騎士の様に自分の前に現れた。
当時マリアの父は、正攻法ではどうしようもないからと、マリアの祖母が具合を悪くしたのを好機とばかりに威圧と暴力でマリアを操作しようと目論んでいた。もうじきマリアは成人する。そうなれば、信託されていた母の遺産はマリアの手に渡る。その時にマリアが自分の命令に従うよう、あらかじめ心を支配しようとしたのだ。
家に戻る途中で父に捕まったマリアは、後で後見人の藤田弁護士に相談して父を何とかして貰おうと考えてはいた。しかし、だからといって、今の状況が何とかなる訳では無い。
少なくともこの場でかなり痛めつけられるだろう事は、覚悟していた。
それを止めたのが、卓也だったのだ。
マリアは驚いた。父に比べて明らかに体格で劣る少年が、父の暴力に挑んだのだ。
そして、彼の加勢は力になった。マリアは父に一矢報いることが出来たのだから。
そんな勇気のある少年なのに、自分を送ると申し出た彼の顔は、まるで僕を拾ってくれと訴える捨て犬の様な雰囲気だった。
いつもならマリアは新しい人間関係は、特に男子は極力避ける。
自分の容姿が異性を惹きつけるのは分かっていた。だが今のマリアは祖母の世話で手一杯で、誰かと過ごす暇など欠片も無いのだ。
しかし、捨て犬の様な卓也はどうも放っておけない気がした。それでマリアは帰宅するまでならと、恩返しのつもりもあって卓也と共にいる事にしたのだが。
結局それ以来、マリアは卓也と共に学校からの帰り道を一緒に歩くことになった。何しろ楽しかったのだ。卓也と過ごすことが。
それまでマリアは時間に余裕が無い分、得られる喜びや感動を精一杯楽しもうとしてきた。登下校の際も、歩きながら様々な美しいものや面白いものを見つけ出すのを日課にしていた。
だがそうして見つけた感動は、今まではマリア一人のものだった。それが普通だと思っていたのだが。
卓也が加わった事で、マリアは気付いた。気が合う者と感動を共にすることが、どれだけ心を満たすのかを。
卓也は自分が見つける些細な喜びを、自分と同様に面白がり、感動してくれた。それがただの気遣いでは無く、本当に楽しんでいるのが分かるから、マリアは嬉しかった。行動を共にしたばかりの頃は無表情が目立った卓也が、次第に生き生きとした感情を示すようになっていくのを見るのも。
二人はお互いの事情もある程度打ち明け、励まし合った。
卓也は勇気と気概のある少年だった。自分が置かれた複雑な状況から逃げずに立ち向かおうとする卓也に、自分も頑張ろうとマリアは勇気づけられたものだ。
卓也はマリアにとって、得難い友であり、仲間だったのだ。
そこまで思い出したミーナは、どうにも今のタクヤの感情が解せなかった。
御影卓也はマリアにとって、確かに大事な仲間だ。だが、逆に言えば、仲間以上の存在では無かった。少なくともマリアの記憶によれば。だが、卓也も、マリアに対して仲間以上の感情を見せたことは無かった筈だ。
それなのに、この前会ったタクヤ・ミカゲは〝友〟では無くなっていた。あんな切羽詰まった様子で自分を恋い慕う卓也をミーナは、マリアは知らない。
タクヤの豹変ぶりが、ミーナには理解出来なかった。自分だって、恋愛感情を示すような言動を、卓也に対してした事は、無かった筈だ。
そう思った時、何かがミーナの記憶に引っかかった。
(ん? あれ? そう言えばあの時―― あ!!)
ミーナは思い出した。あの花火大会で、自分がタクヤにした事を。
明日も16時前後更新の予定です。




