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本日最初の投稿です。今日はあと4話投稿します。
「では、あーん」
「ふふ、あーん」
差し出されたスプーンに乗ったアイスクリームを、カトリーヌは口を可愛らしく開いてパクリと食べた。
「うん、美味しいわ」
アイスクリームの冷たさをじっくり味わいながら、カトリーヌは自分にスプーンを差し出した目の前の男を見つめてニッコリ笑った。男も、カトリーヌを見つめて優しく微笑む。
「お気に召して頂けて何よりです、カトリーヌ様」
「何を言ってるの、ユリスモール。私は、バルバロッサよ」
「失礼しました、そうでしたね。では、気に入って頂けて良かった、バルバロッサ様」
そう言うと、男は再びスプーンでアイスをすくってカトリーヌに差し出した。その姿は頭の先から足元まで、まさに挿絵に描かれたバルバロッサの騎士、ユリスモールそのものだ。
(遠目で見た時もそっくりだと思ってたけど、こうして間近でユリスモールと同じ事をやらせると、本当に瓜二つね)
この男は女王の護衛騎士のジークムントである。初めて見かけた時、挿絵のユリスモールにあまりにも似ているので、カトリーヌはひどく驚いたものだ。
以来気付かれないよう、さり気なく眺めては目の保養にしていたのだが、今回女王公認の下、こうしてイチャイチャしているわけである。
今カトリーヌとジークムントがやっている事は、魔王バルバロッサの中でもカトリーヌが特に気に入っている場面だった。
蒼の魔王の呪いにより、もはや自分には未来が無いと完全に諦めたバルバロッサが、紆余曲折の末、ユリスモールの求愛を受け容れる。そしてどうせなら限られた時を心のままに過ごそうと、ユリスモールにデレまくるという場面だ。
普段の冷然とした魔王の言動からはとても考えられない程愛らしくユリスモールに甘える姿に、カトリーヌはキュンキュンしたものだった。
というわけで、今はその場面と全く同じシチュエーションなのだが、実はカトリーヌの脳内では、ある設定が付け加えられている。
それは、今ユリスモールとイチャイチャしているのは、バルバロッサになり切ったカトリーヌではなく、カトリーヌの身体を借りたバルバロッサだというものだった。カトリーヌは自分の中にいる(という設定になっている)バルバロッサの希望に基づいて、自分の身体を動かしているに過ぎないのだ。
そう、この場面再現におけるカトリーヌの立ち位置は、バルバロッサとユリスモールの二人に最も近い観客席だった。
どストレートにバルバロッサを愛し、ユリスモールになってバルバロッサとの場面を再現したかった王太子に対し、カトリーヌの魔王バルバロッサに対する熱意は違う方向からのアプローチだった。つまり、カトリーヌはユリスモールのファン、というよりも、バルバロッサとユリスモールの関係性のファンなのである。
真摯に愛を捧げるユリスモールに対して、不器用に応えるバルバロッサ。時にはすれ違い、時にはロマンチックに触れ合う。そのシチュエーションに、カトリーヌは胸をときめかせていたのである。決して自分がバルバロッサになりたい訳では無いのだ。
だから、本来なら、ジークムントと、叶うものならそれこそミーナの二人が扮するユリスモールとバルバロッサにこのシーンを演じさせて、自分は間近で眺めるのが、カトリーヌにとってはベストポジションなのだ。
そうではなくあえて面倒臭い設定にしてまで自分がバルバロッサの立ち位置にいるのには、よんどころない事情がある。
「ユリスモール、今度はあなたよ」
カトリーヌが、いや、バルバロッサの希望を聞いたカトリーヌがもう一つのスプーンにアイスをすくってジークムントに差し出すと、二人が世界を作っているテーブルから少し離れた所で椅子に腰かけている王太子が、どんよりした顔でカトリーヌに哀願した。
「……カトリーヌ…… もうそれくらいで勘弁してくれないか……」
もちろん、カトリーヌは歯牙にもかけない。
「それくらいでとは、どの口がおっしゃいますか? 王太子様はご自分がなさった事をお忘れで? 王太子様がミーナを連れ回していたのは、確かひと月程でございましたね。私は、今日がまだ一回目です。お話になりませんね」
「――いや、確かにそうなのだが…… こうして間近で見せつけられると――」
そう、今回のこの状況は、カトリーヌが提案して女王が課した、王太子に対するお仕置きだった。
つまり、カトリーヌが王太子立会いの下、ユリスモールそっくりのジークムントと共に、カトリーヌお気に入りの場面を再現するというものなのである。
もちろん、ジークムントにはあらかじめ話を通して快諾を得ている。ジークムントも女王の護衛騎士としてあの場にいた身として、王太子にはかなり思う所があるようだ。
当然、王宮にいる者にも皆事情は伝えてある。
次の更新は12時頃の予定です。