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「ミーナさん、いい加減にここを開けなさい!」


 物置小屋の外からリディアが扉を叩くが、ミーナは物置小屋に置いてあった用具でガッチリガードした扉を睨みつけて叫んだ。


「サイリア修道院に移ることを許可して頂けるなら、開けます!」


 外でリディアがため息をつくのが聞こえる。


「――どうしてそんな我儘を言うの。あの修道院は完全に罪人を収容する場所ですよ? リアール修道院(ここ)とは比べ物にならない程劣悪な環境だと、何度も説明したでしょう。しかも一度入ったなら外部の者とは誰一人、それこそ身内にすら会えなくなるのよ!」

「だから良いんです。どんな酷い処だろうと、誰にも会わなくて済む処に、私は行きたいんです!」


 昨日、ミーナはヒルデガルドが王都の中央教会に出向いている間、留守を任されているシスター・リディアにリアール修道院から更に僻地にあるサイリア修道院に移りたいと申し出た。サイリア修道院はリディアが指摘する通り、罪を犯した女性を収容する場所で、かなり厳しい環境だという事は、ミーナも分かっている。

 それでもミーナは外部と隔絶された場所へ引きこもりたかった。このままでは、ローザやシルビアまで魔王バルバロッサのことを知る可能性がある。自分がバルバロッサのモデルだと知った以上、彼女達にまでヒロインと同一視される日が来るなど、考えただけでも耐えられなかった。そんな状況に直面する前に、逃げるのだ。


 ミーナのそうした事情など全く知らないリディアは当然ミーナの申し出を頭から拒否、その結果ミーナは物置に籠城、今に至るという訳である。


「だからその理由を話して…… 院長!」


 ミーナは息を呑んだ。やがて、ヒルデガルドの声が聞こえてきた。


「私が修道院を離れている間に、ずい分な騒ぎを起こしてくれましたね。その行動力は見上げたものです。ですが、いけませんね。あなたはもっと別の事に、その行動力を使うべきですよ。例えば――」


 ヒルデガルドは少し間をおいてから、続きを言った。


「あなたが悩んでいる事を、全て私に相談するというのは、どうですか?」

「無理です!!」


 思わず叫んだミーナに、ヒルデガルドはのんびりした口調で言った。


「何故です?」

「――だって、院長先生は、何もご存知無いじゃありませんか!!」

「そうですね。私はあなたの事情は何も知りません。だって、あなたは何も教えてくれませんからね。でも、あなたは気付いていませんが、分かっている事もありますよ」

「――何ですか?」


 警戒心を崩さないものの尋ねるミーナに、ヒルデガルドは言った。


「今のあなたは完全に冷静さを失っている。それこそ私の帰りを待って、私に直接サイリア修道院に移りたいと願い出るのでは無く、あなたを移動させる権限など無いリディアにその願いを言うくらいにはね。多分思い立ってすぐ言わずにはおれなかったのでしょう。それで駄目だったから頭に血が上って、無茶な籠城をしている。そうじゃありませんか?」

「――――」


 黙り込んだミーナに、ヒルデガルドは冷静な口調で説いた。


「今のあなたは、もうどうしようも無いと絶望しているのでしょう。でも、それは間違いかも知れませんよ。あなたは、あなたの悩みをまだ誰にも相談していないのではないですか? まだ十八歳のあなたが一人で何もかも抱え込んでいたら、それはどうしようも無くなりますよ。まあ、とりあえず私に話してみなさい。駄目で元々、ひょっとしたら、あなたが抱える問題を解決する方法を思いつけるかも知れませんよ」


 この言葉は、少しだけミーナを冷静にさせた。確かに自分は、自分の悩みを誰にも相談していない。両親にも、ヘンリーにも。

 だって、自分を本当の娘だと思っている両親には授かり子である悩みは話せないし、魔王バルバロッサのファンであるヘンリーには、自分がバルバロッサのモデルだなんて、絶対に話したくない。


 だがここでミーナはやっと気づいた。ヒルデガルドは、どちらでもないことに。ヒルデガルドなら、話しても良いのではないか。


 ミーナはしばらくためらっていたが、やがてドアの前に置いていた物を退けていった。そして、ドアを開ける。


 入って来たヒルデガルドに、ミーナは泣きながら縋りついた。

明日は朝7時前後更新の予定です。

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