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 タクヤの言葉にミーナは必死で抗った。


「馬鹿な事言わないで!! あなたとは、今日初めて会ったのよ! 思い出なんて、築ける筈が無い!」


 そうだ、この男とは今日初めて会ったのだ。断じて思い出など無い。


 タクヤは低く笑った。


「言っておくが、〝この世界〟でも、俺が君と会うのは初めてじゃない。まあ、あの時は変装して行ったから、君は気付かなかっただろうが」

「…………」

「あの聖唱会騒ぎがあった時、俺は君が()()だという可能性は殆ど無いと考えていた。だから最初は観に行くのを断ったぐらいだ。要らぬ期待をかけて裏切られるのには、もううんざりしていたからな。それでも奇跡的に聖唱会に行くことが決まったから、俺は一応俺だと分からないよう姿を変えて観に行った。万が一の場合、いきなり姿を見せて君を驚かせたくは無かったから。聖唱会の会場では、君の〝母親〟が座っていると聞いた席も、一応確かめた。俺の探している人が、君の母親である可能性も考えたからな」

「探している人?」


 怪訝な顔をするミーナに、タクヤはうなずいた。


「君を見た瞬間、分かった。()だって。そして、君の母親を見た時に、確信した」


 タクヤはミーナの目を見つめたまま、尋ねた。


「君と君の母親は、どこも似ていないね。君は、授かり子なんだろう?」


 ミーナの顔が強張った。何時もなら自分から積極的に打ち明けるその事実を、この男に突き付けられた今は否定したくて仕方ない。

 それでもミーナは気丈に問い返した。


「――授かり子だったら、何?」


 タクヤは警戒心の塊になっているミーナに座るよう促した。


「かなり長い話になる。今茶を入れるから、ゆっくり話そう」


 逡巡した末、ミーナはタクヤの向かい側に座った。





「――俺が異世界からの転移者だという事は、ヘンリーから聞いているだろう? まあ、俺にしてみたら、こっちの方が〝異世界〟だが」


 そう言うと、タクヤは目の前の持ち手の無い筒のようなカップを両手で取り上げると、茶を飲んだ。そして、さっきから茶には全く手を付けていないミーナに笑いかける。


「この緑茶は結構再現度が高いと思うんだよな。まあ、俺も元々茶に詳しい訳じゃ無いけど。君はどう思う? やっぱり微妙に違うと思う?」

「話を続けてちょうだい」


 ニコリともしないミーナに肩をすくめると、タクヤは話に戻った。


「君も知ってると思うけど、転移者は今では社会と呼べるものを築く程数を増やしている。それなりの力も持った現在、転移者のある有力者が中心になって、各地に取りこぼされている転移者を積極的に調査、場合によっては保護する活動を本格的に始めたところだ。俺もその活動には一枚かんでいる。そして、その過程で色々分かってきた」

「分かってきた?」

「俺達の世界からこの世界に転移する者は、全てがニホンという国に住んでいた者。住んでさえいれば、人種民族は問わないようだ。そして転移する状況は、人によって大きく異なる。例えば俺は、十二年前のこの世界に転移した。転移する前は十八歳だったが、どうも三、四歳は若返った姿になっていたよ。微妙な若返りだよな」


 タクヤはおどけるように笑った。


「だから便宜上俺は今の歳を二十八歳ということにしているが、実際の歳は、自分でも分からない。そして、この状況は俺の場合は、ということだ」

「…………」

「俺が転移した時より何年も前に転移していながら、転移先は俺より数年後の世界だった場合もあれば、その逆もある。そして転移した時、ニホンにいた時の年齢よりずっと若返った状態になる奴もいれば、殆ど実年齢と変わらない状態で転移する奴もいる。ただ、実年齢より歳を取ったという話は聞かないな」


 ひたすら転移者の話を続けるタクヤに、遂にたまりかねたミーナは尋ねた。


「それが、あたしが授かり子である事と、何の関係があるの?」

「今話す。つまり、あまりにも様々なケースがあり、転移者によっては自分の事を転移者と知られたくないと思う者もいるから、転移者全てを把握するのは非常に難しいのが現状だ。実際、この世界の容貌に近い者がこの世界にすっかり馴染んでしまえば、そいつを転移者だと判断するのはほぼ不可能だからな。だが、それでも諦めずにそうした転移者について、研究している奴がいる。そいつが最近になって、こんな説を主張するようになったんだ。この世界で授かり子とされている者は、実は俺達の世界からの転移者だと。前の世界からこの世界に転移する時に胎児にまで若返り、そしてこの世界の女の腹に宿る。転生じゃ無いから、両親には絶対似ない」

「――――は?」


明日も12時前後更新の予定です。

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