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「まさか聖女…… ミーナ!?」


 王太子が呆然と呟く。ミーナは思わずうつむいた。


 次の瞬間、王太子はバッとミーナに頭を下げた。


「ミーナ!! あの時は、本当にごめん!!」


 ミーナは驚いた。まさか王太子に謝られるなど、思ってもいなかったからだ。幾ら銀の渓谷での自分は聖女扱いとはいえ、相手は王太子で、自分は男爵令嬢に過ぎないのだから。


 そんなミーナに対し、王太子は謝罪を続けた。


「僕は、もっと感情を律するべきだった。せめて君の怒りを買う覚悟で、もっと早くちゃんと君に事情を話すべきだったんだ。それを、自分の願望に負けてごまかした。本当に、済まない!!」


 ミーナは頭を下げる王太子をじっと見つめた。

 正直言って、恨まなかったと言えば嘘になる。ただ、こうしてきちんと謝られると、ミーナも思うことはあった。


 ミーナが断わっているのにしつこくアプローチしてきたオリヴィアの婚約者は、皆から非難されると手のひらを返したように、ミーナの方が誘ったと責任をなすりつけた。グラハム伯爵など、バルバロッサにそっくりなだけの自分に結婚まで強要した。

 まあ、比べる相手が悪すぎるのだろうが、それでもオリヴィアの婚約者の時とは違い、ミーナも王太子に対しては自分の方からそれなりに仕掛けた自覚はある。だから王太子がその事を持ち出して自分に落ち度は無いと言い立てても、文句は言えなかった。

 だが王太子はミーナの非は一切口にせず、ただ自分の非を謝っている。それも公衆の面前で。


 そして出会ってから一週間ぐらいはともかく、その後は王太子も、かなり積極的なアプローチを始めた自分に対して何とか適切な距離を置こうとしていたことは、ミーナも今ではよく分かっている。

 それはもちろんカトリーヌに対して誠実であろうとしたからだろうが、自分をバルバロッサに似ているからという理由だけで傍に置こうとしなかったことは、自分に対しても誠実でいてくれたのではないかと思うのだ。


 そうした事を考えたミーナは、だから言った。


「お顔をお上げください。私と王太子殿下の間に起こった問題は、多分謝ったり謝られたりする事では無いと思います。確かに殿下は私の感情を利用なさろうとされたのかも知れません。ですがそれは私も同罪です。私は、殿下の私へのそういう御心を利用しようと謀りました。ですから、私と王太子殿下は、多分犯した過ちは同じなのです」


 王太子は顔を上げた。そしてミーナを見たが、その表情はまるで初対面の人を見るようだった。


 ミーナは続けた。


「王太子殿下が私をバルバロッサの身代わりとしか思われなかったとしたら、私も殿下を、自分を窮地から救い上げてくれる〝道具〟としか思っていませんでした。私はあの時殿下を〝ウィリアム様〟とお呼びしていましたね」

「…………」

「ウィリアム様。殿下の御名前を、恐れ多くも私は自分がまるで殿下を王太子では無く一人の人として見ているかのように思わせたかったから利用しました。ですが実の所、私はあなたを王太子としか、いえ、道具としか思っていなかった」


 黙って自分を見つめる王太子に、ミーナは微笑んだ。


「本当に、殿下と私がお互いに本心を打ち明け合ってさえいれば、何の問題も起こらなかったんですよね。王太子殿下は例のお望みを仰って、私は、ならば代わりに私の家族を助けて欲しいと願えば良かった。だけど私も殿下も冷静さを失っていて、それが出来なかった。それだけなんです」


 冷静だったら、ミーナも王太子の自分への態度が恋心とは違うものだと分かっただろう。だがあの時は判断出来なかった。ミーナを虐める周囲の者が、ミーナが王太子の寵愛を受けていると誤解したことで態度を激変させたせいで、ミーナは王太子の〝寵愛〟にしがみついてしまったのだ。


 それからは王太子のどんな態度も言葉も、全て自分の都合の良いように解釈した。いや、解釈したかった。


「ですから、恐れ多いことですけど、私と王太子殿下が互いにした事は、同じなんです。謝罪は必要ありません」


 そう言ったミーナは〝あの時〟の事を思い出し、ちょっとおどけた口調で付け加えた。


「ですが、あのパーティーで()()()()()()()は、謝罪しなくても良いですよね? 一応〝罰〟は受けていることですし」


 王太子は背を真っすぐ起こした。そして、同じように背筋を伸ばしているミーナを見ていたが、表情は改まっていた。


 やがて王太子はこう言った。


「そうか、君は、()()()()人だったんだな。本当に私は、君の外見しか目に入っていなかった」


 そしてふっと笑うと、改めてミーナに言った。


「相分かった。リットン嬢、いや、聖女殿。大変失礼した。今後は礼儀をわきまえて、あなたに接することを約束しよう」


 ミーナも笑って答えた。


「お願いいたします。ファンクラブのルールの通り、〝聖女〟と〝ファン〟の関係ということで」


 途端に王太子が愕然とした表情になった。聖女とファン。つまりミーナを見かけても見つめず、気付かない振りをするというやつだ。もちろん、例の望みが叶う可能性は無くなる。


 しかし王太子はこう言った。まあ、若干悲痛な表情は残っていたが。


「――分かった。そうだな。そうすべきなのだろう」

明日は12時前後更新の予定です。



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