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 これ程面白く躍動感あふれ、しかも心をかきむしる様な感動を与える筋書きも文章も、これまでの小説では想像も出来ない程見事だった。

 そして、どの場面も他の小説では欠片も無いリアリティで貫かれていた。何しろ小説に登場するどの舞台も、ヒナツがそれと定めた地に出向き、しっかり見学取材した上で書いているからだ。


 完全に空想の場面を書く時も、ヒナツはその姿勢を通した。

 この世界の神話伝承、地方の民話や迷信を、更に歴史地理学や魔道学、生物植物学などでしっかり肉付けして世界を創り上げるのだ。ヒロインのバルバロッサにしても、この世界の伝承をしっかり調べた上で、非常に正確かつ詳細な描写の女魔王に仕上がっていた。


 異世界から来たとは思えない程、ヒナツが生み出す物語は細部まで深い知識に基づいていた。

 だからヘンリーは思うのだ。この小説に、原作者達に、相応しい評価と地位を与えてやりたいと。

 ファンクラブの規律にヘンリーがあれだけこだわるのも、その想いがあるからこそなのだ。しかし道はまだ遠い。


「――本当に悔しいです。本来なら爵位授与ぐらい当然あって然るべきなのに。ファンを除けばヒナツ様とタクヤ様に対する世間の評価はあまりにも低い。そこまでの労力をかけてこれだけ素晴らしい作品を生み出した方は、絶対に報われるべきです」


 悔しそうに言うヘンリーに、ヒナツは笑って答えた。


「嬉しいねえ、そんな事を言って貰えるなんて。もう十分報われているわよ。絶対に書きたいと思って書いた作品に、ここまで感動して、それこそ悔しがることまでしてくれる読者がいるなんて、作家冥利につきるわ。ありがとう、ヘンリー。そこまで感動してくれて」

「悔しがるだけでは終わらせません。必ずこの小説に相応しい評価をいつか世間から引き出してみせます」

「そりゃ責任重大だわ。精進して傑作書かないとね」


 大げさに恐縮してみせるヒナツに、ヘンリーは前から聞いてみたかった事を、尋ねた。


「ヒナツ様、あなたは何故、魔王バルバロッサを書こうと思われたのですか?」


 すると、ヒナツは即座に答えた。


「理由は一つ。タクヤが描いたバルバロッサに、一目で惹かれたからよ」

「――タクヤ様の?」


 ヒナツはうなずいた。


「ここのロビーに飾られているバルバロッサの絵があるでしょう? あれが、タクヤが最初に描いた魔王バルバロッサだということは、あなたも知っているわよね?」

「ええ。素晴らしい絵だと思います。小説で描かれているバルバロッサのイメージを、実に見事に表現している」


 ヘンリーがそう言うと、ヒナツは首を振った。


「逆なのよ」

「逆?」

「魔王バルバロッサの小説はね、あの絵から生まれたの」

「――は?」


 小説を表現する挿絵から小説が生れる。突拍子も無い事を言われて驚くヘンリーに、ヒナツは話を続けた。


「私は、この右も左も分からない世界にいきなり放り込まれて必死に生きながら、それでも少しずつ心の中で物語を創っていたわ。そんな時、あの絵を初めて見た私は、分かったの。私の物語の主人公は彼女だ、いや、彼女しかいないと。それだけあの絵の女性は魅力的で、どんな気性なのか、何を考えているかまで伝わってきた。もちろん作者の、タクヤのその女性に対する生半可でない想いもね。そして主人公が決まった時、私の物語も一気に動きだしたの。それは今でも変わらない。私の構想を伝えて、タクヤがそれを絵にする。その絵を元にあたしは小説を、特にヒロインのバルバロッサを肉付けしていく。そうしてあの小説は生まれるの」

「しかし、この前刊行された作品は挿絵無しでしたが、素晴らしい傑作だと思いますが」

「それは、今までの蓄積があったからよ。あれだって、タクヤの絵があれば、間違いなくもっと素晴らしいものに仕上げられたわ。まあ、今回の番外編はともかく、あんな事はもう絶対嫌。あたしの小説―― 少なくとも魔王バルバロッサには、タクヤの絵が必要不可欠なの。いえ、必要なんてものじゃない。この間の騒ぎで思い知ったわ。タクヤの絵こそが、魔王バルバロッサの魂なのよ。小説なんて、どれだけ取材や資料調べに手間かけようが、本物の熱意が無ければただの文章よ。タクヤがその熱意なの。タクヤの絵を表現する為に、あたしの小説がある。あたし(原作者)タクヤ(挿絵画家)は、そういう関係なのよ」

「――――」


 ヘンリーにとっては予想外の話だった。ヘンリーも魔王バルバロッサにおいてタクヤの挿絵は無くてはならない要素だとは思っていたが、まさか小説があの絵を表現する為に書かれているなどとは、さすがに思わなかったからだ。

 この世界でも小説の挿絵は、本来は小説の添え物に過ぎない立ち位置だ。


 それ程、魔王バルバロッサにとって重要な意味を持つあの絵。


明日も12時前後更新の予定です。

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