13
銀の渓谷に赴いたヘンリーは、五階のフロアに来ていた。
ここは蒼の魔王の居城をイメージした、かなりおどろおどろしく武骨な内装になっている。小説の関連グッズ売り場というよりは、まるでハンターギルドのような雰囲気だ。
売り場には様々な大きさの剣や弓矢、槍といった武器が並んでいた。魔王バルバロッサの登場人物の装束に見立てた防護装備もある。
どれも本当に使える武器ばかりだ。現に試し切りのコーナーまで設けてある。
客は目当ての武器を手に取ると、使い心地を試した上で、時には自分仕様にカスタマイズして貰う。
そして武器を買った多くの客は、あるコーナーへ向かう。魔王バルバロッサ武術大会の参加申し込みをするのだ。
武術大会はファンクラブが主催しており、剣や槍、弓術などに分かれて技を競い合う。
ファンクラブ会員であれば誰でも参加出来るが、どの人物が使う武器でも良いから、魔王バルバロッサに登場する武器を使用することが条件だ。
ただ武器を購入するだけで満足するファンもいるが、多くのファンはこのフロアで購入した武器を持参して、武術大会に参加した。
もちろんこのコーナーで買わずに自分で誂える者もいる。だがこの売り場で扱う武器は小説をよく知った職人が作り上げたものなので、質が違う。だから殆どが此処の武器を選ぶのだ。
ミーナと銀の渓谷で待ち合わせの約束をしているヘンリーは、約束の時間よりもかなり早く来ていた。既に参加を決めている武術大会に持参する、武器を購入するためだ。実はこう見えて、ヘンリーはかなり武術の心得があった。
今日はとりあえず支払いとカスタイマイズの依頼だけを済ませ、武器は取り置いてもらうことにしていた。どう調整するかは、後日時間を掛けて打ち合わせるつもりだ。
ヘンリーは売り場のある一角へ行った。そこに陳列してある武器は、全て強化水晶で厳重に守られた、高価な武器だ。
ヘンリーはそれらの中でも二重の強化水晶に覆われている武器に目をやった。感無量の想いで。
魔王バルバロッサ発行五周年記念として限定発売された、主人公であるバルバロッサ愛用の弓のレプリカ。
レプリカとはいっても、白銀に輝くその弓は武器としてのレベルも高かった。
騎馬民族が使うものをモデルにしたそれは、この世界で弓に最も適していると言われる最上の素材ばかりを使っており、それこそファンでなくとも弓使いなら喉から手が出るほど欲しがるくらいの逸品である。
あのオークションの時は購入を諦めもしたが、こうして手に入れる事が出来るとなれば、やはり心が弾む。
ヘンリーが近くにいた店員に売り場の責任者を呼んで貰おうとした時、誰かがヘンリーに声を掛けた。
「お久しぶり。あなたも大会に参加するの?」
振り返ったヘンリーは、黒髪黒目の穏やかな顔立ちをした女性を見て、微笑んだ。
「ええ。ようやく恋焦がれたものが手に入りそうなので」
そして相手に恭しく一礼した。
「ご無沙汰しております、ヒナツ様」
明日は12時前後更新の予定です。




