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そこには、至る所に本が並べられていた。どの本の表紙もバルバロッサやユリスモールといった登場人物が描かれているのだから、魔王バルバロッサの本なのだろう。
ただ、挿絵はタクヤ・ミカゲのものでは無かった。似せてはあるが、明らかに違う。中には服装以外、どう見てもバルバロッサ達とは似ても似つかぬ人物になっている代物もあった。
また、本来の魔王バルバロッサの内容は壮大な世界観、様々な人間関係や魅力的な魔物、ダイナミックなバトルシーンなど盛りだくさんだが、ここにある本の多くは表紙の雰囲気からすると恋愛メインか、少なくとも恋愛に焦点を置いた内容らしかった。
そう、ここは魔王バルバロッサの二次創作、それも女性向け本の販売コーナーなのだ。ちなみに男性用コーナーも、当然ある。
ここの売り場には、魔王バルバロッサのファン達が、原作にインスピレーションを受けて新たに書き起こした小説を主に販売していた。もちろん挿絵も、絵心のあるファンが描いたものだ。
この世界にもパスティーシュといって、既存の小説や舞台、音楽などを模倣して作り上げた作品は存在する。
だが魔王バルバロッサ程パスティーシュ、いや、二次創作が活発な作品は、この世界に存在しなかった。何故なら、魔王バルバロッサの出版社が、二次創作を奨励しているからだ。こうして銀の渓谷が専用の売り場コーナーを設ける程に。
このコーナーにあるどの本も、作者であるファンが銀の渓谷を通して出版社の許可を得たうえで販売していた。そして、許可は余程問題のある内容でない限り貰えた。出版社は、ファンがこうした本を書いた上に販売まですることに、非常に好意的だったのだ。
魔王バルバロッサの出版社は異世界からの転移者が経営しており、何でも異世界では普通に行われている事だと公言していた。
カトリーヌは大きく息を吐いた。
ここにだけは来たくなかったが、背に腹は代えられない。何故ならこのコーナーだけは、例の悲しい削除規制の例外扱いになっているからだ。
二次創作とはファンの原作への想いの発露であり、出版社にとっては作者に送られてくるファンレターと同等、いや、作者に物申すというハードルすら無い、原作に対する生の感想をファンレター以上に確認出来る重要なアイテムだった。だから出来る限り自由に表現させたいというのが、出版社の意向だった。
このコーナーの本なら原作の挿絵では無いが、アイスクリームやミルクセーキの場面を書いている本はあるだろう。いや、自分達同様に例の削除事件に憤っているファンなら、それこそあの場面を積極的に描くはずだ。原作から削除された憤りも込めて。
その憤りに、カトリーヌ達は触れたかった。出来る限り〝同志〟の存在を感じたかったのだ。
今日の三人の予定はこうだ。まずこのコーナーでそうした本をかき集め、この店の二階にあるカフェに直行、カフェで出している、例の場面にちなんだアイスクリームとミルクセーキを堪能する。その後は王宮に戻り、王太子妃殿で収穫物を読みながら、三人で思い切り今回の削除についての不満鬱憤を語り合う。
いわば溜まりにたまったストレス解消作戦だ。
ちなみに三人は誰も原作者に対して抗議の手紙を寄越したりはしていない。不満はあれど、相手は自分達の〝神〟だ。さすがに神に不満の言葉を送り付ける勇気は無かったのだ。
とはいえ、削除に悲痛な抗議を訴えるここの本が作者の目に触れて、作者が意思を変えるなら大歓迎だ。
三人は、すぐには本を探そうとはしなかった。まず気合を入れる必要があるからだ。
だって何の気構えも無く本を物色すると、どうしても目についてしまうのだ。バルバロッサだけをひたむきに愛しているはずの騎士ユリスモールが、何でだか事もあろうに宿敵であるはずの蒼の魔王とイチャイチャしている表紙という、カトリーヌ達には耐え難いものが。
二次創作本において女性向け本の主流は、原作の些細な描写を拡大解釈して書いた、書き手が推すカップリングの捏造恋愛エピソードだ。中でも多く書かれているのがバルバロッサとユリスモールであるのは当然として、何でだかそれに匹敵するぐらい、ユリスモールと蒼の魔王のそれこそ捏造カップリングエピソードが多かった。
そういう訳でこのコーナーは、カトリーヌが噂に聞いた通り、ユリスモールとバルバロッサ、蒼の魔王とユリスモールの恋愛本が、熾烈な陣取り合戦を繰り広げていた。カトリーヌにとっては許し難い光景だ。しかし耐えねばならない。
カトリーヌは注意深く売り場を見回し、おぞましい表紙はなるべく心に留めぬように注意しながら、それらしき本を探した。見つけたら手に取って中身を確認する。それと見込んだら、確保だ。
明日は16時前後更新の予定です。
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