表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/82

今日は5話投稿としていましたが、21時頃にもう1話投稿します。

 そう、あれは忘れもしない三年前、婚約者候補だが、事実上は本決まりの婚約者として初顔合わせした時。そこからカトリーヌと王太子の切っても切れない関係は始まった。

 互いに一分の隙も無い礼儀作法と愛想笑いで始まったお見合い。しかしものの十分も経たないうちに、カトリーヌは王太子の〝本性〟に気付いた。


 その時王太子は、ぱっと見は何てことない模様だが、魔王バルバロッサのファンだけが分かる、小説に登場する重要なアイテムをデザインした指環を左手にはめていたのだ!!

 それを悟ったカトリーヌは、自分が身に着けているペンダントを、あくまでさりげなく裏返して王太子の目に留まるようにした。

 そこに刻まれた模様を見た王太子の目が光る。それも、同じアイテムがモチーフだった。


 二人は目と目で合図、互いが〝同志〟であることを確かめ合った。


 その後はファンだけが分かる隠語を使って約束し、ファンが集うカフェやイベントなどで逢瀬を重ねた。何度熱い時を過ごしたか分からない。

 隠れオタの為、今までは決して出来なかった微に入り細を穿つファントークをそれこそ思う存分、いつも時が許す限り熱く、それはもう熱く語り合ったのだ!!


 そう、カトリーヌも王太子も、これ以上無い程お互いを知り尽くしていた。だから公の場、つまり王宮で普通の婚約者同士として過ごす時には、お互いに完全に儀礼的な態度を通すしか無かったのだ。

 少しでも素を出せば、それこそ一般人にはお聞かせ出来ないマニアックな会話をさらしてしまうからだ。隠れオタとして、それだけは何としても避けたかった。


「――そういう訳で、私は王太子様がバルバロッサに対してどれ程熱い想いを抱いていらっしゃるか、バルバロッサが絡んだどの場面に執心されておられるか、誰よりもよく存じております。その王太子様が()()()()望まれる事があるとしたら、あの、王太子様が何よりも熱く語っておられた、バルバロッサが宿敵蒼の魔王によって致命的な呪いを掛けられ、もはや未来は無いと完全に絶望した時、彼女の騎士ユリスモールが彼女を想って語る真摯な愛に、遂に己をさらけ出して応える場面を再現する以外、考えられません!!」


 そこまで語ったところで、カトリーヌは大きく深呼吸した。そして自分を戒める。王太子の嗜好について語るつもりで、つい魔王バルバロッサのファンとして熱く語ってしまったようだ。


 不意に女王の肩が震えだした。形相から察するに、怒りによる震えのようだ。


「……つまり、ウィリアムは、何だか分からない小説に出て来る自分の好きな登場人物にそっくりなこの娘の為に、婚約者のあなたを捨てようとしている、ということなのね?」

「陛下!! 違います!! そういう訳では……」


 慌てて女王の勘違いを正そうとするカトリーヌよりも早く、女王は怒鳴った。


廃嫡(はいちゃく)よ!!! お前のようなドラ息子なんて、今すぐ廃嫡してやるわ!!!」


 その時、誰よりもよく通る声で、王太子が言った。


「母上、それは違います! 私はカトリーヌと別れるつもりは微塵もありません!!」

「何ですって!?」


 王太子の言葉にミーナは血相を変える。女王は更にまなじりを吊り上げた。


「言い逃れも大概にしなさい!! 皆の前でカトリーヌに婚約破棄を宣告しておいて、今更何を言うの!!」


 女王の剣幕に、王太子は毅然とした態度で反駁した。


「ですから!! 私はカトリーヌに婚約破棄を言い渡しただけです!!」


 そして、王太子はカトリーヌの方を向くと、真剣な表情で言った。


「だってカトリーヌ、僕と君の関係は、()()()()()()()で無くなる絆じゃないだろう!? あんな、公に体裁を保つだけの肩書なんか、破棄したって構わないはずだ! だって、僕と君は、もうきちんと婚礼式を挙げた、正式な夫婦じゃないか!! ()()()()婚約破棄を宣告するぐらい、ご愛嬌だろう!!」

「…………は?」

「…………は?」

「…………は?」


 会場は静まり返った。女王もハミルトン公爵もミーナも、ポカンと口を開けている。

 カトリーヌは大きく息を吐いた。

 どうやら王太子は自分の願望の成就よりも、この場を収める方を選んでくれたようだから。それにしても、頭が痛い事には変わりない。

 本当なら、この事実は女王や父に対してもっと穏便に報告する予定だったのに、よりによってこんな場で爆弾を落とすように公表してしまったのだから。


「…………カトリーヌ、今王太子殿下がおっしゃった事は、本当なのか?」


 しばらくして、ようやく口を開いたハミルトン公爵の問いに、カトリーヌは渋々うなずいた。


「本当です。私達は二カ月前、教会で式を挙げました」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ