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その後様々な変化があった。
まず、ミーナに求婚を迫っていたグラハム伯爵だが、自身の領地における長年の不正と暴政が全て明るみになり、その責を問われて領地没収の上、伯爵から男爵に降格された。権力を失った伯爵に従う者は無く、これ以降表舞台から完全に姿を消すことになる。
そして伯爵の処分以降、かなり酷いトラブルを起こしていた魔王バルバロッサのファンが、鳴りを潜めた。伯爵の失脚にファンクラブが関わっているらしいという噂が出回った為だ。
グラハム伯爵は魔王バルバロッサのファンとしてもその傍若無人な振る舞いが有名だった。だが、本人の権勢に加え、上に対する立ち回りも上手く、誰も手出し出来ないだろうと言われていた。それがこうもあっさり摘発されたのは、伯爵の振る舞いの何かがファンクラブ会長の逆鱗に触れたからでは無いかという見方が広まったのだ。トラブルメーカーのファン達は気付いたのだ。ファンクラブはそうしようと思えば、出来るだけの力を持っていることに。
会長のヘンリー自身がその噂を否定しなかった為、信憑性はより高まった。今まで説得という穏やかな方法しか取らなかったヘンリーを見くびっていたトラブルメーカー達も、伯爵の末路に、明日は我が身と思わずにはいられない。自然と行動を慎むようになった。
こうして新しいファンのトラブル問題も、一応解決したと言える所までこぎ着けたのである。
一方レインバード王国には、新たな部署が設置された。今まで貴族頼みになっていた新興貴族に対する教育を担う機関である。
部署の新設は指南役である古参貴族の負担を減らす事を名目にしていたが、それまでは指南役である貴族の意向一つに左右されていた礼儀作法の教育を、指南役とトラブルがあった場合にも支障なく受けられることになった新興貴族の喜びは大きかった。
また、指南役の貴族によって教えられる礼儀作法は、時として正しい作法とは少しずれている場合も少なくなかった事もあり、そこも教育を受ける側には有難かった。
この機関は、ゆくゆくは新興貴族と古参貴族との間にトラブルが生じた場合に、相談や仲裁を行う体制も整えることが予定されていた。今まで直接訴えられた場合以外は王家が関わる事が無かった古参貴族と新興貴族の関係に、王家も本腰を入れて取り組む事が皆に示されたのである。
伯爵事件からひと月程経った頃、魔王バルバロッサファンの間では、魔王バルバロッサを刊行している出版社が、販売している魔王バルバロッサの本に、あるチラシを挟んだ事が話題になった。
それは、なんとこれまで魔王バルバロッサのファンを毛嫌いしていると言われていたミーナが出した声明文だった。
文は短いもので、今まで自分に不用意に近づかず、そっとしておいてくれたファン達に対して感謝の意を述べると共に、今後もその態度を続けてくれると有難い、という内容が書かれていた。
これにファン達は驚き感動した。
それまで節度を守り、ミーナに近づかなかったファンは、それ故却ってミーナの目に留まらないというジレンマを抱えていた。しかし今回ミーナが発した言葉で、そうしたファンは自分達の努力が報われたと思うことが出来たのだ。
また、そっとしておいて欲しいとミーナがはっきり願ったことで、ミーナに不用意に近づきたがるファンもめっきり減った。ファンクラブも、そうしたファンを説得する大義名分が得られたのである。
伯爵の一件以来、ミーナとヘンリーは、時折顔を合わせてファン対応について相談するようになった。ミーナの声明も、その相談から発案されたものだ。
こうしてミーナ騒ぎは一応の収まりを見せ、ヘンリーもようやく安堵出来るようになった頃、ヘンリーの下に挿絵画家のタクヤ・ミカゲが訪れた。そして、ヘンリーをかなり戸惑わせることを申し出たのだ。
タクヤはヘンリーにこう願った。何とかして、ミーナと会う機会を設けてくれないだろうかと。
これにて第3章終わりです。
次回更新ですが、2週間程お休みします。10月21日ぐらいを考えています。
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