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 伯爵をどう料理するかをあらかた考えたヘンリーは、ミーナに頭を下げて謝った。


「ミーナさんにはご不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありません。同じ魔王バルバロッサのファンとして、お詫び致します」


 いきなり謝罪されて、さすがにミーナも恐縮した。

「あなたが謝る必要はありませんよ。悪いのはグラハム伯爵で、ヘンリーさんは関係無いんですから」


 するとヘンリーはバッと顔を上げて反論した。


「いえ! 魔王バルバロッサファンクラブの会長として、会員では無いとはいえ、同じファンの監督が行き届かなかった事は、責められるべきです」

「……そうなんですか」


 ヘンリーの過剰とも言える責任感の強さにいささか引き気味のミーナに、ヘンリーは強くうなずいた。


「本来ミーナさんに対しては、あなたがファンと接触する事を好まれない以上、ファンに対して何の気兼ねも無くごく普通の日常生活が送れるように、ファン全てが自粛すべきなのです。今ではファンクラブ会員以外のファンも増えたのですから、我々は会員以外のファンに対しても、その姿勢を通すように説得するよう努めるべきだと思っています。今ミーナさんが不快な思いをされたのも、我々の努力が足りていないからです。まことに申し訳ありません」


 そう言って再び頭を下げたヘンリーの言葉に、ミーナは驚いていた。


「――会員以外にもって、それじゃ、ファンクラブの会員は、あなたのそういう考えに皆賛成しているわけですか?」

「もちろんです。仮に街中でミーナさんを見かけることがあっても、ファンとしては決して関わるなと通達してありますし、皆通達に同意しています。ですからファンが会員だけなら、恐らくミーナさんが気に病まれるような行為は無いのでしょうが、ここ最近はファンクラブ会員以外のファンが増えておりまして。お恥ずかしい話ですが、彼らの説得に難渋しております」

「じゃあ、今回私が帰宅した時も、王都にいたファンクラブ会員は、私を見ても知らぬ振りをしていたのですね」

「恐らくそうだと思います」


 ミーナの問いを当然のように肯定するヘンリーに、ミーナは今回の帰宅で自分に接触してきたファンが三人だけだったことに気付いた。人が多い王都であるにも関わらずだ。

 しかも両親とグラハム伯爵の使いの話を立ち聞きして家を出た時、ミーナは動揺したせいで何の変装もしていなかった。だから間違いなく結構な数のファンが自分を見たはずだ。


 なのに自分に接触してきたのは、あの少女と手を握らせろと言った若者だけ。

 他の、ファンクラブ会員とヘンリーの説得に応じたファンは、ミーナを見かけても知らぬ振りをしたのだろう。ミーナのプライベートを壊さぬ為に。


 多少客観的に考えようという気にはなったものの、それでもミーナの魔王バルバロッサのファンに対する印象は悪かった。あの伯爵は言うに及ばず、いきなり近寄って手を握ろうとした若者だって、ハッキリ言って不愉快だ。


 だが、ミーナはようやく気付いた。声の大きな彼らの陰に隠れている、節度をわきまえた、多数の物言わぬファンの存在に。

 ミーナは苦笑した。確かに今の不快な思いは魔王バルバロッサのファン故だが、彼らなりに自分を気遣っているのだと聞けば、やはり心は和らぐ。


 その時、ミーナはヘンリーの手が真っ黒になっていることに気付いた。そりゃそうだ。万年筆を手で折ったのだから。


「――その手、良かったらこれで拭いて下さい」


 そう言ってミーナが自分のハンカチを差し出すと、いきなりヘンリーは飛びのいた。見ると顔が真っ赤になって、身体はコチコチに固まっている。


「い、いえ! け、結構です! お構いなく!!」


 完全に裏返っている声が、ミーナがハンカチを自分に差し出したというたったそれだけの行為に動揺しまくっている事を、ありありと示していた。


 ミーナは思わず吹き出してしまった。さっきからずい分理性的な男だと思っていたが、やはりバルバロッサの信奉者のようだ。どうやら必死に己を抑えつけていたらしいが、ミーナの〝接触〟で耐え切れなくなってしまったのだろう。


 ミーナは声を出して笑った。魔王バルバロッサのファンの行為で笑えたのは、初めてだった。

明日は12時前後更新の予定です。


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