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「…………なる程。グラハム伯爵の使いが言ったのですね。あなたが断わったら、あなたとあなたの家族がまずい事になると」


 修道院で顔を合わせた会長という男は、思ったよりも若かった。挨拶を交わした時はずい分控えめで優しそうな人物だと思ったが、ミーナがグラハム伯爵について相談すると、彼の周りの温度が一気に下がったのを感じた。

 表情はさして変わらないが、その身体全体から青白い怒りの炎が見える。


「――ええ、伯爵については私もよく知っております。再三に及ぶ我々の助言を全て無視するだけではなく、こちらのはらわたが煮えくり返るような好き勝手をなさっておいでですよ。しかし、まさかミーナさんに求婚までなさっていたとは。百歩譲って求婚することは伯爵の自由だとしても、あなたが断わればあなたとあなたの家族に害が及ぶと告げたのですか…… いや、舐めた真似をしてくれたものだ」


 フッフッフと鬼気迫る顔で笑いだした会長の手の中で、固いはずの万年筆がボキボキ折れていく。

 ミーナはその万年筆が伯爵の末路のような気がした。自分としては伯爵の横暴を逃れられればいいとしか思っていなかったのだが、どうやら伯爵はえらいことになりそうだ。


「分かりました。伯爵はこちらで()()しますので、ミーナさんは何も案ずることはありません。いや、貴重な情報ありがとうございました。おかげで良い見せしめが出来た」


 見せしめって何だろうとミーナは思ったが、聞かない方が良いような気がしたので、黙っていた。




 ヘンリーはミーナの話を聞いて決断した。今こそ〝最終手段〟を使う時だと。

 今までヘンリーはファンクラブに加入していないファンで酷いトラブルを起こす者に対しては、極力平和的な話し合いで解決を試みてきた。だがそれは、話し合い以外に手段が無かったからでは無い。

 実は魔王バルバロッサファンクラブには、トラブルを起こす者を否応なく従わせる最終手段があった。それは、ファンクラブの会員でそれなりの権力や地位にある者に頼んで圧力をかけて貰うことである。何しろファンクラブにはこの国の王太子夫妻まで入会しているのだ。他にも高い地位にいる権勢かは何人もいる。しかも彼らはファンクラブの方針に全面的に賛同してくれているのだ。やろうと思えば簡単に出来た。

 もちろん、ヘンリーとしてはそんな真似は極力したくない。その方法を使うのは、こちらが絶対に許せない事が起きた時で、尚且つ他にどうしようも無い場合だけだ。


 だが、ミーナの話を聞いたヘンリーは、伯爵に対してその〝最終手段〟を使うことに決めた。何しろ姿がヒロインに似ているというだけで魔王バルバロッサには全く関係の無い一般女性を、事もあろうに権力をちらつかせて妻にしようと図ったのだ。ならばこちらも権力を使うまでだ。


 叩けば相当ホコリが出そうな奴だった。容赦なく調べた事を明るみに出すだけでも、社会的に抹殺出来そうだ。



明日は16時前後更新の予定です。


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