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ミーナが訝し気に少女を見ていると、少女はもじもじしながら言った。
「あの…… どうしても、伝えたくて……」
「伝えたい事?」
ミーナが尋ねると、少女はしばらく逡巡した後で、意を決したように顔を上げると一気にまくし立てた。
「あの! 今のミーナさん、素敵でした!! 凛々しくて、毅然としていて! 本当に、バルバロッサみたいに素敵でした!!」
それだけ叫ぶので勇気を全て使い果たしたのだろう、少女はあ然としたミーナを置いてすぐさま走り去ってしまった。
「……魔王バルバロッサのファンだったのか……」
そう呟いたところでミーナは気付いた。自分が全く変装せずに外に出てしまったことに。
これはまずい、とにかく急いで家に戻ろうと思っていると、別方向からまた声がした。
「バルバロッサ様!! 一生のお願いです!! 手を握らせて下さい!!」
声の方を見ると、若者が自分目掛けて走り寄って来るのが見える。途端に横から警護の女性が飛び出して、若者を押さえ込んだ。女性がミーナに叫ぶ。
「早く!! なるべく顔を隠して家に帰って下さい!!」
ミーナは慌てて袖で顔を隠しながらその場を去った。
家に向って走るミーナの胸には、様々な想いが巡っていた。その中の一つ、魔王バルバロッサのファンに対する考えも、かなり揺らいでいた。
これまでのミーナは、魔王バルバロッサのファンを全て忌々しい存在で一括りにしていた。それはもちろん魔王バルバロッサのファンのせいで酷い目に遭ったと思う気持ちがあったからではある。だがそれ以上に、今までのミーナには周囲を客観的に見る事が出来る程、余裕も自信も無かったのだ。
魔王バルバロッサに関する記憶とは、つまりあの屈辱的なパーティの記憶そのものだった。魔王バルバロッサのファンも、皆自分に屈辱を与える要素でしか無かった。屈辱を感じるのは、自分を客観的に見れない程に自分を卑下していたから。
だからミーナは自分を求めるファンを全て拒絶したのだ。
だが、ミーナの中にようやく生まれた誇りが、ミーナの理性を負の感情の沼から少しだけだが引き上げていた。そのおかげで、今日自分に関わってきたファンについて、ミーナは少しだが客観的に考えられるようになったのだ。
権力まで使って自分を思い通りにしようとする嫌な奴がいた。気弱な少女が必死で自分に告げた賞賛の言葉は、正直言うとちょっと嬉しかった。更に、初対面なのにぶしつけに自分に触ろうとする、失礼な奴もいる。
そしてあの警護の女性。ヒルデガルドの話によると、魔王バルバロッサのファンクラブの会長とかいう人が寄越したらしい。その会長はこう言っていたそうだ。ファンがミーナに不快な思いをさせる事を許す訳にはいかない、不自由な思いをさせてすみませんと。
あの時はそんな事は当たり前だと聞き流していたが、今日会った、ただ自分と接触したがるファン達と比べてみると、明らかに毛色が違うのが分かる。そんな事を考え、自分に謝るファンもいるのだ。
(院長、その会長って人があたしに会いたがっているっておっしゃってたな)
何でもファンの事でミーナが困っていたら力になるので相談して欲しいそうだ。
そこでミーナは気が付いた。グラハム伯爵のあの強引な求婚も、ファンによるトラブルと言えるのではないかと。
ミーナはその会長とやらについては全く知らない。だから無条件に信用することは出来ない。
だが、ミーナにその会長と会うよう勧めるヒルデガルドについては、今ではミーナは強く信頼していた。だから、ほんの僅かだが魔王バルバロッサのファンに対する考え方が柔らかくなったミーナは思うことが出来た。
試しに院長の言葉に従ってみようと。
明日は12時前後更新の予定です。
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