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 帰宅日。リアール修道院寄宿生の少女達は、親が迎えに来る者もいれば、自力で帰る者もいる。ミーナは迎えを断り、他の少女と共に修道院を出た。


 クーロン村から近くの街へ行き、そこから乗合馬車に乗って王都へ。修道院から離れるにつれ、共にいた少女達は減っていく。

 馬車から降りた時、ミーナは一人だった。ミーナはギュッと手を握り締めると自分に言い聞かせた。ここからは、一人で立ち向かわなければならない。自分が王都に残してきたものや、過ちと。


 ミーナが大きく深呼吸した時、誰かが叫んだ。


「あ!! バルバロッサ!!」


 振り返ると、こちらに駆け寄ろうとした少年を女性が取り押さえているのが見えた。恐らく自分に付けられているという護衛だろう。


 ミーナは思い切り顔をしかめると、帽子を深くかぶって顔を隠した。そしてどしどし歩いて行った。






 懐かしい扉を開けた途端、母がミーナを抱き締めた。


「――ミーナ! ……よく帰って来たねえ……」


 そう言ったまま涙ぐんで声も出ない様子の母に、ミーナは微笑みながら言った。


「ただいま、お母様。御心配をおかけして、すみません」


 すると、母の目が真ん丸になり、そして笑った。


「院長様が手紙で知らせて下さった通りだ。ずい分お行儀が良くなったねえ」


 母に連れられて入ると、父が立っていた。聖唱会には来ていなかったから、半年ぶりだ。


 ミーナはゴクリと唾を飲み込んだ。何を言われるのか怖い。父の迎えを断ったのも、すぐに顔を合わせる勇気が無かったからだ。


 だが、父はこう言っただけだった。


「早く中へ入れ。そんな所で突っ立っていたら、話も出来んだろう」




「兄さん達は、現場?」

「ああ。二人とも、帰って来るのは夕方だ」

「夕食は皆一緒に食べられるよ。二人とも、ミーナに会えるのを楽しみにしているよ」


 ひとしきりリットン家の近況について話したと

ころで、話題はミーナのリアール修道院での生活に及んだ。

 そのタイミングでミーナが院長から言付かっていた土産を渡すと、父はとても有難がった。それは生活における下級貴族レベルの基本的なマナーが記された本だ。しかも男女両方の作法が記してある。


「……こんな本があったんだな。ちっとも知らなかったよ。いや、助かるよ。夜会や茶会に招かれても、返事一つ出すにもどうすりゃいいのか、まるで分からなかったからな。ハンナ、お前も見るといい。これで何処かに招かれても、肩身の狭い思いをせずに済むだろう。ミーナ、修道院では真面目にやっているようだな。院長様も、お前の事は褒めていたよ」


 笑いながら言う父に、ミーナはうつむいた。


「どうした? 修道院で何かあったのか?」

「……何も言わないの?」

「ん?」

「お父様が…… 父さんがせっかく勝ち取った名誉を、あたしが台無しにしたのよ。なのに、何で褒めるの? 何で…… 責めないの?」


 何か言おうとした母を、父は制した。そして、涙ぐんでいるミーナに向かって言った。


「お前だって、あんな目に遭っていなけりゃ、恐れ多くも王太子殿下の婚約者殿にああも無礼な真似はしなかっただろう。お前をそこまで追い詰めたのも、元はと言えば、俺が身の程知らずにも爵位なんぞ受けたからだ。平民のままでいりゃ、お前も目を付けられることは――」

「違う!!」


 ミーナは叫んだ。言葉を遮られた父は口を閉じる。ミーナは肩を小刻みに震わせながら言った。


「――全部、あたしのせいじゃない。父さんや母さんが貴族達から爪はじきになっているのだって、元々あたしが……」

「ミーナ、お前はあの件で何一つ負い目に思う事は無いんだ。あれは、絶対お前のせいじゃない」


 父が強い口調でそう言うと、家政婦がやって来た。


「旦那様、グラハム伯爵様の使いだとおっしゃる方がお見えですが、いかが致しましょうか?」


 母が息を呑む音が聞こえた。父も顔を曇らせる。


「そんな…… こんなに早く来るなんて。まだ何も確かめていないのに」


 青ざめる母に、父は言った。


「会わない訳にはいくまい。分かった、客間にお通ししろ。ミーナ、お前は部屋にいなさい。呼ぶまで絶対に外に出るんじゃないぞ」

「……何? 家で、何かあったの?」


 不安気なミーナに、父は微笑んだ。


「大丈夫だ。お前が心配する事など、何も無いよ。いいから、部屋に入っていなさい」


明日も12時前後更新の予定です。


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