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「――聖女、いえ、ミーナさんが帰宅されるのですか?」

「ええ。来週末に、一泊だけですが」


 リアール修道院長の言葉に、ヘンリーは正直言って心穏やかではいられなかった。ミーナの帰宅、それはかなりのトラブルが予想されるからだ。


 その理由は、〝(にわ)かファン〟の急増だった。


 王太子とミーナの一件以来、それまでカルト的な人気小説だった魔王バルバロッサは、良くも悪くも注目を浴びるようになった。それと共に興味を持って読んでみる者も多く、そこからファンになる者がかなりいたのだ。

 もちろん、ファンが増えること自体は歓迎すべきなのだが、ただ新参ファンの中で、一部の者のマナーの悪さが看過できない程問題になっていた。


 ミーナ事件の前から魔王バルバロッサのファンになっている者は、その殆どがファンクラブに入会していた。従って管理も容易い上に、長年かけてファンクラブとの間に信頼関係が築かれ、暗黙の了解事項もわきまえている。

 特にミーナについては厳しいルールを課せられている事も承知しており、彼らが目立ったトラブルを起こすことはほぼ無かった。


 だが新参者は、古参のファンの間では当然心得ているべきとされたマナーやルールなどは一切知らない。当然トラブルも起こりがちなのだ。


 もちろん、ファンクラブも手をこまねいていた訳では無い。古参のファンに呼び掛けて新参のファンが知り合いならアプローチして貰い、それとなく注意した方が良いことを伝えるようにした。

 更に彼らをビジター扱いにして特別にファンクラブが催すイベントなどに来れる機会を設け、そのファンがファンクラブの活動に興味を持ってくれれば入会して貰うようにしたのだ。入会すれば、会員として必要なマナーやルールは教えることが出来る。


 このやり方は功を奏し、俄かファンが起こすトラブルも大分少なくなった。ただ、以前に比べれば、やはりある程度のもめ事はある。


 それも頭痛の種だったが、もっと深刻なのは、こちらのアドバイスを一切受け入れないファンだった。そういうファンこそトラブルメーカーである場合が多く、彼らが起こす揉め事については、ヘンリーも手の出しようが無い。

 だが世間は当然そのファンがファンクラブに属しているかどうかなど考慮しない。彼らが何か問題を起こせば、それは魔王バルバロッサのファン全ての印象に悪影響を及ぼすのだ。


 現在ヘンリーはその問題と格闘中だった。

 ファンクラブに属していないファンをどう扱うか。アドバイスを拒否するだけに、彼らはファンクラブの方針にあまり好意的では無い。特にミーナに関する自主規制を嫌う者は多かった。自分が誰と交流しようが自由ではないか、と言われてしまうと、ファンクラブとしては対処出来ない。

 だが、今のファンクラブが一番神経を尖らせているのが、そのミーナの事なのだ。魔王バルバロッサのファンが、自分の勝手な感情から嫌がる一般女性に強引にアプローチするなどという事件は、絶対に起こしたくない。


 ヘンリーは彼らと辛抱強く話し合い、特にミーナについて、彼女がどれだけファンと接触する事を嫌がっているのかを理解してくれる者が、少しずつだが増えてきたところだった。


 今回ヘンリーがリアール修道院を訪れたのも、ファンクラブの会員ではないファンが修道院を訪れてミーナとの面会を求めるようになった問題について話し合う為だった。

 とりあえず修道院の負担を軽減する為に、ファンクラブから役員を常駐で派遣して、面会希望者のファンの応対を受け持たせる事を決めたところで、院長がミーナの帰宅の話を持ち出したのである。

 問題は多いが、それでもそうした事を話せるぐらい、ヘンリーと院長の間にはそれなりの信頼関係が築かれていた。


 とにかく、今現在快方に向かっているとは言え、俄かファンの問題は全面的解決には程遠い状況だ。そんな時にミーナが修道院からほんの一時的にでも外に出るのだと聞けば、ヘンリーは緊張せざるを得ない。しかもミーナの実家はこの国で最も人口が多い王都キンブリーにあるのだ。


「――分かりました。帰宅中はミーナさんに護衛を付けて、少し離れた所から守りましょう。ただ、ミーナさんも王都にいる間の外出中は、変装した方が良いでしょう。それから前にも申し上げましたが、出来れば私がミーナさんとお話しする機会を設けて頂けると有難いのですが。ミーナさんも今後は定期的に帰宅なさるのでしょう。それだけトラブルを警戒しなければならない時が増える訳です。今後についてミーナさんと相談して連携が取れるようになれば、トラブルもかなり防げると思うのです。やはり難しいですか?」


 ヒルデガルドは申し訳なさそうな口調で、それは出来ないと答えた。


「魔王バルバロッサのファンだというだけで、彼女は拒否反応を起こしているのです。私が提案しようとしても、聞く耳を持たないのですよ」


 ヘンリーは心の中でため息をついたが、口ではこう言った。


「――そういう事なら仕方ないですね。彼女がそう思われるのも無理は無い経験をしたのですから。分かりました。こちらとしても、ミーナさんが不快な思いをされることが無いよう、心を配りましょう」


 とにかく来週までに王都だけでも何とかしなければ。ヘンリーは自分に気合を入れた。

明日は12時前後更新の予定です。


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