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「へ!? し、しかし王太子妃様!!」


 この雰囲気ならまだまだ値は上がる。これはとんでもない取引になると興奮していたロイドは悲鳴を上げた。しかしカトリーヌは譲らない。


「今の品について、どうしても確めなければならない事が出来ました。それが終わればオークションを再開して結構です。しばらく待つように」


 そう言うと、カトリーヌはドレスの裾を持ち上げながら小走りに会場を出た。そして、目当ての人物に追いつくと、カトリーヌは出来るだけ大きな声で呼びかけた。


「待って下さい! リットン男爵!!」


 振り返った男爵は、カトリーヌだと知って青ざめる。そしてすぐさま走り寄ると、カトリーヌの足元に跪いた。


「先日はてめえ、いえ、私の娘が、妃殿下にとんでもねえ真似をしました! 全て親の私のせいでございます。お詫びの申し上げようもございません!! なのにここまで寛大な御沙汰、あれの母親ともども、何とお礼を申し上げたら良いか……!」


 カトリーヌは微笑みながら、男爵に顔を上げるように言った。


「こちらこそ、王太子殿下がお嬢さんにご迷惑をお掛けしました。その後、不自由な事はありませんか?」

「は、はい。親子ともども、誰かに後ろ指を指されることも無く、穏やかに暮らさせて貰っています。娘も、当たり前ですが、自分のしでかした事をかなり悔いているようで……」

「それは良かった ――それで、今日こちらに来られたのは、やはりリアール修道院聖唱会の鑑賞券を競り落とすおつもりだったのですか? ミーナさんも参加されるのですから、あなた方も家族用の鑑賞券を確保出来たのだろうと思っておりましたが?」


 カトリーヌに促されて立ち上がった男爵は、寂しそうに笑った。


「幾ら他のお嬢様と同じ行儀見習いだからといって、罪人としてあの修道院に入れられたことは間違いのねえことです。なのに寄宿生の家族としてのこのこ見に行くような身の程知らず、とてもじゃねえが出来っこありません。だから後で一般向け鑑賞券を買って観に行くつもりだったんです。ですがどういう訳なのか、いつもなら間違いなく売れ残ると聞いていた一般向け鑑賞券が、今年は完売しておりまして……」

(!!)


 カトリーヌは息を呑んだ。しかし表面上は冷静な口調で更に男爵に確めた。


「それで、オークションに参加したのですね」

「――はい。私はともかく、あれの母親がいたく娘を案じておりまして。出来れば修道院の院長が元気でやっていると知らせてくれた娘の姿を、一目見せてやりたかったんですが……」


 そこで男爵はうつむいた。無理も無い。今あの鑑賞券は、男爵では到底手の届かない所に行ってしまったのだ。


 カトリーヌは男爵に言った。


「分かりました。そういう事なら、あの鑑賞券はお譲りしましょう」

「え!? そんな、恐れ多い!! ……それに私には金貨八十枚なんざとても……」


 カトリーヌはニッコリ笑って言った。


「あなたが買えないようにしてしまったのは、私達です。大丈夫、私があなたにプレゼントしましょう。断わってはなりませんよ。これは、王太子妃としての、詫びです。あなたは罪を恥じる思いから家族用鑑賞券を購入しなかった。私も、今恥じています。私を罪悪感に駆られたままにしないで下さいな」





 中断されていたオークションは、王太子妃が戻ったことで再開されることになった。まさか競っている他の二人にカトリーヌが妥協をもちかけるのではないかと気が気では無かったロイドは、とりあえずそんな様子は無い事に胸をなでおろした。ラナイ金貨八十枚程度で落とされてたまるか、という気に、今やロイドもなっていたからだ。


 ロイドが再開の合図をした途端だった。ヘンリーが叫んだのだ。


「ラナイ金貨千五百枚!!」


 会場は騒然とした。さすがのロイドも冷や汗が流れる。まさかそんな金額が出るとは思ってもいなかったからだ。

 王太子は黙っている。カトリーヌも動かない。誰もが思った。この金額で、決まるだろうと。


 その時カトリーヌが立ち上がり、完全に覚悟を決めた表情のヘンリーに向かって話しかけた。


「ヘンリー、魔王バルバロッサファンクラブ会長のあなたに、私達ファンはずっと(こうべ)を垂れてきました。何故ならあなた程バルバロッサを愛し、しかも公明正大で誠実なファンはいないから。魔王バルバロッサに関するあなたの言葉や意思は、私達が持つ如何なる地位や権力よりも尊かった。だから、私達は、私はあなたに従ってきた。今回も、私はあなたが出したその金額に敬意を表して退くべきなのでしょうね。その金額は、あなたにとって人生の全てでしょうから。それを、私達の財力で踏みにじる事は許されない ――本来なら」


 ()()()()

 その言葉を聞いたヘンリーの顔が強張った。そんなヘンリーに、カトリーヌは続けた。


「――ごめんなさい、ヘンリー。私も、譲れないものがあるのです。王太子妃として、民を苦しめた謝罪をしなければならないの」


 ヘンリーは悟った。今目の前にいるカトリーヌはバルバロッサファンではない。国を負った王太子妃だと。それはヘンリーにとっては付け込む隙のはずだった。だが今、王太子妃としてカトリーヌはヘンリーを追い落とそうとしている。


 カトリーヌはためらいなく叫んだ。


「ラナイ金貨二千枚!」


 会場は大騒ぎになった。そして、ヘンリーは完全に力尽きた。

 崩れ落ちるヘンリー。そして、王太子は何も言わない。

 ロイドが槌を降ろした。

 鑑賞券は、競り落とされた。

明日は12時前後更新の予定です。


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