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「そうか、持病の腰痛が悪化したんじゃ、仕方ないね」
王都に行く前に挨拶に来たジョージは、叔母の愚痴に辛抱強く付き合ってやっていた。
ここはクーロン村から少し離れた場所にあるニルギリ村。叔母の夫は村長だが、近頃は不景気だといつもぼやいている。
「お祖父ちゃんもロッティの晴れ姿を見たがってたんだけどねえ。ホント、お金があれば、魔導士に腰を治して貰えるのに。まだ歩けない歳じゃないんだよ、お祖父ちゃんは」
「まあまあ。大人しく寝ていれば、そのうち歩けるようになるよ。今回は諦めよう。ロッティだってまだ十二歳なんだ。修道院にはあと五年はいるんだろう? 機会はあるって」
「そうなんだけどねえ。ただ、こんな高い席が無駄になるかと思うと、やっぱり気が滅入るよ。ホント、こんな事になると分かってたら、ここまで高い席にするんじゃなかったのに。お祖父ちゃんがどうしてもロッティに会いたいって言うから、奮発したんだけどねえ」
「他の人に譲る訳にはいかないの?」
「あんなちんけな聖唱会なんて、家族以外に来る奴なんかいないよ。家族は誰だって自分とこの分はもう買ってあるから、これは紙屑同然だね―― 仕方の無い事だけど、考えちまうんだよ。このお金があったらってね」
酷く落ち込む叔母を見て、人の好いジョージは何とか出来ないかと一生懸命考えた。そして解決策を思いついた。
「じゃあこれ、王都のオークションに出したら?」
「オークションだって!? 馬鹿言ってるんじゃないよ!」
叔母はケラケラ笑いだした。
「オークションって、あれだろう? とんでもなく高価な絵とか宝石とかを金持ちの前で売るやつだろう? そんな所にこんな紙屑とか、冗談にも程があるよ! それこそ手数料なんか心臓が止まるぐらいふんだくられるだろうし、王都に行く費用まで考えたら、紙屑一枚売るのにひと財産飛ぶよ」
歯牙にもかけない叔母を、ジョージは説得にかかった。
「王都には俺が行くから、その観賞券を持って行ってやるよ。それに、王都のオークションって、手数料は出来高払いなんだよ。売れた金額から10パーセントだけ渡せばいいんだ」
叔母は笑うのを止めたが、しかしやはり気が進まぬようだ。
「……まあ、別にもうどうなってもいい紙屑だから、持って行ってくれるなら預けてもいいけど、こんなもん、そんな所に持って行ったら、ふざけるなってあんたが怒られるんじゃないのかい?」
ジョージは片目をつぶって笑って見せた。
「それが、そうでも無いんだよ。王都のオークションは、ただ出品された物を競り落とすだけじゃなくって、皆色々なイベントを楽しむ為に来ている部分もあるんだ。俺も競り落とす訳じゃ無いけど、たまに見物に行くことがあるよ。で、そういう客に向けて、競りの最初の方でこんな物が出されるんだ。まあ競売人が冗談の種にするのに使うんだけどね。本命の前の、道化師ってとこかな。でも、競売人の話術が面白いから、結構買う奴がいるんだよ。これも、ひょっとしたら売れるかも知れないよ。それにね、たまにこういう物が高く売れる時があるんだよ。この間なんか、店の前で野ざらしになっていた看板が、リラ銀貨五枚で売れたよ! これだって分からないよ。修道院に関する物を趣味で集めている奴が、高く買うかも知れないよ」
「ハハ、銀貨五枚か。庶民の夢だねえ」
叔母は笑ったが、すぐにため息をついた。
「別に銀貨にならなくてもいいから、少しでも元が取れるといいんだけどねえ」
それでも叔母はジョージに、リアール修道院聖唱会鑑賞券を渡した。
その紙屑に総毛だつ結果が待ち受けているなど、この時の二人は知る由も無かった。
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