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タクヤが去った後も、ヘンリーは動けないでいた。タクヤが申し出た賭けは、あまりにも分が悪かったからだ。
タクヤが付けた条件をクリアするためには、どこからともなくリアール修道院聖唱会の鑑賞券が沸いて出なければならない。何しろファンが持っている鑑賞券は転売禁止なのだから。大体ファンもヘンリーが事情を打ち明けない限り、絶対鑑賞券は手放さないだろう。
タクヤの言う賭けは、ただ絶望を先延ばしにしただけだ。
それでもヘンリーは必死に考えた。どれだけ可能性が低くとも、やっと与えられた希望だ。どこかに抜け道は無いか。自分も、今ここで打ちひしがれている者達も、救いたい。
そう思い周りを見回した時、ヘンリーはある事に気が付いた。敗者が、少な過ぎるのだ。
あれだけの行列を為したファンに与えられた勝利はわずか123人分。なのに、会館前の広場はまだ空きがある。これ程の敗北。そうそうすぐに動けはしないはずだ。なのに、何故?
その時、王太子のウィリアムが走ってやって来た。
「ヘンリー! カトリーヌを見なかった!?」
ヘンリーは驚いた。王太子のバルバロッサに対する執心は、ヘンリーもよく知っている。
なのにどうしてこんなに元気なのだろう? もうとっくに抽選は終わったはずだ。
「……まさか、王太子殿下は、当選なさったのですか?」
ヘンリーの問いに王太子はキョトンとした顔になったが、すぐに強く首を振った。
「まさか! あんなとんでもない倍率の抽選なんか、当たる訳無いだろう! 僕が当てたのは、これ!」
そう言って王太子はユリスモール人形を見せた。ヘンリーは更に驚く。どうして外れたことをこんな何でもない事のように言えるのだ?
その時カトリーヌがやって来た。
「ああ、王太子様! お探ししました!」
安心したように言うカトリーヌも、絶望の色は見えなかった。確かカトリーヌも外れているのに。
ヘンリーは驚愕した。これが、王族の矜持なのか。これ程の絶望の中で、こうも強くいられるのか。
元気なカトリーヌに、元気な王太子は言った。
「ねえ、カトリーヌ。抽選も終わったことだし、もう帰ろうと思うんだけど、いいかな?」
「私もそれを進言しようと思っておりました。私達には王族としての責務があります。休暇を早めに切り上げられるのならば、それに越した事はございません」
「――もう帰られるのですか?」
帰る気力があるのか、という質問だったが、王太子は別の意味に捉えたらしい。
「ああ、すまないね。後夜祭も色々考えてくれたのだろうけど、ちょっと参加する気力が無くて。じゃあ、本当にご苦労様。次のイベント、期待しているよ」
そう言うと、王太子とカトリーヌはさっさと立ち去ってしまった。
ここでヘンリーは確信した。何かがおかしい。この抽選会で敗れたかなりの者が絶望しないで済む、何かがある。
すると、今度は幹事のゴードンが走って来た。どうやらこの男にも、絶望の色は見えない。
ヘンリーはゴードンの腕を掴んだ。ヒッとゴードンが悲鳴を上げる。
そんな彼にヘンリーは鬼気迫る顔で問うた。
「どこかにあるのだな、抽選会にかけていない鑑賞券が」
ゴードンの顔が青ざめるが、それでも必死で打ち消してくる。
「まさか!! こちらが確保した分は全て抽選に出しましたよ!! 私は不正はしておりません!!」
「そういう事を言っているんじゃない! 我々が確保した分以外に、鑑賞券が見つかったのだろう ――どこだ!?」
激高する会長の剣幕に、ゴードンは遂に陥落した。
「――王都のオークションに、リアール修道院聖唱会の鑑賞券が一枚出されました」
「オークションだと!? だが修道院長殿は家族用以外、全て我々に譲り渡すと明言されていたぞ ……まさか、院長殿が嘘をついたのか!?」
「そうではありません。その家族席が売り出されたのです」
「――家族席か!!」
ヘンリーは心が高ぶるのを抑えられなかった。しかも家族席は一般席に先んじて販売される。当然、どの席を選ぶかも一般席より優先される。
つまり、ファンクラブが押さえた鑑賞券とは比較にならない程上席の可能性があるのだ。
〝神〟への捧げものだ。良い物を用意出来るなら、それに越したことは無い。
だが一応ヘンリーは確かめた。
「まさか、ファンの者が寄宿生の家族に働きかけたんじゃないだろうな?」
「いや! その形跡はありません。皆ファンクラブの制裁は嫌ですから。会長の通達に逆らうはずはありません!」
それを聞いたヘンリーは大きく深呼吸すると、最重要項目を尋ねた。
「……席の場所は、どこだ?」
「…………」
「言え!!」
「……最前列、中央です!!」
「!!!!」
ヘンリーは絶句した。
明日は16時前後更新の予定です。
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