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本日最後の更新です。
さすがにあ然としたカトリーヌに、王太子は全く悪びれない口調で説明した。
「例の、僕達の婚礼式と宴、それと新婚旅行の費用を賄ったんだよ。ほら、君も知っての通り、僕は二年前から鉱山発掘の際に出るクズ鉱石の有効活用法を開発する事業を手掛けているだろう? その事業に僕は自分が動かせる資産を全て投入していたから、婚礼の計画を立てた時は手持ちの資金が殆ど無い状態だったんだよ。まあ、あの時にはもう資金を回収する目途は立っていたから、金を工面出来るまで一時的に借用させて貰ったのさ。今では無事資産も戻ったので、こうして質屋から請け出してきたんだ。これで母上も、少しはお腹立ちを収めて下さるだろう」
カトリーヌはブレスレットを見つめ、それから目を細めて王太子を見た。
「――足りないのではございませんか?」
「え? いや、そんな事は無かったよ。そのブレスレットだけで、婚礼と旅行の費用は十分――」
「反対です。このブレスレットを質に預けて得られるお金なら、婚礼と旅行の費用だけではとても使い切れないでしょう ――残りは何にお使いになりました?」
「い、いや!! 別に何も…… そ、そう! 何にも使ってないよ! 金は残していたんだよ、うん!」
カトリーヌがそう言った途端、露骨に動揺した王太子を見て、修行が足りないな、とカトリーヌは思った。これでは誰の目にも心の動きが丸わかりだ。為政者たるもの、誰にも内心を悟られないよう、泰然自若としていなければ。
まあ、そういうカトリーヌも、王太子には心の動きがお見通しなのだが。
とはいえ、今は都合が良い。
これだけ動揺しているところを見ると、自分に知れたらマズい事に金をつぎ込んだのだろう。考えられるのは、やはりバルバロッサ関係。
カトリーヌは頭の中で、ここ最近の魔王バルバロッサに関する情報を精査し、あるニュースを思い出した。この国で最も大きく伝統あるオークションに、魔王バルバロッサのマニア垂涎の品が出品されたのだ。
それはとあるファンが金とコネを駆使して当代随一の職人に注文して作らせた、バルバロッサの等身大彫像だった。
その職人もバルバロッサの大ファンだったそうで、彼が精魂込めて彫り上げたその像は精巧さ、再現度で他に類を見ない程の逸品だという評判だった。今回その持主が急病で亡くなった為、オークションに出されたのだ。
持主は死んだら彫像は自分の棺に共に入れてくれと常々周りに言っていたらしいが、これは金になると踏んだ遺族が本人の希望を無視して売りに出したらしい。
事実落札価格は跳ね上がり、とんでもない高額で競り落とされたが、誰が買ったかは今も不明だ。
カトリーヌはブレスレットを質屋に預けて得られるだろう金から婚礼・旅行費用を差し引いた額を計算し、確信した。ブレスレットの残金は、その落札価格ぐらいになるはずだ。
カトリーヌは王太子の目を真正面から見据えて、言った。
「等身大バルバロッサ」
「!!!」
完全に硬直した王太子を見て、カトリーヌは自分の予想が正しかったことが分かった。
王宮内の王太子居室ではさすがに足が付くだろうから、王太子に与えられた離宮や別荘のどこかにいるのだろう。職人が粋を凝らして彫り上げた、バルバロッサが。
まったく、今度はこちらから婚約破棄を宣告してやろうか。
「……婚礼や旅行の費用だけではブレスレットで融通して貰えるお金の半分にも満たないはずです。なる程、ブレスレットを質に入れた主目的は、それですか」
「誤解だ!! 僕はあくまで君との婚礼の為に――」
「王太子様、お話は終わりました。ですから本来のお席にお戻りください。私は、場面再現を再開させて頂きます」
カトリーヌは王太子に冷然と宣告すると、侍女にジークムントを呼びに行かせると同時に、ストローが二本ささったミルクセーキを注文した。
これにて1章終わりです。明日は2話更新の予定です。1回目の更新は12時前後の予定です。
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