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本日4回目の投稿です。

 カトリーヌ胸がチリチリ痛むのを感じた。頭には、ミーナの言葉が思い浮ぶ。


〝カトリーヌ様は頭も良くって教養もおありなんだと思いますけど、ウィリアム様にしてみたら、そういう所が息が詰まるんじゃないでしょうか〟


 それは、カトリーヌ自身が常々思っていた事だった。

 何かあれば、カトリーヌはこうして王太子に諫言する。それは王太子妃として当然やるべき事だ。だがこんなに小言ばかり言う自分を、王太子は、ウィリアムは疎ましく思っているのではないだろうか。


 カトリーヌと王太子は魔王バルバロッサのおかげで、親しく語り合う仲だと言って良い。

 だがそれを除けば、こんな頭でっかちの自分は王太子にとって、女としてはさして魅力が無いのではないだろうか。思えば自分は王太子に甘えたことなど、殆ど無い。


 皿の上の溶けたアイスクリームを見て、カトリーヌは思った。この場面のバルバロッサの様に、王太子に思い切り甘えられたら、どんなに良いだろうかと。


 それでもカトリーヌは王太子妃として、王太子に答えた。


「もちろん、ミーナを歓迎致します。王太子妃の座を譲ることは難しいですが、側妃として、王宮で手厚く遇しましょう」


 カトリーヌがそう言うと、じっとカトリーヌを見つめていた王太子はとても嬉しそうに笑った。


「良かった! 君に嫉妬して貰えなかったら、どうしようかと思った!」

「え……」


 カトリーヌは驚いた。今の自分の物言いのどこに、嫉妬があったというのか。


「そりゃ分かるよ。ちょっとした仕草や表情、目の動き。君は、とても感情の豊かな人だよ。しかも、そう見せまいとする所が、余計に良い! 僕だけが分かってるっていう、特別感があるもの。ああ、ユリスモールも、こんな気持ちだったんだろうなあ……」


 そう言ってニンマリ笑う王太子に、カトリーヌは思い切って日ごろ恐れている事を聞いてみた。


「……お嫌では無いのですか? こんな、いつも小言ばかりの妃など。ミーナの様に、いつも素直に甘えてくる娘の方が、可愛いとは思われないのですか?」


 すると王太子が顔をしかめて反論した。


「僕がどうしてバルバロッサを好きになったと思ってるんだい? バルバロッサがユリスモールに甘える場面に僕が夢中になるのは、バルバロッサが普段は冷徹非情な態度を決して崩さないからだよ! そんな、いつも男にためらいなく甘えられる娘なんか、バルバロッサじゃないよ!」


 力説した後、王太子はまた笑った。


「その点、君はそういう、ちょっと自己卑下する所も良いな。うん、バルバロッサも、ユリスモールに辛く当たっては、後悔しまくっているからなあ」


 カトリーヌは脱力した。まったく、自分の伴侶に対して、誰かに似ているから好きなのだと言うとは、何事か。

 それでも、カトリーヌはため息交じりに苦笑する。何だかんだ言って、自分は嬉しいのだ。この人に、好きだと言われた事が。

 何故ならこれが王太子の、ウィリアムの愛情表現なのだから。


 ウィリアムにとってはバルバロッサが第一。現実の女に対してバルバロッサに似ていると伝える事は、最高の愛情表現なのだ。


 事実、カトリーヌはしばしばウィリアムの自分に対する確かな愛情を感じるのだ。

 常に冷静沈着で動揺を示さないと皆から言われている自分の感情の揺らぎを、ウィリアムはいとも容易く、そして優しく見抜く。自分でも嫌になっている不器用さを、ウィリアムはカトリーヌの自己嫌悪も含めてそこが良いのだと言ってくれる。


 そして、カトリーヌも、そんなウィリアムが〝良い〟のだ。

 二人の望むような婚礼式を挙げようと提案し、実行してのける自由さも、臆面も無くカトリーヌのこんな所が好きだと本人に言ってのける素直さも。自分とは正反対のその気性が、好ましいのだ。


 まあそのおかげで今回の様に困った騒動に発展したりもするのだが、最近ではそんな面も含めて、政略結婚の相手がウィリアムで良かったと思うのだ。


 今回の騒動も、結果的には起きて良かったのかも知れない、とカトリーヌは思った。

 この一件で、良くも悪くも自分達の趣味はこれ以上無い程公になった。おかげで魔王バルバロッサの話題に触れまいと、王宮内では常に心に被せていた仮面を、お互い少しは外すことが出来そうだ。

 これなら、自分と王太子の仲が悪いなどという噂も、消えるだろう。とはいえ、一般人がドン引きする程熱く語るまいと肝に銘じているが。


 不意に、王太子は何かを思い出したような顔をして、上着のポケットを探り始めた。しばらくして、小箱を取り出した。開けると、中にはブレスレットが入っている。


「遅くなったけど、母上から言付かっていた、君へのプレゼントだ。本当は王太子の婚約者に対してだけど、王太子妃でも、まあ構わないだろう」


 取り出すのに時間がかかったところを見ると、他の物と一緒にポケットに突っ込んでいたのだろう。カトリーヌは自分に手渡された、これ以上無い程ぞんざいに扱われた王家の秘宝を見て、またため息をついた。まったく、こういう所は大雑把な人なのだ。


「王太子様は、一体これを何に使われたのですか?」

「ちょっとお金が入用でね。質屋に預けていた」

「――は?」

今日はあと1回更新します。22時前後の予定です。

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