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新作です。中編の予定でしたが、少し長くなりそうです。

今日はあと4話投稿します。次の投稿時間は12時前後の予定です。

「カトリーヌ・ハミルトン公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する」


 王太子ウィリアムは、カトリーヌに向かって高らかに宣告した。すると、王太子の傍らに寄り添うピンクブロンドの巻き毛をした可愛らしい少女が、よよと泣きながら訴えた。確か今年で十七歳になるというミーナ・リットン男爵令嬢だ。


「カトリーヌ様。あたし…… あたし…… 謝って頂けるだけで良いんです。あたしを、皆の前で品が無いと馬鹿にしたことも、階段で突き飛ばされたことも、ドレスを破かれたことも…… みんな、みんな許します! だから、お願いです。どうか、謝って下さい!!」


 弱々しそうに泣きながらもちゃっかり自分の要求はしてのけたミーナを見ながら、カトリーヌは深いため息をついた。


(そりゃ、こうなるでしょうねえ)


 そう、最近の王太子の状況を見ていれば、いつかこういう時が来るのは明らかだった。


 レインバード王国の王太子であり、今年二十歳になるウィリアム・レインバードと、王国の重鎮、ハミルトン公爵の娘であり、今年で十八歳になるカトリーヌは、三年前に親同士の取り決めで婚約した仲だ。しかし最近、王宮内では不穏な噂が立っていた。


 何でも王太子が視察先で休息の為に、あるレストランを訪れた際、ミーナ・リットン男爵令嬢を見かけてから常に傍に置くようになったというのだ。


 ミーナの父であるリットン男爵は、五年前に平民から引き揚げられた(にわ)か貴族で、王太子とミーナの関係は格好のスキャンダルになっていた。


 確かにカトリーヌもこのところ、王太子が王宮内をミーナと談笑しながら歩く姿をよく見かけるようになっていた。

 また階段でカトリーヌがミーナとすれ違った際、何故かミーナが大げさな悲鳴を上げ、そのまま階段を転げ落ちたこともあった。

 王宮内でミーナがドレスの破れた裾を示して泣きわめいていることもあったっけ。

 伏線は、色々あったのだ。


 いや、何よりミーナを一目見た時から、カトリーヌは確信していたのだ。

 いつか必ず、こういう時が来ると。


(問題は、この娘が()()()()()()()()()()()だけど……)


 知っていてこんな真似をしているのなら、かなり質が悪い。ちょっと厄介な事になるだろう。

 ただ、それは無いとカトリーヌは判断した。知っているなら、()()()()()を取るはずが無いからだ。


 それでもカトリーヌは一応かまをかけてみた。


「ミーナさん、王太子様のおっしゃりようとあなたのその態度から(かんが)みますと、王太子様は私と婚約破棄された後は、あなたとお付き合いなさる。そう考えてよろしいのかしら?」


 すると、王太子の端正な顔が大きく引きつるのが分かった。それに気づいていないらしいミーナは意気揚々と叫ぶ。あれだけ流していた涙は全て引っ込んだようだ。


「その通りです!! カトリーヌ様と婚約を解消された後、ウィリアム様はあたしにプロポーズして下さるとおっしゃいました!!」


 すると、王太子は酷くうろたえた。


「待て!! ミーナ、僕はプロポーズするとは……」

「プロポーズでしょう!? ()()は、プロポーズですよね!?」

「いや…… その…… ああ」


 ミーナの詰問に、大きく目を泳がせながら明らかに言葉をにごそうとする王太子は、どこからどう見てもサイテー男だった。


「ウィリアム!!! あなた、何てことしてくれたの!!!」


 そこへ血相を変えた女王が駆け寄ってきた。隣には完全に目のすわった、カトリーヌの父であるハミルトン公爵がいる。騒ぎを聞きつけて急いで来たらしい。皆はあまりの状況に気を取られ、誰も女王が到着した事に気づかなかったようだ。


 突然の母の登場に王太子は更に青ざめたが、それでも今度は女王の顔を真正面から見てこう言った。


「母上、報告が遅れて申し訳ありません。ミーナが申す通り、カトリーヌとの婚約は破棄しますので」


 そして、これでいいよね? と伺うように、ミーナを見た。

 それでミーナは笑顔に戻り、今度は王太子の腕に抱きついた。当然、女王は激怒する。


「あなた、自分が何をしているのか分かっているの!? カトリーヌとあなたの婚約は、もう何年も前から決められていた、王家とハミルトン公爵家の違えてはならない約束なのですよ!? それをあなたの一存で反故にするなんて、出来る訳無いでしょう!!! そんな事も分からなくなる程、その娘の為に分別を失くしたの!?」


 雷神と恐れられている女王の本気の怒りに、その場にいた者は震え上がった。

 しかし、今回それだけは感心な事に、王太子は母の剣幕にも全く怯まなかった。こんな事で毅然としてどうする、とカトリーヌは思わないでは無かったが。


「母上、どうかこの件については、後ほど私からきちんと事情をお話します。皆が動揺しますから、どうかこの場はお怒りを収めて下さい」

「あなたが動揺させているのでしょう!!! 大体、婚約者の誕生日祝いの宴でいきなりこんな真似をするなんて、カトリーヌに対して残酷だと思わないの!?」

「いや、それは……」


 再び王太子は気まずそうに言葉をにごし、チラ、チラと訴えるようにカトリーヌを見た。


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