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使い魔には使い魔の指導

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 夜の方向へ傾き始めた太陽が浮かぶ空。


 その中で悠々と飛ぶ烏達が地上で暴れ狂う二人を見下ろし、呆れた声を上げながら巣へと帰って行く。


 私も出来る事なら彼等の様に羽ばたいてこの場から一刻も早く立ち去りたい、そう切に願っていた。



「ぜぇ……。ぜぇ……。いい加減、降参せぬか。この淫猥娼婦め」


「そっちこそ……。白旗上げなさいよ。根暗狐」



 二人共息を荒げて肩で呼吸をしている。


 このままじゃずぅっと戯れていそうだし、私もアレクシアさんに倣って少し勉強して行きましょうか。


 それをきっかけにして喧嘩を終わらせる事も出来ますし。




「先生」


「何よ」



 おっと……。まだちょっと不機嫌そうですね。


 此処は一つ、彼女の御機嫌を伺いつつ報告を兼ねて指導を請いましょうか。



「御取込み中申し訳ありません。素晴らしい力を持つ先生に是非とも御指導願いたい事が御座いまして」


「あらっ?? どうしたのよ、急に」



 うん、ちょっと機嫌が良くなりましたね。


 師の御機嫌伺いをするのは生徒の務めなのは理解出来ますが……。直ぐに癇癪を起すのは師としてどうかと思いますよ。



「先日、私も使い魔を作りまして……」



「うっそ。もう出来たの??」


「ほぉ。流石はテスラの娘じゃな」



 拳を下げた二人が驚いた瞳で私を見つめる。




「アオイと協力して作成しました。この子に色んな経験をさせたいと考えておりまして。つきましては使い魔同士で稽古を受けさせたいと……」



 先生の相手はペロじゃ務まらないし……。蛇の道は蛇、という奴ですね。



「いいわよ。あ、でもあの卑猥な犬は呼びたくないから違う使い魔でいい??」


「勿論です」



 良かった。助かります。



「カエデには私が付きっきりで指導してあげるわ。ありがたく思いなさい」


「あ、ありがとうございます」



 しまった。


 話の流れで私も指導を受ける破目になってしまった。



「何でどもるのよ」



 先生の魔法指導はその何んと言いますか……。かなり酷なのですよ。


 私は先生程魔力の容量を持ち合わせていませんし、術式の展開式の量も叶いません。先生目線で話を進めるものだから必死に着いて行かないといけませんからね……。




「ほら、行くわよ――」


「あ、はい」




「アレクシア!! 儂達も稽古の続きをするぞ!!」


「へっ!? も、もう少し休ませて下さい……」


「ならんっ!! 極限まで自分を追い込んでこその稽古じゃからな!!」


「死んじゃいますって――!!!!」



 魔力、そして体力を使い果たしてペタンと座り込む鳥……。基、ハーピーの女王様の襟を掴んで訓練場の中央へと引っ張って行ってしまった。



 あっちに比べればこっちはマシかな??



 でも、折角先生が指導して下さるのだ。


 余すことなく吸収しましょう。




「じゃあ、私達も早速始めましょうか」


「分かりました。ふぅ……」



 魔力を高め、意識を集中させた。



「我が眷属よ、魔力を糧にその姿を現せ……」



 魔法陣を浮かべ、魔力を放出させる。


 使い魔の召喚は魔力の消費が激しいですね。


 もう少し放出させる量を減らす事は出来ないのでしょうか。




「とぅ――!! カエデにゃん、呼んだかな!?」



 宙に浮かぶ魔法陣の中から虎猫が現れ、私の前でちょこんと座って此方を見上げる。



「貴女に用が無い限り召喚しないと思いますが??」


「相変わらず冷たいなぁ。おっと……。へへっ、毛玉が……」



 私を無視して毛繕いに励み出す。


 どこからどうみても猫ですよね……。



「おっ、この子がカエデの使い魔か。可愛いわねぇ」


「初めまして!! エルザードにゃん!! いつも主人がお世話ににゃっております」



 毛繕いをピタリと止め、後ろ足で立ち、先生に向かって頭をしっかり下げた。


 うん、礼儀正しいのは好感が持てます。



「か――わいっ」

「ゴロゴロ……」



 先生に顎下を撫でられご満悦の様子だ。




「――――。エルザード様。私の相手はそいつでありますか??」




 ん?? 誰の声だろう。


 低い女性の声が先生の後ろから響くのでそちらへと視線を向けた。



「そうよ――。まだ生まれたてだから手加減してあげなさい」


「それは難しいですね。私は手加減を知りませんので……」



 あっ、黒い猫だ。


 先生の背後から一頭の黒い猫が現れ、背筋をしっかりと伸ばして彼女の横に座る。


 大きさはペロより一回り大きく、猫のそれよりかなりの大きさを有していた。


 黄色く怪しく光る瞳、美しい毛並み。


 静かに佇む姿にどことなく猫の威厳を感じる。



「紹介するわ。私の使い魔……」


「オーウェンと申します。以後お見知りおきを……」


「御叮嚀にどうも」



 オーウェンが頭を下げたので私も彼女に倣って小さく下げた。



 使い魔は主人の性格の一部が現れてしまう。つまり、先生にもこんな四角四面な一面がある事を証明しているのですよね。


 意外な一面、とでも呼べばいいのでしょうか。



「ニャゴロゴロ……」



 先生の綺麗な足に体を擦り付けている虎猫とは大違いです。


 私も出来ればあの様な真面目な性格が現れて欲しかったのが本音ですよ。



「貴様、いつまで我が主人に懐いているつもりだ??」


「へっ?? 駄目なの??」


「我が主人は多忙を極める身。貴様の様な下賤な者の相手をして下さるだけでもありがたく思え」


「下賤ってにゃに??」



 はぁ……。


 もう既に暗雲が立ち込めていますね。



「あ――あ。カエデはこういう性格が出ちゃったか」


「えぇ。先生が話していた億劫になる。その意味が分かりましたよ」


「そうでしょ?? はぁい。ペロちゃん、私達は用があるからここまでね。後はオーウェンに面倒を見て貰いなさい」


「了解しました!! オーウェンさん。宜しくお願いします!!」


「ふんっ。ついて来い……」




 あっちに行っちゃった。


 私達の邪魔にならない様に遠慮してくれたのかな??




「じゃ、私達も始めましょうか」


「そうですね。今日はどんな指導を??」


「ん――。今日は……。対となる二属性以上の魔法の構築に取り掛かりましょう」



 うぅ……。


 いきなり厄介な香りが漂いますね。



「周知の通り、二つ以上の属性を掛け合わせた魔法はかなり高度な術式が求められるわ。特に、対になる魔法。火と水、風と土、光と闇。更にこの上には三属性、果ては四属性にまで至るの」



 そう。


 術式を描く時、対になる属性には細心の注意が必要だ。


 少しでも反発し合うようなら、一瞬で術式が吹き飛んでしまう。


 今までの苦労が全て水の泡となり絶望と疲労が歩み寄って来るのですよね……。



「空間転移は光と闇の二属性魔法。これを覚えるのは大変だけど、覚えた後も大変だと知っているわよね??」



「勿論です。新しく魔法を覚えようとすると、既に習得している術式と反発し合わないようにしないといけないからです」



「結構。では、今日は新しい二属性魔法、いや……。三属性以上の魔法術式の基礎を完成させなさい」


「三属性……。ですか」


「何?? 嫌なの??」



 普段の飄々とした表情とは真逆の厳しい瞳をこちらに向ける。



「いいえ。早速取り掛かります」


「宜しい。ここで見張っててあげるから、分からない事があれば気兼ねなく質問して頂戴」


「分かりました」



 さてと……。いきなりの難題ですね。


 気持ちを切り替えて臨みましょう。



「どんな魔法を作るのかしら??」



 訓練場の土の上に座り術式を描き始めると、その前に先生がしゃがみ込む。


 本日先生がお召しになられているのは随分と胸元が開いた黒色のシャツ。


 その隙間からこれ見よがしに豊満な双丘が見えてしまい、目障り……。オホン。


 集中出来ないのですよ。




「あの……。気が散りますので……」


「え――。待っているだけじゃ退屈だもん」


「必要な事があれば御伺いします」


「冷たいなぁ……」




 そう申されましても。


 私としては集中して作業に取り掛かりたいのです。




「ねぇ――。そう言えばさ、レイドっていつ帰って来るの??」


「期間は、そうですね。遅延が無ければ八日程でしょうか」



 んっと……。


 火と水を掛け合わせましょう。


 主軸は火の術式、それを水で補完する形で大丈夫かな??


 魔力を放出しながら宙に浮かべた魔法陣の中に術式を丁寧に描いて行く。



「まだまだ先だなぁ……」



 お次は水を軸とした術式を構築してっと……。


 火の術式に掛け合わせるのはまだ早いかな??


 そうなると火の出力はこれ位にして……。



「もう一回デートしてくれないかなぁ」



 良し。火の属性はこれ位の火力で。


 水は……。


 丁寧に術式を描きませんと。


 細心の注意を払い、術式の中に水の属性を構築していく。



「美味しい御飯を食べてさ。んで、手を繋いだりなんかしちゃって。んふふ……」



 もう。邪魔だなぁ。


 小言を話す位なら黙って見てくれていた方が百倍ましですよ。



「そうだ!!!! 夜までデートして、孕んじゃえばいいんだ!! そうすればあのクソ狐も潔く諦めるでしょ!!」



「……………………」



 急に大声を上げるものだから、驚いて手元が狂ってしまった。


 折角、構築した苦労と魔力が水の泡となって目の前から消失してしまう。



「……っ」



 正面でちょっとだけ驚いている先生の瞳をじろりと睨んでやった。



「まだ序盤だから大丈夫じゃない。ほら、次々っ」


「はいはい。分かりましたよ……」


「あぁ――!! 先生に向かってその言い草は駄目よ!! いけないんだぁ!!」




 お願いします。


 誰かこの人を引取って下さい。藁にも縋る思いで祈りを捧げてしまった。




「静かにして下さい」



 火と水はさて置き……。新しく構築し直しましょう。


 アオイの得意魔法の鎌鼬。


 それを参考にして構築した風刃烈風ウィンドウスラッシュの上位互換を作成してみますか。


 風の属性を主に、魔法威力を向上させる為に……。


 そうですね。



 闇と光……。違うな。闇と火にしましょう。


 術式を描き、頭の中で計算を始めるとペロの泣き叫ぶ声が聞こえて来た。




「あぁ――ん!! カエデにゃ――ん!!!!」


「おっと……。どうしたの??」



 一頭の虎猫が膝元にピョンと乗り、私の胸元に頭を埋め何やら泣き喚いている。



「オーウェンさんが厳し過ぎるの!!」


「それは良い事じゃないですか。それだけペロに注力を注いているのですよ??」


「…………。流石はカエデさん、私の意図を汲んで下さるとは」




 私の右隣りにオーウェンが座り、泣きじゃくるペロをじっと睨みつけている。




「ほら、オーウェンもそう言っているんだし。もう少し頑張りなさい。強くなるんじゃなかったの??」


「うぅ……。だってぇ。鍛えた爪は岩をも切り裂くって言うんにゃよ?? そんな事出来る訳がないにゃ!!」


「やってみない事には分からないでしょ??」


「そうよ――。オーウェン、ちょっとお手本を見せてあげなさい」



 先生が指を鳴らすと、訓練場に人の姿を模した岩が現れた。



「宜しいので??」



 縦に割れた鋭い眼光で先生を見る。



「派手にやっちゃって。後片づけは気にしなくていいわよ――」


「分かりました。ペロ!! しかとその両の眼に刻み込め!!」


「ふんっ。出来る訳ないにゃ。きっと爪が折れて失敗した――って誤魔化すのが関の山よ」




 良くそんな言葉を知っていますね。


 あ、私が読んでいる本から抽出したのかな??




「では、参ります…………。ずぁぁああ――っ!!」


「ぎぃえっ!?!?」



 ペロが意味不明な声を上げると、オーウェンの爪によって岩が綺麗に三つに切り裂かれた。


 鋭利な刃で切り裂かれた美しい断面を覗かせた岩が、硬い音共に地面へと崩れ去る。



「ふっ。まぁまぁだな……」


「ペロ、今の見た??」



 膝元の虎猫に尋ねるが、開いた口が塞がらないようで。



「はわわ……」



 ポカンとして見つめていた。



「中々に鋭い爪を御持ちですね??」


「何の此れしき。イスハ殿に比べれば雲泥の差ですよ」


「ちょっと。何でアイツの名前を出すの??」



 先生がむっと眉を顰めてオーウェンを睨みつけた。



「はっ……。失礼しました……」



 何もそこまで厳しくしなくてもいいのに。



「ペロ、今しがた見たように。我々眷属は鍛錬を怠らなければ鋼の様な肉体を得る事も可能だ。鍛え抜かれた体は主人の役に立つだろう。眷属は主人に忠を尽くす。努々これを忘れるな」


「せ…………」


「ん?? 何だ??」


「先生!!!! ずっとついていくにゃ――――!!」



「こ、これ!! 止さぬか!! 貴様の毛玉が付く!!!!」



 膝元からペロが飛び出してオーウェンにじゃれつく。


 土の上で絡み合う虎柄と黒。


 ほのぼのとした景色ですねぇ。




「いい加減離れろ!! ペロ、私達は主人達の邪魔にならぬよう端で鍛えるぞ」


「分かった!! オーウェン先生に付いて行くにゃ!!!!」



 ふむ。良い心掛けです。


 オーウェンが真面目な性格で良かった。



「…………さてと。術式はどうなったのかしら??」


「はい。御覧になって下さい」



 粗方完成した術式を先生に見せる。



「へぇ……。風の刃に……。闇と火で威力を上昇させるのね??」


「そうです。問題はどの程度の威力にするか。そこに注点を当てて構築します」


「この際だから最大火力にしない??」


「風の刃は既に取得していますからね。それもいいかもしれません」



 上位互換に位置付けるのにはそれ位しないと意味を成さないですから。



「そりゃっ!!」


「わぁっ!!」


「ほほう!! 良くぞ避けた!!」



 あちらもあちらで大変そうですねぇ。


 イスハさんの前には泣きそうな顔を浮かべているアレクシアさんが対峙している。


 翼は生やさないのだろうか??



「素のままで鍛えたいみたいよ??」



 私の胸中を察した先生が声を上げる。



「どうしてですか??」


「素の状態で素早く、強く動けるようになれば。翼も強くなるんですって」


「成程、基礎体力を向上させるのが狙いですか。そう言えば……。ガイノス大陸に向かう時、アレクシアさんに運ばれましたよね?? どうでした?? 速さの程は??」



「…………。もう二度と彼女には運ばれたく無いわ」



 おっと。


 先生がそう言うくらいだ。


 きっと私なら驚異的な加速度に体がついていかないだろう。



「良く、生きていましたね」


「レイドは気を失っていたからいいけどさ。意識を保ったままあの速さを受ける身にもなって貰いたいものよ。ほら、お喋りはお終い。早く仕上げなさい。時間は無限じゃないのよ」



「分かりました」



 先生の話していた通り、最大火力にしましょう。


 ふふ。


 きっとこの魔法を見たら、レイド驚くだろうな。



『凄いじゃないか!! カエデ!!』



 少しでも彼の役に立ちたいのです。



「そこは火の属性を強くした方がいいわよ??」


「ここですか??」



 術式を描く手を止める。



「そう。刃先に炎を付与させたいのならもう少し強くしないと風の魔法に打ち消されちゃうわ」



 ふむ……、成程。



「ありがとうございます。でも、良く分かりましたね?? まだどういった形状か説明していないのに」


「生徒の考えている事なんて全てお見通しよ?? 後、闇の属性は……」



 本当に頭が下がります。


 魔法に関しては手も足も出ない。


 尊敬すべき存在であり、それはこれからもずっと変わらないのでしょう。


 絶対増長しますから声に出しては言いませんけど。



「何?? 私の顔に何か付いている??」


「いえ。続けましょう」


「変なの」



 先生の指摘を受けながら進む稽古は疲れますけど……。実に有意義ですね。


 私が思いつかなかった事をいとも簡単に指摘して、修正してしまう。


 先生を鍛え、育てた人は本当に有能な人物だったのでしょう。そうじゃなきゃここまで魔法に精通している人が存在する筈がありません。


 いつか、その人はどんな人だったのか教えて貰おうかな。


 私達は意見を交換し、最適な術式を組み立て、時間の許す限り術式の構築を進めて行った。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


間も無く始まるゴールデンウイーク。


その中盤辺りから本編が開始出来る様にさせて頂きますね。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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