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近い未来の好敵手との出会い その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「おかあさま……」


 母親と同じく透き通った白色の髪。それと同調するように肌も白く美しく今からでもこの子は将来美人に育つであろうと否応なし考えさせられる。


 白と対比する黒の着物を身に纏う姿は私の母性本能を猛烈に刺激してしまった。


 ちっちゃな御口をふわぁと開き、手の甲で目を拭きつつフォレインの隣に立つ。



「どうしました?? ――――――――。アオイ」


「なにか、うるさかったから」


 まだ夢現なのか微睡んだ瞳で彼女を見つめる。


「ごめんなさいね。友人との会話に華を咲かせていたものだから」


「ゆうじん??」


 フォレインに対し首を傾げ。そして漸くこちらの存在に気付いたのか。


 見ていて愛苦しさを覚える速さで体をこちらに向けた。


「どうも。初めましてアオイちゃん。お母さんのお友達でフィロっていうの」


 初対面としては完璧な挨拶を滞りなく済ませて彼女の反応を待つ。



 きっとこの赤い髪が珍しい!! とか。


 お母さんより可愛い――!! とか言ってくれるんでしょうねぇ。


 ふふ。ごめんなさいね?? フォレイン。


 私、こう見えても子供に好かれる性質だからさ。



 余裕綽々の態度で待ち構えていると彼女は私の斜め上……。いいや、頭上の大空を遥かに超えた反応を見せてくれた。



「あ――!! ちおん!!!!」


 ん?? ちおん??


 こちらへ駆け寄ってくれると思っていたら私の存在全てを無視して少し後方に立つシオンの下へと駆けて行ってしまった。


 あぁ。舌足らずで噛んだのか。


 可愛い噛み方するわね。


「おかえり!! ちおん!!」


 お、おぉう。


 私を無視したのはその可愛さに免じて許しましょう。


 私は大人だし?? 大らかですもの。


「ふふ。只今戻りましたよ、アオイ様」


 輝かしい宝石にも劣らない存在がシオンの顔を余すところなく蕩けさせてしまっていた。


 すっごい顔しているわね。


 まぁ、そりゃそうか。一族の次の女王の世話を担っているのだ。


 日々育って行く彼女の成長を、目を細めて眺めてしまうのも頷けるわ。


「ねぇ――。きいてよ、ちおん」


「はい、何でしょうか。アオイ様」


「きょうのごはんなんだけどね?? おかあさまがたくさんたべさせてきたの」


 まさか、残したりしていないわよね??


 私達生物は命を頂いて生き永らえているのだ。それを粗末にするのは了承出来ない。


「まぁ……。アオイ様の御体には栄養が必要なのですよ。フォレイン様はそれを見越してアオイ様に食せと申すのです」


「でも、ちゃんとぜんぶたべたの。えへへ、すごいでしょ??」


 偉い!!!!


 私は体の前で腕を組み思わず大きく頷いてしまった。


「素晴らしいですね。栄養をしっかりと摂り、体の成長を促しましょう」


「うんっ!! それでね…………」


 今日一日の出来事を話そうとしたのだろうか。嬉しそうに笑みを零していた彼女の顔が急に陰りを見せた。


「どうなさいました??」



「ちおん。そのさるはどこでひろったの??」


 うん?? 猿??


 彼女の視線を追って行くと。



「…………」


 一人の赤子がシオンの足元の存在に対して明確な憤りを醸し出して見下ろしていた。


 どう育てたらあの歳であれだけの憤りを現せるのだろうか。


 全く、親の顔を見てみたいわ。



 ――――――――。


 あっ、私の子だった。



「猿ではありませんよ。あそこにおわすフィロ様の愛娘。龍族のマイ様で御座います」


「オウ」

『よぉ』


 マイちゃんがいつもの声色とは違って一段階低い声を出して最低の初対面の挨拶を交わす。



「りゅうぞく?? あ――。とぶことちかのうがない、れっとうちゅのことかぁ」




「…………。ア??」

「…………。あ??」



 流石、私の娘。


 劣等種と罵られた事に憤怒を抱きほぼ同時に憤りの声を上げた。




「ア、アオイ様!! どこでその様な御言葉を覚えたのですか??」


「どこかなぁ?? おぼえていないよ」


「駄目ですよ。人に対して罵る言葉を御使いになられるのは」


「そうなの?? おかあさまもたまぁにつかうよ?? りゅうぞくのよくないところだったり。ちからちかのうがないみのたうろすことだったり」


 成程成程ぉぉ、そういう事だったのかぁ。


「――――。フォレイン??」


 私の背後でクスクスと笑う彼女に向かって背を向けたままで話し掛ける。


「何かしら??」


「ちょぉ――っと個人的に聞きたい事があるの」


「伺いましょう」


「あんた、娘に何を仄めかしているのかしら??」


 感情を殺した顔を浮かべたままゆぅうっくりと振り返ってやった。


「まぁ……。久々に拝見しましたわねぇ。その御顔」


「ど――も。…………。で??」


「で?? と申されましてもぉ。私はあなたではありませんので一文字で察する事は至極困難ですわ」


 裾で口元を隠して話す。


 きっとあの裏ではほくそ笑んでいる事だろうさ。


「あんた。娘にどんな教育を施しているのよ」


「どんな??」


 首を可愛く傾げる姿がまぁ腹立たしい事で。


「そう。正確に言えば子供に教えて良い事と悪い事があるでしょ?? その分別はついているのかって事よ」


「勿論ですわ。他種族と様々な要因を我々と対比させて蜘蛛一族こそが最も優れていると知らしめたのです」


「それが駄目だって言ってんのよ!!!! 子供に!! しかもまだ三歳の子に教える事じゃないでしょ!!」


 しかも劣等種なんて言葉も教えて!!


「そうなのですか?? でもぉ二歳と少しにもなるのに、猿語……。失礼。言葉も真面に話せない子の教育に比べればましかと??」


「今……。猿語って言わなかった??」


「さぁ?? 気の所為では??」


 嘘仰い!!


 こいつが嘘を付く時は、決まって惚けるんだから!!


 問い詰めてやろうと決意して袖をきゅっと捲ると。こちらと同調して向こうでも不穏な空気が漂い始めた。






 ――――。



「ちおん」


「はい、何でしょうか??」


「そのさるをおろちなさい」


「で、ですから。マイ様は猿ではありません。龍族の子なのです」


 アオイ様の厳しい目が私の顔に突き刺さる。


 彼女の要望を叶えてあげたいのは山々なのですが……。


「フゥン……」

『誰が下りるか……』


 マイ様は私の着物をしっかりと掴み下りる事への明確な拒否を現わしていますし。


 どうしたものか……。


「もういい!! わたちがのぼる!!」


 このままでは埒が明かないと考えたのかアオイ様の魔力が一瞬膨れ上がり彼女の体から眩い閃光が漏れた。


「どう!? もうへんちんできるんだから!!」


「まぁ!! 素晴らしいです!!」


 これには素直に驚いた。


 少し前までは己の魔力の源を発現する事すら叶わなかったのに……。


 とても小さな黒き蜘蛛の御姿になられ八つの細い足を器用に動かし私の右肩に到着された。



「ふふん。やっぱり、ここはぜっけいね」


 胸元でアオイ様を見上げるマイ様より数段高みから見下ろす。


「クゥ……」


 自分より高い位置にアオイ様が登られた事に憤りを感じられたのかマイ様の眉がぎゅぅっと眉間に厳しく寄せられてしまった。


「アオイ様。マイ様はいずれ龍族を一手に纏める御方に成長されるかもしれません。龍族の首領であられる御方の御子なのですよ?? それ相応の対応をお願い致します」


 同年代ですし、いずれは顔を合わせる事もあるでしょう。


 親交を深めておいても損はありませんし。


「むのうなさるがりゅうぞくをまとめられるわけないでちょう??」


「アオイ様!! 御言葉が悪いですよ!!」



 一般家庭から見れば他愛の無い子供同士の喧嘩でしょうが。


 彼女達の両親の地位を鑑みれば戯れ程度の喧嘩でも了承出来ません。子供同士の喧嘩が発展し、行く行くは御両親同士への軋轢へと繋がるかもしれませんので。


 ここでの喧嘩が原因となって龍族との関係が決裂するのは避けなければなりません。



「あんちんなさい、ちおん。さるにことばはりかいできないから」


「で、ですが……。うん?? 如何為されました?? マイ様」


 私の腕を踏み台にして立ち上がり可愛らしい手で着物をきゅっと掴む。


「フンヌゥッ!!」


 そして憎き敵に向ける眼差しが光り輝くとアオイ様へ向かって登頂を始めた。


「ちょ、ちょっと!! 登ってはいけません!!」


「たんそくなてあちでがんばるね。ほらぁ、わたちはここですよ――」


 アオイ様が私の頭頂部へと軽やかに移動され、更なる高みからマイ様へと挑発を送る。


「グヌゥ!! アァイ!!」

『えぇい!! 登るのが面倒だ!!』


 マイ様が私の胸を利用されて勢い良く飛び上がると私の顔に覆い被さった。


「ちおんになにするの!!」


「ヘッ」


 目の前が暗闇に包まれて状況が理解出来ませんが、恐らく私の顔にぶら下がってアオイ様を見上げているのでしょう。


 しかし……。良い匂いですね??


「おりなさい!!」


「ヘヘヘ……」


 この御声は待っていろよ??


 と、の事でしょう。


 私の顔の肉、髪の毛を掴んでお肉が移動を始めようとしていますし。


「おりろって……。いっているでちょう!!」


「ヌゥ!?!?」


 アオイ様が糸でも放射したのでしょうかね。


 お肉の塊がずり落ちて明るい視界が戻って来てくれた。


「あはは!! やっぱり、りゅうぞくはよわいね!!」


「ですから、アオイ様。言葉使いに気を……」


 そこまで口を開くと胸元に妙な気持ちを湧かせてしまう感触が体全身を雷の様に駆け抜けて行ってしまった。


「オホゥ!! ムォ!!」


「きゃぁ!! マ、マイ様!! いけません!! 私のお胸は授乳出来ないのです!!」


 開けた着物隙間から赤子が胸へと侵入。


 下着の合間から御手手をにゅるりと入れて、女性の象徴足る双丘を念入りに揉み始める。


 くすぐったさと、羞恥。


 様々な感情と感触が入り混じり足の力が失われていく。



「ホゥ?? フゥム??」

『これだけ大きいのに?? 本当に出ないのかぁ??』


 マイ様がにやりと歪に口元を曲げて私を見上げた。


「んっ……。い、いけません……」


「ちおん!! やぁ!!」


「ドグワァ!!」


 頭頂部の重みが消失し、黒い影が視界を通過すると同時に片側の胸部に重みが発生してマイ様の御声が届く。


「どう!? くものいちげきは!! まいにちちおんとおかさまにきたえられているんだから!!」


「グオォウ……」


 左の胸にマイ様、そして右側には人の姿に変わられたアオイ様。


 両名が着物と体の間にすっぽりと収まり睨み合いを続けていた。


「ちおんはわたちがまもるんだから!!」


「アオイ様!! なんと勿体無い御言葉……。シオンは嬉しゅう御座います……」



 きっと私の異変を感じ取ったのでしょう。


 これ以上は看過出来ないと決意され己の身を挺して行動して頂けた。


 春の陽気にも勝るとも劣らない温かい感情が一気に花開く。


 一指導係の私を守ると仰られた。それだけで私は万感の想いで胸が一杯です。



「フフ……。フゥン??」


 しかし幼龍の攻撃は止む処か、アオイ様の発言を受けより一層激しい攻撃へと変容してしまった。


「ひゃぁっ!! マイ様!! 駄目ですって!!」


 的確に私の弱点を突く小さな指。


 どうしたら初見で看破出来るのだろうとさえ考えてしまう程の一撃に、両の足で立つ事すら叶わなくなる。


「やめなさい!! えい!!」


 アオイ様の右手がマイ様の頬を捉え。


「やっ!!」


 左手が額を穿つ。


「ドゥッ!?」


 素晴らしい両手の連撃に、やっと小さな手が弱点から離れてくれた。


「ていのうなさるにまけるわけにはいかないの!!」


「ホォン??」

『効かないねぇ??』


 攻撃を食らい上を向いていた可愛い御顔が正面に戻りアオイ様を捉える。


「たっ!!」


 アオイ様が再び右を放つ。


 先程の同じ威力、そして同じ軌道。それは武を嗜む者にとって御法度の攻撃だ。


「ムッ!? ラァイ!!」


「へ?? きゃっ!!」


 左手でアオイ様の右手を弾き真ん丸の御手手でアオイ様の横顔を捉えた。



 う、嘘ですよね??


 赤子が放つ攻撃じゃありませんよ。


 相手の攻撃を見切り必要最低限の力で威力を逸らし、防御が完成する前に雷撃を直撃させる。


 一体どんな指導をされたら齢二つと少しの子に今の動きを教えられるのだろう。


 後でフィロ様に伺ってみましょうかね??



「い、いたい…………。ぐすっ……」


 アオイ様がちょっとだけ赤く腫れた美しい御顔に手を添えると目に涙が浮かぶ。


「アオイ様。もう喧嘩はお終いにしませんか?? ほら、仲良く仲直りしましょう??」


 惜敗は悔しいでしょうけどこの敗北を糧にすればいいのです。


 負ける事自体に恥を感じる必要はありません。


「いやっ!! わたちはまけていないもん!!」


「ですから、これ以上の喧嘩は……。マイ様??」


 仲裁を取り持ちこの児戯を終了させようと画策していると温かい体温を放つ肉の塊がニヤリと笑みを浮かべる。


「ホッホ――!! ズゥン!!」


 そして奇々怪々な言葉を放つと二人の戯れで更に開かれた着物の合間に柔らかいお肉が潜って行ってしまった。


「あはは!! こ、こらぁ!! どこへ潜って行くのですか!?」


 温かな肉の塊が胸の前を横切り脇の下へと到達。


 ちっちゃな御手手で脇のお肉を堪能すると更に背中へと逃れて行く。


「こらぁ!! まちなさい!!」


「アオイ様!! お、お止め……。ふふ……、あはは!! 駄目ですぅ!!」


 二つのお肉が着物の中を縦横無尽に駆け巡り、遂に私の足は幼い大魔達に降参してしまった。


 ペタンと力無く地面に臀部が到達すると不安定だった体が固定された所為か。より一層二つの塊が激しく蠢き出す。


 堪えられない陽性な声を宙に惜しげも無く放ち、もうどうにでもなってしまえとさえ思わせるくすぐったさと形容し難い手と足の動きに身を委ねる。


 未来永劫に続くかと思われる追走劇に厳しい鍛錬で磨いた心と精神がいとも容易く真っ二つにへし折れてしまった。


 初めてかも知れません……。柔らかい肉が駆け抜けて行くこの摩訶不思議な感覚は……。


 短く喘ぎ、艶を含んだ吐息を漏らしながら早く御二人の御戯れが終わりを告げる事を切に願った。






「――――。あ、あのぉ。失礼します……」


 女王の間から本来零れる筈の無い奇声を不審に思った門番がおずおずと部屋へ顔を覗かせる。


「あ、あはは!! 御二人共!! も、もうお止めください!!」


「まちなさい!! さる!!」


「ヌゥ!?」


「あなたがちおんにしたこと。わたちはいっちょうわすれないわ!! くらいなさい!!」


「ギィ!!」


「そこは駄目ですぅ!!」




「大体ねぇ。娘に下らない言葉を教える前にもっと教えるべき事があるんじゃないの??」


「下らないですか。物を知らぬより、知っている方が得だとは思いません??」


「私はそういう事を聞いているんじゃないの!! 物事の分別が付く前の子供に教える言葉があるって言いたいの!!」


「あそこでシオンと戯れているさ……。コホン。娘にもそれ相応の言葉を教えたので?? とてもじゃありませんけど。知識の欠片も見えませんが??」


「今……。また猿って言いかけなかった??」


「さぁ。気の所為でしょう」


「嘘ね!! 今、嘘ついた目付きしてたし!! あったま来た!! あんたが詫びを入れるまで私は帰らないわよ!?」


「どうぞいつまでも居て下さい。私は謝意を述べるつもりはありませんので」



 四方八方から罵詈雑言が乱反射し、いつもは静寂に包まれている女王の間の惨劇を門番が目の当たりにすると。



「――――――――。し、失礼しましたぁ……」


 彼女の力ではこの荒れ果ててしまった場を鎮める事は叶わないとそう悟ったのか。


 一人静かに誰にも悟られる事は無く矮小な言葉を漏らし、器用に頭だけを覗かせていた彼女は静々と退出して行ったのだった。




お疲れ様でした。


次の更新で母親龍の小旅行は終わりを告げます。そして本編の更新に戻るのですが……。キリが良いという事もあって三月から本編の最終章を投稿して行こうかなと考えております。


詳しくは次の更新でお知らせしますね。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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