親友が住まう密林 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
太陽がその大きな口を他人に対して大袈裟に強調する様にして大きな欠伸を解き放ち、微睡んだ目元を手の甲で擦って必死に眠気を拭い去ろうとしている。
空に浮かぶ私の正面には一日の終わりに近付く赤い夕陽、そして背中には新しい一日を迎える為に必要な漆黒が産声を上げる。
この星に住む我々に対して時間という概念を、視覚を通して教えてくれる大自然様の有難ぁい教示を受け取りつつ私は高揚した気持ちのままで神々しい翼を大きく羽ばたかせた。
「ユウちゃん可愛かったねぇ――!!」
顔面に突き刺さる強き風に負けじと声を張り上げ、私の手の上で可愛く座る娘に話し掛ける。
「ン――??」
『可愛いというより力強いって言った方が的確じゃない??』
愛娘は私の声を受け取ると片方の眉をくいっと上げて此方を見上げた。
「あはは!! そんな顔しちゃ駄目よ――?? おっきくなっても癖になっちゃうからね――。それよりさ、家に帰る前に最後にちょっとだけ寄りたい所があるんだけど。いい??」
「アイッ!!」
普段ならこの時間はもう眠そうにうつらうつらと頭を揺れ動かすのに……。
彼女にとって今回の旅は悪戯に襲い掛かって来る眠気に勝るものだろう。眠気を一切感じさせない声で返事をくれる。
「オォ――。ホォン」
龍の手の上を器用に移動して眼下に広がる大地を煌びやかな瞳で見下ろしているのが良い証拠よ。
「ユウちゃんと良いお友達になれそうかしら??」
「ン――?? ンゥ」
『ん――?? まぁそうね』
マイちゃんの口角が僅かに上がり彼女との初対面は大いに成功を収めた事を知らせてくれる。
「おっきくなったらまた会いに行こうね――」
「ンッ!!」
『おうよ!!』
成長したら、か。お互いどんな風に育つのだろう??
これが心に浮かんだ素直な疑問だ。
ユウちゃんは恐らくあの温かい森の中で朗らかに成長するんだろうな。
里の周囲の沢山の素敵な自然に囲まれ、同郷の快活な人達に励まされ、己の腕を磨きそして族長の娘としてその地位を自覚する。
大魔の血を受け継ぐ者。
自らは望んでいなくてもいつかはその血に纏わる戦いに身を投じなければならない。
その運命は私達の力では決して変えられぬ。
彼女達が進む道を照らすのは華麗な祝福か。それとも血塗られた悲劇か。
前者である事を切に願うけど……。悲劇に抗う為には仲間との決して断ち切れぬ屈強な絆が必要なのだ。
幾重にも重なった友情、勇気、そして愛の前では敵の力は意味を成さない。
己が為に戦いに身を投じるのは愚者。誰が為に傷つくのが賢者。
あなた達なら……。きっと沢山の人達を幸せにしてこの世界を変えてくれるわよ。
地面に蹲る程の痛みを知り心が消え去ってしまいそうに傷付いても仲間が、友達が癒してくれるからね??
だから賢者であれ、我が子よ。
「ムムッ!?」
愛娘に対して人生の先輩である私が温かな眼差しを向けていると眼下に広がる濃い緑の森の中へと向かってちょっとだけ気持ち悪い声を上げた。
「どうしたの?? 気持ち悪い声を上げて……。ふぅん、沢山の強い魔力を感じるわね」
森の中には幾つもの力強い魔力の塊が点在しており西から侵入しようとしている禍々しい力に対抗していた。
「やっと到着したわね」
ふぅ――、お惚け淫魔から聞いてはいたけどオーク共は彼女が治める地まで進行しているのね。
「ホ??」
マイちゃんの可愛い顔がクルリと振り返って此方を捉える。
「この森は友達の領域でね?? すごぉく強い人達がここを守っているんだ」
古き良き友の一人。
凛とした佇まいからはとても想像出来ない力と技を持ち華麗に戦う姿はまるで演武。だが、それはあくまでも表の姿。
血沸き肉躍る戦いこそ彼女に誂えた舞台なのだ。
立ち塞がる敵を屠り、切り裂き、命の光を断つ。敵に回すと一番厄介な相手と聞かれたら私は迷わずこう答えるかも知れない。
『蜘蛛族を一手に纏める女王。霞刀のフォレイン』 と。
「フンフンッ」
幾つも点在する魔力の中で飛び抜けて強力な力。
ここから見て丁度西に位置するその強い魔力の下へと向かって不穏な力の塊が結集しつつあった。
それに気付いたのか。それとも野生の勘なのか。
愛娘がその一点を見つめて何やら私に催促していた。
「分かってるわよ――。私もそこへ降りようかなって考えていたとこなの」
「ンゥ!!」
『宜しい!!』
真昼の太陽より輝きを増した笑みで私を見上げた。
「と、言う訳でぇ。口煩い淫魔の女王様はお帰りになったのでぇ。超急降下で突撃しますね――」
「ン――ン!! ウウン!!」
『それは駄目!!』
私が降下体勢に入ろうとするとマイちゃんのお目目がキュっと縦に開かれ、拒絶を意味する様に顔を横にブンブンと振る。
「残念で――す。もう既に準備は完了しましたので、このまま直行します!!」
大空を統べるのは我等龍族だ!!
己の翼の力を誇示するように翼を大空一杯に広げて体全身に風の魔力を付加。
「オンギャァァアアアアアア――――――ッ!!!!」
風を、そして嵐を身に纏った私は娘の絶叫の音よりも速く。何も存在していない空の中に私達の音を置き去りにして緑が占める大地へと向かって急降下を開始したのだった。
お疲れ様でした。
現在、サッポロ一番塩ラーメンを食しながら後半部分の編集作業を続けておりますので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




