近い未来の親友との出会い その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
清らかな空気が漂う美しい森の中に静かに存在するミノタウロスの里。
「今日は中々良い品が出来上がりましたよ――!! 良かったら見ていってね!!」
その主大通りの脇には木造の家屋が建ち並びその軒先にはガタイの良い人々が覇気のある姿で立ち、里の中を行き交う人々に対して大声を上げており。
「ふわぁ……。はい、適当に見ていってね――」
それとは対照的にのんびりと椅子に座り里の柔らかな雰囲気に沿った声を上げている者も居る。
この里で暮らす者達は自分で作り上げた芸術作品若しくは狩りで得た獲物の肉を自慢する様に販売しており、その活気は静かな森の中で少しだけ浮いた様にも見える。
そして族長の妻を見付けるともう一段階大きな声を上げて自慢の品々を掲げ始めた。
「フェリス様!! 新鮮な野菜が採れました!! 後でお屋敷にお持ち致しますね!!」
「あら、ありがとうございます」
「フェリス様ぁ――!! 美味しい川魚は如何ですか!?」
「時間があれば後で寄りますね」
「甘いクッキーはどうです!? 今日は本当に上手に焼けたんですよ!!」
「んふっ。後で頂こうかしらねぇ」
中々に活気ある雰囲気は族長の妻によって更に活気を増し、種族特有の太い声が方々から空気を伝わって私の頭の中にまで響いた。
「フェリスって人気者なのね」
左右から浴びせられる声を物ともせず飄々とした感じでエルザードが話す。
「人気者かどうか分かりませんが……。ここは昔から閉鎖的な場所ですからね。誰が、何処に。そして誰と関わっているのか。それが筒抜けなのです。当然私達の今の状況は彼等にも伝わっています」
「と、言うと??」
エルザードが首を傾げる。
「族長の娘が生まれて一年と少し。里では娘が生まれた時に少々大袈裟な祝祭が行われました。世継ぎが生まれた、その事が嬉しかったのでしょうね」
「ふぅん。つまり里の皆さんはフェリスの体を心配しているんだ」
掻い摘んで纏めるとこういう事でしょうね。
「たかが世継ぎが生まれただけなのに大袈裟じゃなぁい??」
「あのね?? 子供が生まれたらそれでお終いって訳じゃないの。母親はずぅっと大変なのよ。子を持つ母親なら誰しもが子供相手に毎日死闘を繰り広げ、ヘトヘトになって過ごす。疲れ果てて寝ても夜泣きで目を覚まし、下らない夫の愚痴にも付き合わなきゃいけない。それに……」
「あぁ、はいはい。大変なのはよぉく分かったわ」
まだ子を持たぬエルザードに母親の大変さを伝えてやろうと考えていたのに、ぶっきらぼうな態度でぷっつりと切られてしまった。
「うふふ。共に子を持つ親同士、フィロさんの気持ちは凄く理解出来ますよ」
フェリスが柔和な笑みを浮かべてコクリと頷いてくれる。
「でも、その苦労に見合った顔を……。浮かべてくれるのですよ」
彼女が娘の横顔をちょこんっと突くと。
「ウ??」
『何??』
目をぱちくりと動かしてもう一人の母親を見つめた。
「まぁ!! 可愛い……」
「フゥン」
『ま、まぁね』
娘が満更でも無い顔を浮かべて彼女の社交辞令……。かしらね??
世の中では社交辞令とも呼ばれるそれを静かに受け止めた。
ふふっ、そうやってずぅっと可愛い顔を浮かべていればいつか貴女を好いてくれる人が見付かるわよ??
自分らしさを前面に押し出すのは私も大好きだけど時には男の子が好きそうな顔を浮かべる。
それが女性の武器であり身嗜みでもある。
まっ、この子はちょっとだけ横着な私と釣り馬鹿の血を引き継いでいるのだ。恐らくというか確実に強過ぎる我を出して周囲に居る友達や男の子を困らせるのでしょうね。
「あら、見えて来ましたよ」
近い将来、確実に訪れるであろう娘の我の強過ぎる姿を想像しているとフェリスが静かに声を上げた。
その声に従い柔和な笑みを浮かべ続けるフェリスから正面へ顔を向けると主大通りの終着点の先で私達を待ち構えている巨大な存在が目に飛び込んで来た。
「はぁ――。御立派な屋敷ねぇ……」
エルザードが首をクイっと上方へ向けて可愛い御口から溜息を漏らす。
私も彼女の意見に大きく頷いた。
人を出迎えるには少々大袈裟な大きさと高さを誇る扉、左右に向かってどこまでも伸びる木製の壁。その壁の所々に嵌められた窓硝子も一々大きい。
私とエルザードは宛ら、巨人の国に迷い込んだ小人かしら??
そう錯覚させる程に族長の屋敷はその存在感を里の中で大いに放っていた。
「御二人のお家も中々に大きいではありませんか。それにうちの主人は偶に大きな姿で帰って来ますので……。それを加味した結果、こうなってしまったのですよ」
「それにしても大袈裟だって。大体、この扉を開けるのにどれだけの力が要ると思ってんのよ」
淫魔の女王の細い腕が入り口と喧嘩を始めるが……。
「かった。素の力じゃびくともしないわね」
数舜で完敗を喫して拳でトンっと木の扉を叩いた。
「そう?? 別にそこまで苦労はしませんけど」
その横を普段と変わらぬ表情で何の力も籠めずにフェリスが扉を開き。
「あ、うん。そうなんだ……」
「では、どうぞお入り下さい」
ニコっと快活な笑みを浮かべて私達を招いた。
この無駄にデカイ扉を素の力で何の苦労も労せずに開けるなんてねぇ。流石は怪力無双のミノタウロスの血を引き継ぐ傑物といった所か。
物は試し、そう考えて両開きの片側にある扉をきゅっと押すが……。
「フィロさん?? 如何なされました??」
「へ?? あ、うぅん。気にしないで」
私の普段の可愛い力では少し動かせるのが関の山であった。
最近全然鍛えていないからなぁ。娘達の育児が終わったら鍛え直さないと……。
この沈んだ気持ちを悟られまいと平静を保ちつつ屋敷にお邪魔させて頂いた。
「天井、たっか!!!!」
ここへ来て顎を上に向けるのは何度目だろうか?? いい加減首も疲れて来ちゃったわ。
美しい木目が目立つ柔らかい色を放つ木製の天井、そこから豪華な銀製の燭台がぶら下がりここに住む住人の地位の高さを物言わずとも私達に伝えている。
正面奥へと続く扉、そして入り口から向かって両側にはずぅっと奥まで伸びる廊下が確認出来る。
「そこまで驚かなくても……。あっ!!」
「「っ!?」」
フェリスが何かを思いついたのか、普通の人とはかけ離れた音量を放ってド派手な音量の柏手を一つ打ち。
「宜しかったら娘を見て行かれますか??」
彼女の柏手によって体が上下にビクっと跳ねた私達に向かって体を華麗にクルリと反転させた。
「勿論。寧ろ、その為にここへ立ち寄ったの。それと……。はい、これお土産ね」
里の出入口のいざこざですっかり存在を忘れてしまっていた土産のパンを渡す。
「まぁ!! ありがとうございます!! 中身は……。わぁ、美味しそう……」
少し大き目の紙袋を開けるとここからでも芳ばしいパンの香りがふわりと届く。
良かった、喜んでくれて。
あの笑顔を見られただけでも十分に見返りは受け取ったわ。
「では娘の部屋へ案内しますね。どうぞ、こちらへ」
パンの香りで上機嫌になったフェリスの後を追い正面出入口から向かって右の廊下へと進み出した。
「丁度小腹が減っていたので嬉しいです」
「ん?? 昼御飯は食べなかったの??」
喜々とした表情を浮かべる彼女にエルザードが問う。
「ちゃんとしっかり食べましたよ。でも、ほら。もう直ぐ夕方じゃないですか。この時間帯って妙にお腹が空いちゃうんですよねぇ……」
どうやらもうパンを食んだ自分を想像しているようね。
紙袋を決して誰にも渡すまい、と。
紙袋を両の腕でしっかりと保持しており、こんもりと盛り上がった双丘にパン達は苦悶の表情を浮かべていた。
「ってかさ。フェリス」
「どうしました??」
小首を傾げてエルザードを見つめる。
「あんた、また大きくなった??」
「あ、もう……。駄目ですよ?? 人の胸をじっと見つめちゃ」
上下に有り得ない角度と速さで揺れ動く双丘を紙袋と両腕を駆使して必死に隠そうとするが……。
「隠れていないわよ」
淫魔の女王様が仰った通り紙袋の合間、腕の合間からお肉が服越しにこれでもかとはみ出てしまっていた。
いやいやいやいや。あれは流石に冗談よね??
どうやったらあんな風に腕の中から肉が零れるんだろう。
若かりし頃よりも多少成長した我が双丘を見下ろし、彼女達に悟られぬ様静かに腕で隠してみたが……。
『へ、へへっ。あっしはいつまでもうだつの上がらない盗人でさぁ……』
親分に向かってヘコヘコと頭を下げる子分の成長は見受けられず、腕の隙間からは布だけが虚しくはみ出ていた。
はぁ……、止め止め。
胸の大きさは所謂、種族の差って奴なのよ。大体!! 前を歩く二人が異常なだけで私が普通なの!!
あれらと自分の双丘の大きさを比べる事自体が異常なのですっ。
「娘が生まれて授乳しているからかしらね。出産前よりちょっと大きくなっちゃいました」
「ほぉん。そりゃ結構。んで?? 夜な夜なボーにもそれを飲ませている訳だ」
「そ、そんな事する訳がありません!!」
淫魔の冗談にフェリスの顔が真っ赤に染まる。
あっちの方はそれなりにしているのかしらね?? まぁ、私は……。最近は滅法ご無沙汰だけど。
娘達の世話でそれ処じゃ無いのが本音かな。
育児を終えて一段落したらそっちの方も……。いやいや!! 今はそういう事を考える時間帯じゃあありません!!
「ふぅん?? 怪しいわねぇ……。こぉんなおっきなおっぱいで迫られたら。あの馬鹿力も猛々しい雄叫びを上げてむしゃぶりつきそうだもんね――??」
「はい!! 到着しました!! では、お入りください!!」
「ちっ。もう少し乗って来てもいいじゃない。子供が生まれた時の参考にしようと思ったのに」
フェリスが淫靡な会話をバッサリと切り捨てて己の愛娘が待つ扉を開けた。
フェリスの愛娘ちゃんがスクスクと育つ部屋はこの屋敷同様に広く、扉の右側には大の大人が三人程横になっても休める巨大なベッドがあり。左側にはゆったりと安らげる二対のソファが静かに佇んでいる。
そのどれもがかなり立派な作りと大きさなのだが、部屋の中に存在する家具よりも私達の視線を否応なしに惹きつける存在が部屋の中央にちょこんとお座りしていた。
「まぁ!! 可愛いぃぃいい――――!!」
おっと、今の女性らしい声は私の声かしらね。
そんな事も一切気にせず、摩訶不思議な声を上げつつ深緑の髪の赤子に向かって駆け寄ってしまった。
「わぁ……。すっごい可愛いわねぇ……」
「……」
プクプクに膨れ上がったモチモチで滑らかな頬と私を見つめるクリクリの真ん丸いお目目。
肌は父親に似たのか、ちょっとだけ日焼けしたかの様な肌色が健康的な印象をこちらに与える。
初対面である私を見つけても驚き、泣き出す事はせずに緑色の瞳でじぃっと見上げていた。
「ありがとう。良かったわね――。ユウちゃん」
「ふぅん。その子の名前、ユウって言うんだ」
ソファに小振りなお尻を乗せ乍らエルザードが話す。
「主人が一日……。ううん。三日程寝ずに考えた名前ですよ」
「三日もぉ?? ちょっと長過ぎじゃない??」
「エルザード。名前を考えるのって本当に大変なのよ?? 何せ一生その名を背負って生きて行く訳だからね」
ユウちゃんから視線を外してソファの上でだらけた姿勢で寛ぐ彼女へ言い放つ。
「一生って事は無いでしょう。変えてはいけない取り決めも無いし。気に入らなかったら変えればいいだけだしぃ??」
「親が決めてくれた名を捨てる事は頂けないわね。親がどんな気持ちで自分の名前を考えてくれたか、考えた事あるの」
「ん――ん。な――い」
でしょうねぇ。
「あ!! そうだ。ほら、マイちゃん。私の友達の娘さん。ユウちゃんに御挨拶なさい」
体から布を外して背負っていた娘を温かい木の床へ降ろして上げる。
「ム……。ウゥン??」
『おぉう……。ほぅ??』
初対面それとも自分と同年齢の姿を始めて見た所為か、マイちゃんはユウちゃんの前後左右から彼女の姿、形を観察し。
「フゥム……。オゥ!!」
『成程ぉ……。よぅ!!』
敵対心を持たぬ者と認識してからやっとユウちゃんの正面に座って軽快な挨拶を交わした。
それに対するユウちゃんの態度はと言うと。
「……っ」
『何だ、こいつは』
こちらは初めて見る同個体に一応の警戒心を持ち続けていた。
お疲れ様でした。
現在、後半部分の執筆並びに編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




