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旧敵と友人が住む里 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 空高い位置から燦々と光り輝く陽光が森の中へと差し込みその光の中に紛れ込む小鳥達の歌声が耳を楽しませ、鼻から息を吸うと清涼な空気が肺を満たして体に活力を生み出してくれる。


 大都会に漂う体に纏わり付く土埃から解放されて自然の中に身を置くとこうも気分が高揚するとは思いもしなかった。


 それは恐らく自分でも気付かぬ内に大勢の人々が巻き起こす喧噪に辟易していたのだろう。


 硬い石畳の代わり、柔らかな土の感触を足の裏に感じながらそんな事を考えていた。



「はぁ――。静かでいいわねぇ」


 私の隣で鬱陶しい胸を上下に弾ませながらエルザードが何気なく言葉を漏らす。


 どうやら彼女も人の多さに嫌気を感じていたようね。今は酷い嵐の過ぎ去った後の様な晴れ渡った空の如く爽やかな笑みを浮かべていた。



「そうねぇ。所で少し位荷物を持ってくれてもいいんじゃない??」


 両手に抱える荷物の片側を彼女へ向かって差し出すが。


「や――よ」


 彼女はどこ吹く風といった感じで私の頼みを受け流してしまった。


 まっ、十中八九そう言うと思ったけどね。フェリス達のお土産用に買ったんだから少し位持ってくれても良いじゃない……。



 人が犇めく王都レイモンドから緑溢れる森に到着するまで僅か数秒足らず。


 正確には街を出て人の姿を確認出来なくなってからだけど、私が龍の姿に変わってミノタウロスの領域まで飛翔しようかと提案したが。



『もうあんたの背中は懲り懲りよ』


『アイッ!!』


 多数決によりほぼ秒で私の提案は否決されてしまった。


 そして自称、有史以来の超絶最強完璧な魔法使いの空間転移で今に至る。



 魔法で移動って何か味気が無いのよねぇ。


 これは勿論私の持論なんだけど。例えば……。そう!!


 旅の途中に素敵な出来事と出会うかも知れないのにその御楽しみをすっ飛ばしちゃうから勿体なく感じてしまうのだ。


 空を飛んで移動していなければあの商人の親子を助ける事は出来なかったし、お礼の品を受け取る事も無かった。


 そして何より彼等の命を救う事が出来た事が素敵な出来事だと私は思う。


 彼等はこれから数十年先に渡って様々な出会いと別れを繰り返し、素晴らしい人生を謳歌して彼等が運ぶ物資は人々に笑みをもたらすのだろう。


 私が起こした事は矮小な事だ。けれど……。


 あの結果が起因となり人が人を幸せにして、それが伝播して更なる幸福が人々の心を潤すのだ。


 旅の醍醐味はやっぱこういう事なのよ。



「何?? 嬉しそうな顔しているけど??」


 私の表情を見つけたエルザードがこちらの顔を覗き込む。


「え?? あ――……。下らない事を考えていたのよ」


「下らない事?? それってさぁ。夜の営みの事かしらぁ??」


 それは下らないじゃなくて卑猥な事よ。


「好きに想像していなさい。私が考えていたのはどんな小さな事でもそれが次に繋がっていくんだなぁってさ」



 私達の目の前をふわふわと飛ぶ蝶が木の幹に止まり白き羽を休める。


 それを見つけたエルザードが何気なくその蝶の下に歩み寄り優しく指先に乗せてこちらに掲げて口を開いた。



「例えば、さ。この綺麗な蝶が一つ羽を羽ばたかせるとする」


「ふんふん」


「私達魔物や人間にとってそれはとぉっても些細な出来事よね??」


 そりゃそうでしょう。


 この広い森の中に居る蝶一匹が羽を羽ばたかせたとしても遠方にいる私達に取っては砂粒以下の出来事だ。


「でも、このたった一つの出来事がはるか遠くの場所の天気を左右するかもしれないの」


「まさか。それは大袈裟よ」


「大袈裟?? 風、波、海流。気象には不確定要素がこれでもかと存在してそれがどういった干渉をしてくるのか誰も分からなし、誰にも予想出来ないの」


 彼女の美しい指先から蝶が飛び立ち、森の木々を抜けて大空へと飛び立つ。


「ほら、綺麗に飛んで行った……。あの子が飛び立ち、空気を振るわせると鳥がそれを見つけて捕食する。その鳥を巨龍が捕食しようとして風を巻き上げる。風が巻き上がり、嵐を呼んで大陸を横断。――――。ね?? 意外と簡単でしょ??」


 自称世界最強の大魔法使いであられる淫魔の女王様の御高説は彼女よりも大分劣る頭脳を持つ私でも大変分かり易いのは頷けた。



「最初の誤差がどんなに矮小でも、時間の経過や組み合わせによってびっくりする程の大きな影響が現れるの。そしてこれは……。どんな未来が訪れるかは誰にも分からないって事になるのよ」


「未来は分からないから面白いんじゃない」


 私が先程思い描いた彼等のこれからの人生が正にそれだ。


「私もフィロの意見に賛成よ。そっちの方が楽しいもんね。でも、仮に未来が予測出来るとしたら……。全ての物質の力と位置を知る事が出来て……。超完璧な初期状態を用意すれば……。いや、それは不可能、か??」


 難解な事を述べつつ完全に自分の世界の殻へ閉じこもってしまった。


 どうやら彼女の頭の中では、私では到底理解出来ない事象が飛び交っているのだろう。


「ほら、行くわよ――」


 ここに留まっているのは了承出来ない。それと何より、美味しいお土産のパンが台無しになったら困るもんね。


 そう考え先に足を動かして彼女を促した。


「あ、うん」


 ブツブツと獣の嘯く声にも似た声を背に受けつつ森の中の道なき道を歩み続けて行くと、力強い魔力の鼓動を幾つも捉えた。


 おっ、もう少しね。


「エルザード。そろそろ到着するわよ」


 くるりと振り返り尋ねると。


「ん――っ!! 駄目だ!! どう考えても存在しない!!」


 彼女は未だ小難しい己と自問自答していたのか、両手をぐんっと上げてお手上げの格好を披露してくれた。


 その際、胸が上下にプルンっと揺れ動いたのは余計だ。


 搾って、切り落として、硬い地面に叩きつけてやりたくなってしまった。


「天才にも分からない事があるのね」


「私は全知全能じゃないの。神様にも近い力を宿しているけどさ」


 えへへと笑って舌を出す姿がまぁ可愛い事で。


「はいはい。ほら、到着するわよ」


「そうねぇ。漲る魔力がちらほらと感知出来るもん」



 ミノタウロス一族の特徴と言えば??


 そう問われたら彼等を知っている者は口を揃えてこう言うであろう。


『馬鹿力』 と。


 あ、馬鹿は余計かな?? 気分を害したら御免なさいね??


 まぁ兎に角彼等は種族特有の怪力を備えておりそれは周知の事実である。



 誰に謝意を示す訳でも無く大きな木の幹の脇を抜けると同時に巨大な木の壁を視界が捉えた。


 何人をも通さぬと物言わずともこちらに伝えて森の中で聳え立つ壁。


 その壁の下、ぽっかりと空いた口の前に人の姿の二人の女性門番が警備の番を請け負い。人の身の丈程の鉄製の槍を持って警戒を続けている。


 門番の彼女達も例に漏れる事は無く人のそれより太い腕が嫌でも目に付いた。



 鋭い目付きに逞しい出で立ちから放たれる姿は正しく門番に相応しい風貌ね。


 ボーの教育ぶりが遠目からも窺えるわ。


 武の雰囲気を醸し出す者に対する『私達』 の悪い癖なのか。


「「……っ」」


 私とエルザードは出来るだけ気配を消して風景に溶け込む様に壁の入り口へ向かい始めた。




「でさぁ、聞いてよ」


「ん――?? 何??」


「昨日の事なんだけど……。私の彼がさぁ、私の御飯全部食べちゃったのよ!! 残しておいてって言ったのに!!」


「あ、そっか。あなた、夜警も担当してたっけ」


「んもぅ――。あったまきちゃってぇ!!」


 立派に門番の仕事を遂行しているかと思いきや。なんの他愛の無い会話を続けて会話の合間を縫って大きな欠伸を放っていた。



 あらまぁ。


 この森の中は平和だし、楽しい会話についつい華を咲かせたいのは分かるけど気を抜き過ぎるのは駄目よ??


 彼女達は獲物に狙いを定めた肉食獣の様に静かに接近する私達の存在に一切気が付く事は無く、微睡む月も欠伸を放つつまらない世間話を続けた。



「それで?? どうしたのよ」


「胸倉掴んで家の外にぶん投げてやったわ!!」


「あらぁ――。そりゃ災難だったわねぇ」


「こっちが災難だったの!!!!」


 こりゃいかん。


 私達の腕前を以てすれば彼女達に気付かれる事無くたかぁい壁を越える事は容易いけど……。


 人の家に無断で、土足で侵入するのは了承し難い。しかも夫の友人の家ですものね。


 ここは一つ礼儀正しい御挨拶を交わしましょうか。



「お腹が減るとあなた怒りっぽくなるもん。心を制御する事を覚えたら??」


「そんな事をする必要ないわよ。怒りたい時は怒って、泣きたい時は泣く。それが自然の摂理なの!!」






















「――――――――。至極同意するわよ?? お姉さん達」


 彼女達の背後を静かに取り会話の合間を縫い淑女らしく小さな声を掛けてあげた。


「「ギャァァアアアアアア――――ッ!?!?」」


 あら?? そんなに驚く事かしら??


 私の声を受け取るとだらけていた体がピンっと真っ直ぐ伸び、手に持っていた武器を落として女性らしからぬ声で叫んだ。


「だ、誰!?!?」


 彼氏の愚痴を零していた門番さんが目を真ん丸に見開いて私の方へ振り返る。



「初めまして。ミノタウロスの族長、ボー=シモンと古くから親交があるフィロ=フォートナスと申します」


 両手を前に組み静々と頭を下げた。


 うんっ、我ながら完璧な挨拶だわ。


「ボー様と??」


 今度は彼氏の愚痴を聞いていた子が口を開く。


「はい。正確に言えば親交があるのは私の夫ですが……」


「「夫ぉ??」」


 仲いいわね??


 仲良く同方向に首を傾げて明らかに欺瞞で満ち溢れた声を出す。


「えぇ、彼にそう言って頂ければ分かるかと」


「ボー様は訓練中で今は里に居ない。それに!! 貴様の様な怪しい者を里に入れる訳ないだろう!!」


「怪しい??」


 先程、彼女達が見せてくれた同じ角度で首を傾げて問う。


「そ、そうよ!! 私達の背後を容易く取って。しかも!! よく見たら子供も背負っているじゃない!!」


 今も背負っているマイちゃんへ驚いた視線を送りそれから私に視線を戻した。


「昔取った杵柄という奴です。実力は大した事じゃありませんよ。ね??」


「ウゥ?? ン――……」

『あ?? それはどうだろう……』


 娘の納得いかない訝し気な声が届く。


「兎に角!! 会わせる訳にはいかない!! 帰ってくれ!!」


 そう言ってもなぁ。折角、彼女にお土産を買って来たのにこのままとんぼ返りってのも味気ないし。


「そうそう!! 怪しい人は近付けるなって命令ですからね!!」


「――――――――。怪しい人はここにも居るわよ――」


「「ダァワァァアアアアアア――――ッ!?!?!?!?」」


 今度は淫魔の女王のお茶目な攻撃が彼女達の心臓に多大なる損傷を与えた。



 彼女達は口から心臓が飛び出るんじゃ無いかと思わせる程の絶叫を上げて折角拾った武器をまた落としてしまった。


 陽動から生まれた隙を突く強襲。


 声に出さぬとも私達の息の合った攻撃に可愛い門番さん達は酷く混乱してしまっていた。



「さ、さっきからなんだ!?」


「やっほ――。私、淫魔って種族なんだけど。フェリスに用があるから入れてくれない??」


 慌てふためく彼女達に対してエルザードは特に悪びれる様子も無く答えた。


 もうちょっと慎みを持って挨拶をしなさいよ。


 まぁ……。私が言えた義理じゃ無いけど。


「い、淫魔ぁ!? 北に居る奴らがここへ一体何の用だ!?」


 何度も武器を拾わせて御免なさいね??


 彼氏の愚痴を零していた女性が武器を再び拾い、エルザードをキッと睨む。


「今言ったじゃない。耳、腐ってんの??」


 全くコイツは……。もう少し処世術ってのを学んで欲しいわね。


「はぁ!? 誰に言ってんのよ!?」


 ほら、こうなる。


「ま、まぁまぁ。この子はちょぉっと口が悪い子でして。根は腐っていますけど優しい子なんですよ??」


 慌てて二人の間に割って取り繕う。


「おい。腐ってって聞こえたわよ」


 細い指が私の背を突く。


「ふんっ。先程も言った通り、里へは入れない!! ほら、方向転換して帰りなさい!!」


 憤りをこれでもかと籠めた声を張り上げて里の反対側に指を差した。


 ん――。やっぱりこうなっちゃったか。さて、どうしたものか……。


 体の前で腕を組み次なる手を考えていると。




 私の背の肌が一斉に泡立った。




 へぇ…………。相変わらずの圧ね。


 己の力を隠す事無く寧ろ他人に認知させる為に誇示する。


 膨れ上がった猛々しい力の鼓動が空気を、そして大地を伝わって私の体の芯から揺るがした。


「あ――あ。鬱陶しい奴が先に来ちゃった」


 エルザードも既に彼の存在を察知したのか大きく溜息を漏らしてがっくりと肩を落としてしまった。



お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集及び執筆中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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