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お土産は定番よりも日常生活の足しになる物で

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 大人の人間一人がやっと歩ける狭い空間に体を無理矢理にも見える所作で捻じ込み、人の濁流に飲み込まれると同時に凄まじい熱気と熱波が体を襲う。


 私の体を穿つ熱い風は周囲を歩く人間達から発せられた熱量なのかそれとも。



「いらっしゃい!! 美味しいお肉は如何ですかね!?」


「うちのおにぎりは一線を画すよ!!!! 甘い米に塩が良く似合う、似合う!!」


 左右に展開する屋台群の店主達の口から放出されたものなのか。


 それは定かでは無いが私はこの濁流に乗った時点で押し寄せて来る熱量に参ってしまいそうであった。



『鬱陶しいわねぇ……。結界を張って歩き易い空間を作ってやろうかしら』


 私の友人もどうやら例に漏れなく辟易しているようで??


 私に近付くなと言わんばかりに険悪な表情を浮かべて濁流の中を歩いていた。


『まぁまぁ。偶にはいいじゃない。こうやって賑やかな場所を歩くってのも』


 彼女の憤怒は分からないでもないけど私の心は辟易よりも高揚がギリギリ勝っている。



 炭火で焼かれた肉が肉汁を滴らせそこから零れた肉汁が火の上で爆ぜて食欲を誘う香りを放ち。


 あまぁい小麦ちゃんの香りが肉汁さんの中にこっそりと隠れて私の手を取り、その香りを嗅ぐと私の食欲を駆り立ててしまい。お腹ちゃんがキュルリンっと可愛い音を立てて今直ぐに何かをお腹に入れる様に催促をしてしまった。


 うふっ、良い匂いっ。


 匂いだけで食欲が満たされちゃうかもと錯覚してしまう香りの数々が私の心の陽性な部分を刺激しつ続けていた。



『お腹空いたの??』


 呆れた声と笑みで私の横顔を見つめながらエルザードがそう話す。


『え、えぇ。まぁ……』


 朝御飯を食べてから何も食べていないし。ここでがっつりと腹ごしらえをするのも一考かしらね??


 視界の端で後方へと流れ行く魅惑的な屋台達に視線を送っていると、背中のお肉さんが突如として激しい動きを見せる。


「アァイ!! ンゥ!!」


『っと……。どうしたの?? マイちゃん??』


「ンッ!! ンンッ!!」

『あそこに寄れ!!』


 娘の小さな御手手がとある屋台に向かってブンブンと振られる。



『あのお店が気になるの?? えぇっと……。じゃがいも?? かしらね』


 私達の左斜め前。


 慎ましいお客さんの列が出来ている屋台を娘に催促されたままに見つめると、店主の手元には丸まるとお太りになられたじゃがいもさんが握られていた。


「いらっしゃい!! 新じゃがの季節ですよっ!! 蒸かしたお芋さんにぱぱっと塩をかけたらあら不思議!!!! ホクホクの実りを実感出来ますよ!!」


 へぇ、じゃがいもか。


 大地の息吹をこれでもかと蓄えたじゃがいもはさぞかし美味しいだろうな。


 それに、あの程度の装甲ならまだまだ歯が成長していない娘でも食べられるし。



『エルザード。あの屋台に寄っていい??』


『ん?? え――。じゃがいも――?? 私は甘い物が食べたいの』


『歩きながら探す前に先ずは腹ごしらえだって。それに、ほら。娘もあそこに行けって言っているし』


 今も急かす様に私の肩を真ん丸の手でポンポンと叩いている。


『それもそうか。と言うか、赤子が店を嗅ぎ分けるってちょっと凄くない??』


 そう言われて見れば……。


『ねぇ、マイちゃん。あのお店に狙いを定めたの??』


 娘が所望したお店へと進みながら背へ問う。


「ンッ!!」

『勿論よ!!』


 そう言わんばかりにきゅっと笑みを零してくれた。


『そうだってさ』


『うっそ――。どんだけ食欲旺盛なのよ』


 それは否定出来ないわね。



 恥ずかしくて友人達には言っていないけど平気で普通の赤子の二人前、三人前の御飯を食べちゃうし。


 食欲旺盛なのは喜ばしい事ではあるが……。多過ぎるのも問題よね。


 この小旅行を機会に沢山の食べ物を知って貰いたいと考えているけれども他の物を食べて太り過ぎないかしら??



『食べる子は育つって言うし。別にいいんじゃない??』


 屋台の前に出来ている慎ましい列の最後尾へと並んで彼女に話す。


『それはそうだけど……。食べ過ぎて吐いても知らないわよ――』


 エルザードが娘の頬をツンツンと突くが。


「オォ――……。ハワァァ……」

『おぉ……。すっげぇ……』


 娘の気持ちはもうあそこに見えるじゃがいもさんに釘付けになっているようで?? エルザードの攻撃を無視して煌びやかに光るお目目で私の肩越しにジャガイモさんへと視線を送っていた。


『あれまっ。無視されちゃった』


『あはっ。マイちゃん?? もう少しだから我慢してね??』


「ウゥ……」


 嘯く獣の声に酷似した呻き声を放ち食欲を誤魔化す様に私の肩を甘く食む。


『あはは!!!! フィロの肩は食べられないわよ!?』


『涎が付いちゃうから止めなさい』


 肩を揺するが娘の食欲は収まる事は無く列の長さに反比例してか。列が短くなるにつれて噛む強さが増していった。


「いらっしゃいませ!! 御幾つですか!?」


 待ち望んでいた先頭に漸く立つと軽快な声を上げた店主の気持ちの良い笑みが私達を迎えてくれる。


 汗で濡れたシャツに炭で汚れた額と頬。


 屋台の店主のあるべき姿に思わず私は頷いてしまう。そして、彼の問いに私は三本の指をそっと立てた。


「三つですね!! 毎度あり!!」


 にっと口角を上げて手際よくじゃがいもを紙袋に詰めて行くのだが……。


「アァ……。ウゥ……」

『は、早くして……』


 マイちゃんが食欲の権化に駆られたのか。私の右肩から正面を覗きそして店主の手が右側から見えなくなると左肩へと顔を移動する。


 忙しないわねぇ……。もうちょっと辛抱だから我慢なさい。


「はいよ!! お待たせ!! 三百ゴールドだよ!!」


 気持ちの良い笑みを浮かべる彼の手元に現金を渡して丸く膨れた紙袋を受け取ると列を離れて再び人の濁流と合流を果たした。



『おっ。良い匂いね』


 エルザードがスンスンと鼻をひくつかせて私の手元を見つめる。


『そうね。マイちゃんも匂い嗅ぐ??』


 紙袋を掲げて肩口に置くと。


「ラァイ!!!!」

『寄越せや!!!!』


「っと!!」


 強欲の手が現れて私の手から素早く袋を奪い去ろうと画策してしまった。


 危ない。危く紙袋如持っていかれそうだったわ……。


『はっや。どんだけお腹空いているのよ』


 一連の動きを見て隣のエルザードも目を見開く。


『食欲に関しては人一倍旺盛だからねぇ』


『ふふ。大人になったら、ここでずうっと食べていそうじゃない??』


『それは流石に…………。有り得るわね』



 深紅の髪を激しく揺らし、目尻をだらしなく垂れ下げてキラキラと輝く瞳を浮かべてこの屋台群の中を跋扈する。


 容易く想像出来てしまう姿になんだか気が抜けてしまった。



『阿保面浮かべて歩いていたら駄目だぞ――』


『阿保は余分よ。あ、丁度いいや。北大通りに抜ける道が見えて来たから一旦北に抜けて。道端のベンチで座りながら食べようか』


 人の波から垣間見えた北大通りへの抜け道を見つけて話す。


『はいは――い。こんな人波の中じゃ落ち着いて食べられないしね――』


 両者共に体を器用に動かして人の流れを断たぬ様に美しい軌道を描きながら北大通へと抜け出た。



 大勢の人の足が巻き上げた埃と大変食欲を刺激する煙の中から脱出すると建物と石畳の無機質な香りが心地良く鼻腔を抜けて肺へと届く。



『は――。広い空間がこうもありがたいとは』


 私と同じ気持ちを抱いているのかエルザードが両手をぐんっと縦に伸ばして複雑に絡まった筋線維を解き解す。


 その動作の途中で胸が縦にプルンっと揺れ動いたのは見なかった事にしましょう。


『ほら、ここ空いているわよ――』


『どうも――』


 北大通りの道端。


 屋台群を練り歩いた人達を癒す為に存在しているベンチの上にそっと腰を下ろした。


「マッ!! アァッ!!」

『それっ!! 早く!!!!』


 座って息を付く暇も無く拘束を解除した暴れん坊が私の太腿の上を四つ足で素早く移動し、エルザードとの間に置いてある紙袋を奪取しようと画策する。



『はぁい。アツアツだからマイちゃんにはまだ早いかなぁ』


 右手で紙袋を掴み上げて娘の手の届かぬ位置へと持ち上げてやった。


 全く、油断も隙もありゃしないんだから。


 エルザードが話した通り食欲に関しては人一倍よねぇ。


「ウヌヌゥ……」

『クソがぁ……』


 ギリリっと唇を食み手の届かぬ紙袋に視線を送り。


「オッ!! フフンゥ……」

『おぉ!! この手があったかぁ……』


 そして何かを思いついたのか。エルザードの体の上を小さな手を器用に動かし登って行く。


『ちょっと――。私、梯子じゃないんだけど??』


「ン――ッ!!」

『もうちょっと右!!』


 彼女の大きな胸を踏み台にして左肩に掴まりもう少し動けと左手でポンっと叩く。


 娘の可愛らしい姿を眺めて居たいけれどもこのままだと目立っちゃうから早速頂こうかしらね。


『ちょっと意地悪し過ぎちゃったかな。じゃあ食べようか』


 紙袋を膝元に置いて紙袋を開くと馨しい香りが風に乗って鼻腔へと届いた。


 わっ、良い匂い。


「ア――――ッ!!」

『私のぉぉおお!!』


 此方の所作を捉えた娘が目を疑う速さでエルザードの体を下山して私の膝元へと戻って来る。


『あのさぁ……。私の体、良い様に使ってくれたわね??』


「ン??」

『そうだっけ??』


 娘が若干呆れ顔を浮かべる淫魔の女王へと流し目で答えた。


『はぁ……。まぁ、いいわ。私は寛容なのよ』


『どの口が言うのよ。はい、あなたの』


 紙袋の中からホカホカのジャガイモを取り出してエルザードへと渡す。


『んっ、ど――も。お――。どこからどう見ても間違えようの無いジャガイモねぇ……』


 右手で受け取り様々な角度から見つめる。



 ジャガイモの芽はしっかりとくり抜かれ、親切にコトコトと蒸かした所為か指にそれ程の力を入れずとも綺麗に真っ二つに別れてくれた。



「ハワァ……」


 美しい乳白色が目立つ中身が御目見えすると同時に娘から感嘆の吐息が漏れる。



 その気持ちは分からないでもないわね。


 何人にも侵されざる領域とでも言えばいいのかしら。未踏の大地には誰一人の足跡も無く、私達に早くこの大地へと足を踏み込めと甘く囁く。


 白く揺らぐ蒸気が鼻腔に侵入して食欲という名の冒険心を更に高めてしまった。



『小さく千切ってあげるわね。――――。はいっ、あ――ん』

「ア――ンッ!!」


 ちっちゃな口がジャガイモを迎え入れると。


「ハラワァン……」

『美味しいぃ……』


 マイちゃんのモチモチの頬がぽぅっと朱に染まりこれでもかと口角が上向き、このジャガイモは大変美味しいと。言葉無くとも表情一つで私に伝えてくれた。



『たかがジャガイモ一つで大袈裟な顔しちゃってまぁ』


『私達大人は色んな経験をしたから驚きが少ないけど。娘はまだどれ一つとも経験した事がないのよ?? 大人から見れば砂粒程度の驚きも、娘にとっては不動の巨岩にも感じるの。こうした小さい経験の積み重ねが大人への階段に繋がるとでも言えばいいのしらね』



 私も幼い頃は小さな発見に大層驚いたものだ。


 近くの森で見つけた矮小な虫を見付けると飽きる迄眺め続け。派手な色が目立つ果実をもぎ取って口に含んで想像以上の渋みで顔を顰めた。


 見つめられ続けた虫はさぞかし迷惑だっただろう。自分の数百倍の大きさを誇る生物からじぃっと観察を続けられたのだから。



 地面の虫さんの一本一本の小さな足はどうやって動くのかな??


 小さな御口で何を食べているのかな?? お友達はいるのだろうか??



 たかが虫一匹に持つ好奇心では無いと、大人になった今では感じてしまう。


 それは……。私が小さな積み重ねを続けて大人になった証拠なんだろう。その驚きを持てない事はちょっとだけ悲しいけどね。



「ン――ッ!!」


 娘が私の裾をクイクイっと摘まんでお代わりの催促をする。


「え?? あぁ、お代わりね。はい、どうぞ」


「ハムッ!! ハムゥ!!」


 本当に美味しそうに食べるわね。


 大人の階段を登りつつある娘の姿にほっこりしていると、妙に耳に残る男性の声がこちらに届いた。



「いらっしゃいませ――!! この度新装開店致しました、パン屋のココナッツで――すっ!! 一度食べたら病みつき!! もう手が止まらない事間違い無し!! この北大通沿いで只今絶賛営業中です!!」


 パン、か。


『エルザード』


『ふぁにぃ??』


 細い顎で可愛くモクモクと咀嚼を続ける彼女がこちらを見る。


『フェリス達ってパン嫌いだっけ??』


『好き嫌いは聞いた事無いわね』


『そう。じゃあ、お土産に買って行こうか』


『お土産?? あ――。あの頑張って客引きしている人のお店に行きたいんだ』


 道の向かい側。


 馬車が通る広い通りを挟んでもこちらに届く声量を放つ男性を見つめて話した。


『そんなところ。病みつきってとこが気になってね?? 新しいお店らしいし、ちょっと寄ってみようかなぁって』


『何事も経験、よね??』


 そうそう。食べて見なきゃ分からないって事もあるでしょう??


 娘の初体験の姿を見たら私もちょっと刺激されちゃったのかしらね。


『そう言う訳で出発よ!!』


 ジャガイモ丸々一つを食べ終えた娘の体を器用に布で己の体に巻き付け、早速移動態勢を整える。



 そして紙袋から最後のジャガイモを取り出して御口へ迎えてあげた。


 んっ!! 美味しい!!


 丁度良い塩梅の塩がジャガイモのホクホクの実に溶け込み、舌の上で転がせば柔らかく実が綺麗に溶けてくれる。


 口内に生え揃う歯と酸いも甘いも嚙み分ける舌。


 その両方が大地の息吹に感謝の言葉を述べた。


 少々行儀が悪いとは思うけど、ジャガイモを齧りながら立つと隣の女王から呆れた声が届く。



『慌てて移動しなくてもいいのに』


『そうしたいのは山々なんだけど。今日中に帰ろうと考えているからさ、時間が無いのよ』


 右手に持つジャガイモさんを齧りつつ特に彼女へ視線を送らずに答える。



 それに……。私の目線は既に次の標的に向かっているからね。


 どこかしら?? 新装開店のパン屋さんは。


 ジャガイモが胃袋に届くとこれっぽっちでは足らぬ!! 更なる食物を余に捧げよ!! と。


 そんな風にお腹ちゃんがけたたましい雄叫びを上げているのだ。


 そんな自分の卑しい姿を二人に悟られまいとしてまばらな人の足並みに合わせた慎ましい速度で移動を開始した。




お疲れ様でした。


今日も本当に寒かったですよね……。早く温かくなれと思う一方、この季節の次にやって来るアイツ等の事を考えると少々億劫になります。


そう……。花粉という名の悪魔達ですよ。


あの悪魔さえいなければ温かくなって来た季節をのんびりと過ごせるのに。しかし、それも季節の風物詩と捉えれば幾分か憤りも収まる事でしょうね。



本編に付いて番外編でお礼を述べるのはお門違いですが、此処でお礼を述べさせて頂きます。


沢山の応援、そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!


本編に付いては現在も念入りにプロット執筆しておりますので第一部の最終章の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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